「本は脳を育てる」について
(教員の皆様へ)推薦文受付中です!
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本は脳を育てる ~北大教員による新入生への推薦図書~ 

この企画は、主に全学教育担当の先生方が、学生の皆様に読んでほしい本を選んで、 紹介文を執筆くださっているものです。推薦されている本はすべて図書館で借りることができますので、 ぜひ気に入った本を読んでみてください(視聴覚資料は館内のみでの利用となります)。
"HONWA-NOWO-SODATERU":Reading nourishes your brain! - Suggested readings for freshmen
University Professors in charge of liberal education have recommended these books for student, along with their introductory essays. Seize the opportunity and read them-they are here for your education.
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  1. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    いつの時代にも共通する「悶々」 
    恋愛論 / スタンダール. - 岩波書店 ,      北大ではどこにある?
    スタンダールの『恋愛論』と言えば、「結晶作用」や「恋愛の四分類」であまりにも有名であるが、これらのことばだけが一人歩きしてしまっている観がなきにしもあらずである。この本は、周知のようにスタンダール自身がある女性との恋愛に悶々としていた経験を下敷きにして、当時のヨーロッパの知識人の12世紀から18世紀にわたる古典的教養を背景として書かれた人間観察の集成と言えるものである。そこに描かれる様々な恋愛事情の「悶々」は、21世紀日本の我々には分かりにくい部分や、今なら御法度になる部分を含んではいるものの恋愛という経験について今なお教えてくれるところが多い。同時にこの本は、イタリアに恋い焦がれつつ母国フランスに対して屈折した思いを抱くスタンダールの自己分析の本とも言えるだろう。『赤と黒』などの小説と比べると、かなり鬱陶しい書き方になっているので多少の根気が必要かもしれないが、「古典」としての価値ある本である。

    登録日 : 2016-09-24
  2. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    今読まずにいつ読むか。 
    言論・出版の自由 / ジョン・ミルトン. - 岩波書店 , 2008     北大ではどこにある?
    つい最近、マスメディアに対する権力側の幾つかの横暴とも言える対応が報道された。報道機関やジャーナリストたちはそれなりに危機感を示しているもののいよいよ政治権力が牙をむき始めた、という慄然たる思いがする。大学に身を置く我々にとって大切な、日本国憲法で保障されている学問・良心の自由もいつ危うくなるか分からない。その前に読んでおくべきものとしてこの本を推薦しておく。

    登録日 : 2016-09-24
  3. 推薦者 : 小泉均  所属 : 工学研究院

    自分の「夢」とどう向き合うか 
    夢があふれる社会に希望はあるか / 児美川 孝一郎. - KKベストセラーズ , 2016     北大ではどこにある?
    キャリア教育の専門家が、[将来なりたい職業や成し遂げたい事などの]「夢」との付き合い方について述べている本である。著者は、「現在の日本社会は、『夢』をあおる社会であり、夢を持つことを強要する雰囲気を持った社会である。」ととらえている。そのような社会の中で、1)「夢」が見つからないとき、2)「夢」の実現を全力でめざしているとき、3)「夢」が実現できそうもないとわかったとき、どのように考え対処していったら良いか、キャリア教育や心理学などの研究成果にもとづき述べられている。

    「重要なのは、[夢が見つからなくても]思いつめたりすることなく、気軽に試行錯誤できること。」、「『夢』は固定的なものではなく、育ったり、育てたりできるもの」、「ピンポイントの仕事や職業だけを『夢』に指定して、『ハイ終わり』ではなくて、周辺の現実的な環境を調べてみたり、」自分がなぜそのような夢を持つようになったかを考えてみる、「『やりたいこと』が出てこないのであれば、今世の中が必要としている『やるべきこと』や、自分にできる『やれること』のほうから考えてみる」、など参考になりそうな考え方がたくさん示されている。

    卒業後の進路や将来の目標を考える時、ぜひ参考にしてほしい。

    登録日 : 2016-09-08
  4. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    物語はまだ終わらない。 
    水滸後伝 / 陳忱. - 平凡社 , 1966     北大ではどこにある?
    ここに推薦するのは、『水滸後伝』である。『水滸伝』ではない。まずその点を間違えないようにお願いしたい。『水滸伝』=本編を推薦していないのに『水滸後伝』=続編を推薦するのは無茶苦茶だという批判もあることは承知の上である。ましてや僕は、本編は横山光輝の漫画版で読んだ(だけな)ので、この推薦はなおさら無謀である。しかしそれでもなお推薦するには理由がある。一つには、大方の学生諸君は小説であれ漫画版であれ本編を読んでいる人は多いだろうと想像できること、二つには、続編という位置づけながらそれ自体でなかなか想像力に溢れた活劇として面白い、ということ、最後に、舞台が中国から一挙に東アジア全体に広がってスケールアップしていく点でさらに面白さが倍加しているということを挙げておく。概ねどんな作品でも続編はつまらなくなるというのが通り相場のような感はあるが、『水滸伝』に関しては『水滸後伝』だけでなくさらにそのまた続編も作られたりしていて、中国人の創作意欲をかき立てる魅力が受け継がれていることが分かるだろう。

    2006年には寺尾善雄訳の抄訳版も出たらしいので、機会があればそちらも読んでみるといいと思う。

    登録日 : 2016-08-22
  5. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    この難しい時代をどう生きるか 
    感情で釣られる人々 : なぜ理性は負け続けるのか / 堀内進之介. - 集英社 , 2016     北大ではどこにある?
    去年から書店の本棚に“反知性主義”ということばを含む表題の本が並ぶようになってきた。国内・国外にわたって難しい問題が山積し、それらに対する処方箋がなかなか見つからない中で人びとのある種のいらだちのようなものが確かに感じられるし、それが時としてこれまでの価値観に対する破れかぶれの破壊衝動のように見える場合もあって、そのようなことばが現代社会の懸念すべき問題として本の表題になることは理解できる。しかし、その一方で、問題のあり方が様々に複雑化・多様化している世界の状況を“反知性主義”という術語で語ろうとするのもある種の“メタ・反知性主義”ではないかという疑念も抱いていた。この本は、そうした疑念に直接的な回答を与えるものではないが、なぜそうした単純/単一のことばで世界が語られてしまうのかについて有益な示唆を与えるものである。読後感は決して明るいものにはならないが、この難しい時代をどう生きるかを真剣に考えようと思うなら一度読んでおいてもいいと思う。

    ちなみに、本文もさることながら「あとがき」には結構共感できる点がある。また、巻末の「読書案内-参考文献にかえて-」は、現代社会を考える上で必要な文献を網羅している好適なリストであり、(著者には怒られるかもしれないが)この部分だけでも読む価値がある。

    登録日 : 2016-08-20
  6. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    「男対女」の構図をいかに乗り越えるか 
    男子問題の時代?-錯綜するジェンダーと教育のポリティクス- / 多賀太. - 学文社 , 2016     北大ではどこにある?
    ジェンダー、あるいは男女平等/差別の問題が語られるときにほぼお決まりになっているパターンとして「男は支配する側、女は支配される側」あるいは「男は加害者、女は被害者」という言説がある。日本の社会のかなりの部分でそれは当てはまるのかもしれないが、僕はこの見方には強烈な反発を持っている。それは、“日本語教師”という「女性8割、男性2割」の業界で働いてきた経験から、女性が多数者側になれば「女性は加害者、男性は被害者」という事態も容易に出現することを知っているからである。そのような意味で日本のジェンダー研究はまだ色々なことを考え直さなければならないとずっと思っていたのだが、問題がそれだけではなく、一見支配する側/加害者と見える男性の中にも様々な男性がいてその間でさらに被害-加害、あるいは優位-劣位の構造があることをこの本を読んで初めて知った。

    著者の多賀氏は、こうした男性の内部に抱え込まれている問題に早くから目を向けて研究に取り組んできた研究者であり、この本は一見男性優位と見える社会の中にある複雑な関係を明らかにして、新たな研究と問題解決の方向を示そうとするものである。ジェンダーをめぐる問題に関心のある人に一読を勧めたい。ただ、この類の議論になれていない人は前半の理論的な問題設定が解りにくい場合もあるかもしれないので、そのときにはとりあえず第1章を読んでから現場の実例を検証した第5章に飛んで、それからまた2章に戻って読み直すと少し解りやすくなると思う。

    登録日 : 2016-08-15
  7. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    新たな歴史哲学を考える原点として 
    歴史における言葉と論理-歴史哲学基礎論- / 神川正彦. - 勁草書房 , 1970-1971     北大ではどこにある?
    この本については、少し過激な(?)推薦文を書きたい。

    先日、某大学(敢えて名は秘す)の日本現代(1950年代以降)哲学の授業のシラバスを見ていたら、そこで取り上げてられているのが大森莊藏、廣松渉、坂部恵であった。しかしこれでは、結局戦前は「京都学派」で、それが戦後になったら“東大”に変わっただけじゃないか、という印象を拭えない。日本の哲学というのは京大と東大の“官学アカデミズム”の中で選手交代をやっていただけだとしたらあまりにも悲しい。ここに推薦する神川正彦は、今はもう哲学専攻の学生でも名前を知らない人が多いかもしれないが、上記のお三方と比べても遜色のない哲学者だったと個人的には思っている。大森、廣松、坂部が全集や著作集を出せるなら、決して多作ではなかったにしても神川も著作集くらいは出版されて然るべきである。この本は、2巻で800ページを超える大作であり、読むのはとても骨が折れる(僕も読み終えるまで半年かかった)。しかし、戦後、「歴史哲学」という分野が少なくとも日本では-おそらくは戦時中の京都学派の歴史哲学がファシズム翼賛だと戦後になってマルクス主義の立場から激しく批判されたことを受けて-大きな主題になり得なかった時代に一人黙々とその課題に向き合って思索を続けた神川の哲学の意義はあらためて評価されるべきであると考える。この基礎があってこそ、1990年代以降野家啓一や大橋良介によって歴史哲学の再構築が始まったのであり、神川自身は歴史哲学からさらに歩を進めて比較文明学・価値哲学の壮大な体系構築を企図していった。その点でも今後の歴史哲学研究に与える示唆は少なくないと思われる。

    近年、日本の近代/現代哲学についての研究は盛んになりつつあるが、真に研究する価値のある哲学者が認められる時代が来ることを願って推薦した次第である。

    登録日 : 2016-08-13
  8. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    「承認」を切り口にして社会を考える 
    承認-社会哲学と社会政策の対話- / 田中拓道. - 法政大学出版局 , 2016     北大ではどこにある?
    「承認」というと堅苦しい響きがあるが、要するに「認めてくれ!」ということである。ではなぜある人びとやある問題が社会の中で認められていないのか、どのようにすればその問題にアプローチできるのか、といったことに気鋭の研究者たちが正面から取り組んだ労作である。その際の基本的視角となっているのは現代ドイツの哲学者アクセル・ホネットの“承認の哲学”と、それに関するナンシー・フレイザーとの論争である。決して易しくはないが、ここからさらに各自の関心に応じて(芋づる式に!)読書の範囲を広げ問題を整理することができるだろう。よく言われる「哲学が何の役に立つのか?」という問いに対する一つの答えの可能性としても読むことができる。

    登録日 : 2016-08-12
  9. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    古典と現代をつなぐ読み方を知る 
    社会契約論-ホッブズ、ヒューム、ルソー、ロールズ- / 重田園江. - 筑摩書房 , 2013     北大ではどこにある?
    高校の世界史や政治経済の授業で「社会契約論」という考え方を知ったときに感じたのは、ルソーにせよロックにせよなぜあの時代の西ヨーロッパの思想家がそういうことをわざわざ考えなければならなかったのか、という強烈な違和感だった。「社会」というものをみんなで作ろう(?)といった感じで最初に約束事をするという発想自体について行けなかったのである。実は今でもその違和感は抜けきらず、“起源”ということをやたらに理屈を付けて解き明かしたがる(そのくせ割合に最後は「神」が出現して一切が片付く)西欧の思想にとことん付き合いきれない思いがある。

    この本は、上記のような違和感を少しでも解消したいと思って読んだのだけれども、むしろ近世のホッブズから現代のロールズまで古典の中に盛り込まれた思想的問題が現代とどうつながるかを理解できる点で有益だった。著者自身が、古典的な「社会契約論」と現代のアクチュアルな問題がどこでつながるかを最後の最後でご自身の経験を踏まえて述べているのが特に重要な点である。

    しかし、それでもなお最後まで読んでみて上記の「なぜあの時代の西ヨーロッパの思想家が」という問いに対する答えはついに得られなかった。それが、筆者が哲学というものは特殊ヨーロッパ的な思惟だという知的自覚を欠いているせいなのか、僕の読み方が浅いのか、どちらに起因するのかはまだ分からない。そのような意味で繰り返し読んで考える必要のある本だとも思う。

    登録日 : 2016-08-07
  10. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    さらに一段上の文章表現力のために 
    論理が伝わる世界標準の「書く技術」-「パラグラフ・ライティング」入門- / 倉島保美. - 講談社 , 2012     北大ではどこにある?
    ここに何度か書いたことだが数年前から「一般教育演習(フレッシュマンセミナー)」で文章表現が苦手な学生のための日本語文章表現法の授業を展開してきた。ただ、色々と訳あってこの授業は今年度で終わりにすることにした。そこで、これに替わるものとして、また、“苦手”のレベルを脱した学生がさらに上のレベルの文章表現力を身につけてもらう上で参考にすることができるようにこの本を推薦しておく。この本は、それ自体が主題としている「パラグラフ・ライティング」によって書かれているので、技法と実例を同時に身につけることができる点で優れている。あとは練習あるのみ、である。

    登録日 : 2016-07-31
  11. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    戦後日本の思想の絡まりを解きほぐす 
    現代日本思想論-歴史意識とイデオロギー- / 安丸良夫. - 岩波書店 , 2004     北大ではどこにある?
    この本は、戦後日本の社会科学(主として政治学と歴史学)の中で誰がどのような議論を展開しそれが誰に受け継がれ誰に批判されその中からどのような議論が新たに形成されてきたかを論じる第一部と、戦後の主に海外の歴史学研究方法論、丸山眞男の思想史研究、そして著者自身の現代社会状況分析からなる第二部とに分かれている。読者の関心に応じて興味を引かれる部分は異なると思うが、特に第一部は戦後の社会科学研究の“思想地図”といった内容になっており、広く日本の戦後政治や思想を学ぶ上での基本的な知識を提供してくれている。これらの方面に関心のある学生に一読を勧めたい。

    登録日 : 2016-07-29
  12. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    歴史学者とはどのような人々か 
    昭和史学史ノート-歴史学の発想- / 斉藤孝. - 小学館 , 1984     北大ではどこにある?
    歴史学者が歴史研究を行ったり歴史書を書いたりするときには当然その歴史観が反映される。史学史とはそうした歴史観や歴史記述の態度・意識の歴史である。この本では、具体的な個々の(主に昭和戦前・戦中期の)歴史学者を取り上げて通観することによって昭和の歴史研究がどのようなものであったかを示そうとするものである。歴史に興味のある学生、歴史学者の仕事を覗いてみたい学生、昭和時代を何らかの学問の研究対象としたい学生にお勧めする。

    登録日 : 2016-07-29
  13. 推薦者 : 河合剛  所属 : メディア・コミュニケーション研究院

    温故知新 
    写真で辿る小樽 明治・大正・昭和 / 佐藤 圭樹. - 北海道新聞社 , 2014     北大ではどこにある?
    懐古趣味の写真アルバムが多いなかで、本書は当時の世相・経済事情・生活様式を詳述している。優れた時代ドキュメンタリー。小樽の歴史を学び、未来を創出したいなら必読。

    登録日 : 2016-06-27
  14. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    数学界に革命をもたらした「不完全性定理」とは何か 
    ゲーデルは何を証明したか-数学から超数学へ- / E.ナーゲル&J.R.ニューマン. - 白揚社 , 1999     北大ではどこにある?
    この本は、1968年に『数学から超数学へ : ゲーデルの証明』というタイトルで出された本の新装版である(原著は1958年!)。「ゲーデルの不完全性定理」というのを聞いたことがある人は、理数系でなければ必ずしも多くはないかもしれないが、「アインシュタインの相対性理論」や「ハイゼンベルクの不確定性原理」にも比するべき、数学に大転換を迫った原理である。この本は、その決して易しくはない「不完全性定理」をできる限りわかりやすく解きほぐして説明しようとするものであり、理数系の学生のみでなく論理学や数学的証明といったことに関心のある文系学生も努力すればなんとか理解できるようなレベルまでは引っ張り上げてくれるものである。この本を、大学院生時代に読んだときの経験から言うと、「リシャール数」という概念が出てくるあたりが文系の学生には最も分かりにくい一つの難所で、ここを粘り強く考えて読み通せばあとはそれなりになんとか最後までたどり着けるというのが、実際に読んで得た感想である。一度で分かろうとする必要はないのでゆっくり考えながら読んでいってもらえればと思う。この本を通して数学基礎論の奥行きと面白さが感じられたらさらに廣瀬健・横田一正『ゲーデルの世界』(海鳴社)なども読んでみることを勧めたい。

    登録日 : 2016-06-27
  15. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    「辞書にはドラマがある」 
    <辞書屋>列伝-言葉に憑かれた人びと- / 田澤耕. - 中央公論新社 , 2014     北大ではどこにある?
    以前の推薦文に、最近岩波新書(新赤版)がつまらなくなってきた、と書いたが、最近の新書(岩波に限らない)ときたら、もう池上彰、佐藤優、島田裕巳、内田樹ばかり目立つ(少し前ならこれに香山リカも入っていた)。商業的に売れる本を書きたいというのは出版社の本音だろうし、若者の読書離れなどということも言われる中で出版社の新書編集部も大変だろうなぁとは思うが、こうも顔ぶれが変わらないと彼らの熱烈なファンでない限り購買意欲が逆にそがれてしまう。それにしても、この四人はよくも新書の大量執筆ができるもので、その点はうらやましい限りである。

    閑話休題、ここに推薦する新書は、研究上の必要から照井亮次郎という人物のことを追いかけていたときに見つけたものであるが、照井に関する章だけでなく、その他の章でも辞書作りに執念を燃やした人物たちのあまりにも面白く波瀾万丈な物語に引き込まれ、最後まで読み通してしまった。推薦文の「辞書にはドラマがある」というのは、著者の田澤氏が「まえがき」の冒頭に掲げていることばであるが、この本でその言わんとするところを読み取ってみてほしい。田澤氏は、なぜ「辞書編纂者」ではなく「辞書屋」ということばを使ったのかも「まえがき」で明らかにしているが、この本を読めば、その理由に深く納得できるだろう。「終章」には、田澤氏自身のドラマも書かれている。いつか北大からも「辞書屋」になってその人なりのドラマを演じる人間が出るかもしれない。推薦者としてはそれも楽しみなことである。

    登録日 : 2016-06-19
  16. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    私もプロレスの味方です。 
    新日本プロレス12人の怪人 / 門馬忠雄. - 文藝春秋社 , 2012     北大ではどこにある?
    この推薦図書の表題を見て目をむいたそこのあなた、附属図書館の蔵書検索欄に「プロレス」と入力してみるとよい。北大附属図書館には、プロレス関連図書が結構色々あるのだ。つい先日出たばかりの三田佐代子『プロレスという生き方』(中公新書ラクレ)も図書館は入れてくれた。ずっとお堅い本ばかり推薦してきていい加減疲れたというのもあるのだが、プロレスというのは最高のエンターテインメント(の一つ)であって、それについて知ることは自分の世界を広げることになると思い推薦することにした。この本は新日本プロレス(という団体)を中心にして書かれており、既に現役を退いて古希を過ぎても今なお様々な話題を提供し続ける“燃える闘魂”アントニオ猪木から、現役バリバリの棚橋弘至まで12人のプロレスラーの人物像とファイトと、プロレス団体の離合集散を取り上げている。それは、同時にまた僕にとっては小中学生時代、休み時間になると教室の後ろや廊下でいかにしてザ・デストロイヤーの四の字固めや猪木の卍固め、果てはビル・ロビンソンの“人間風車”まで格好良く決めるかに熱中していた同時代の歴史でもある。(ちなみに“人間風車”はリングではない教室の床でやったら大けがをするので実際に決めた奴はいなかった。) 勉強に疲れたらたまにはこういった本も読んでみてはいかがだろうか。

    なお、推薦文に書いた「私もプロレスの味方です。」は、村松友視さんの『私、プロレスの味方です』(角川文庫)-これも図書館にある-を拝借したものであることを付言しておく。

    登録日 : 2016-06-01
  17. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    あなたの知らないディープな大学図書館 
    変わりゆく大学図書館 / 逸村裕・竹内比呂也. - 勁草書房 , 2005     北大ではどこにある?
    北大図書館を頻繁に利用する人や図書館ウェブサイトをよく見る人の中でどのくらいの人が図書館トップページの一番右にある「附属図書館について」を見ているだろうか。図書館ホームページの中で蔵書検索やお知らせと同じくらい閲覧されていいページはこの「附属図書館について」の中にある様々な情報だと思う。それほど更新頻度が高いわけではないが、図書館がどのように北大の研究・教育活動に貢献しているか、そのために職員の方々がどのような仕事をしていらっしゃるかがよく分かる。時間があるときには是非見てほしい。それと関連してここに推薦する本は、大学図書館の現状を理解し、同時によりよく活用する指針を与えてくれる本である。それだけでなく、この本を推薦する意図として、“図書館で働く”ということを将来の人生の選択肢に入れる可能性を考えてみてはどうかと読者に呼びかけることも含んでいる。利用者としての目線だけでなく、運営者としての観点を持つことは、図書館を職場として選ぶことがなくても、図書館との関わり方に新しい方向を開くものであると思う。図書館を利用している人に広く読んでほしいと思いここに推薦する。

    なお、上記の図書館ホームページの「附属図書館について」の中の「採用情報」にある「北海道大学附属図書館の『ひと』と『しごと』」も是非読んでほしい。普段はあまり表から見えないところで働くスタッフの姿が分かる魅力に溢れたページである。

    登録日 : 2016-05-26
  18. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    現代アラブ文学への扉 
    バイナル・カスライン / ナギーブ・マフフーズ. - 河出書房新社 , 1988     北大ではどこにある?
    『千夜一夜物語』以外でアラブ文学を読んだという人は、おそらくごく少数だろう。現代アラブ文学と聞いてもおそらく作家名もイメージも思い浮かばないと思う。かく述べる僕自身も、自分がエジプトに赴任するまでそれらについては全く知らなかった。ここに挙げる『バイナル・カスライン』とその著者ナギーブ・マフフーズについてもエジプトに行ってから周囲の同僚や学生たちに教えられて知ったのだが、その当時既にこの本を含む「現代アラブ小説全集」は刊行されていた。マフフーズは、アラブ世界初のノーベル文学賞受賞者(1988年)であり、僕がカイロにいたときにはまだ存命していて新聞に精力的にコラムなどを書いていた。

    この小説は、現在世界遺産になっているカイロ旧市街(イスラミック・カイロとも言われている)のバイナル・カスライン通りに住む商店主のアフマドとその妻、3人の息子、2人の娘の家族の生き方を描きつつそこにサアド・ザグルールとワフド党のエジプト独立運動という1917年前後の激動の歴史を絡めた大河小説である。家庭内では厳格に家族の上に君臨する父親でありながら裏では女遊びがやめられない因業なアフマドと、その夫にひたすら仕える後妻、反発しつつも父親と同じような人生を歩んでしまう長男、エジプト独立運動に身を投じる次男、エジプトを統治するイギリス人との間に友情を芽生えさせる利発な三男、そして娘たち、周囲の人々の運命が絡まり合いエジプト独立運動を背景に一気に結末へと突き進んでいく。上下二巻の大冊であり、最初のうちは、くどくどしいとさえ思われる心理描写や比喩に読みづらさを感じるかもしれないが、下巻に入ってサアド・ザグルールがエジプト独立を要求するあたりからストーリーは急展開しはじめ、読むのがやめられなくなるだろう。訳者の塙治夫氏は今年亡くなられたが、生前のインタビューでこの翻訳に対する日本人読者の反応について「一言でいえば『失望』です。」と慨嘆していらした。本当にそうした反応しか得られない作品であるかどうか是非読んで確かめられたい。この作品は、読者をマフフーズだけでなく現代アラブ文学に誘う扉となると信じている。

    なお、この標題となっている「バイナル・カスライン」通りは現在ではムイッズ通りという名前に変わっていて、世界遺産登録後は観光地区としてかなり整備されたらしいが、僕が行ったときには古い街並みの中に生活感とエネルギーが渦巻くわくわくするようなエリアだった。もしカイロを訪れる機会があったら足を運んでみることをお勧めする。

    登録日 : 2016-05-23
  19. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    現代哲学の源流をたどる 
    人間知性の探究・情念論 / デイヴィッド・ヒューム. - 晢書房 , 1990     北大ではどこにある?
    現代哲学、あるいは哲学史に於ける「現代」というのがなに/いつを指すのかは色々議論があるであろうけれども、(ニーチェを別にすれば)20世紀以降の西洋哲学のかなりの部分が目指そうとしたことは、ヒュームの哲学を練り直し、彼が問題としてことを問い直して現代に甦らせようとすることだったと言って良い。(例えば、ジョン・デューイはそのことをはっきりと述べている。) ヒュームは、哲学史の教科書的に言えば、懐疑論者でありイギリス経験論の完成者であるなどと言われるが、-そう見ることも可能であるとしても-彼が目指したのは日常的な経験をいかに概念化して人間の知識形成の方法的基盤とするかということであったのであり、この本の中で試みられている様々な思考実験を読むとヒュームがいかに丹念に人間の知識のあり方とその限界を考え抜こうとしていたかが分かる。使われている概念の理解に多少手こずることはあっても考えながら読んでいただくことをお勧めしたい。ここから現代の様々な哲学的思惟(日本の近代哲学なども)を理解する手がかりが得られると思う。

    登録日 : 2016-05-23
  20. 推薦者 : 中村重穂  所属 : 留学生センター

    「馬鹿ばかしさのまっただ中で犬死しないための方法」とは何か? 
    赤頭巾ちゃん気をつけて / 庄司薫. - 新潮社 , 2012     北大ではどこにある?
    この小説は、一時期多くの読者の心を捉え、近年また出版社を替えて文庫化されるほどに読み継がれてきた名作である。大学紛争(と言ってももう知識としてしか知らない学生ばかりだろうが)で1969年度の東大入試が中止になるという時代背景の中、東京都立日比谷高校3年生の「庄司薫」君の饒舌的で独白的な文体を軸に綴られたこの作品を高校時代に最初に読んだとき、僕は作者が本当に日比谷高校3年生ではないかと思ったほどである。著者の庄司氏と僕はちょうど20歳の年齢差があるが、僕自身―全盛期末期か凋落期かの違いはあれど―都立高校に在籍し卒業した者として主人公の「薫」君にもの凄く感情移入してしまい、ついに日比谷高校を見物(?)しに行ったのを覚えている(僕は学区が違ったので日比谷高校は受験できなかった)。

    特にこの本に影響を受けたのは、主人公の兄が書いた「変てこな本」、『馬鹿ばかしさのまっただ中で犬死しないための方法序説』に出てくる「どうでもいいことから逃げて逃げて逃げまくる」という“思想”で、主人公の「薫」君はこの“思想”をどう実践するかに悩みつつ自分のあり方を模索していくのだが、僕も僕なりにこの“思想”を実践してみようと色々試みたことがあるし、今でも時々日常がしんどくなるとこのことばを思い出すことがある。その意味で、僕にとっては忘れられない作品であり、既に読んだ人にも新しい読み方の可能性を探してもらえればと思うし、まだ読んでいない人には新しい読書体験となるであろうと思い、推薦することにした。この本が文庫化されたとき(だったと思うが)に著者は「四半世紀たってのあとがき」を書いているが、今回2012年の新潮文庫での刊行に際しては「あわや半世紀のあとがき」を書いている。是非味読してほしい。

    ただ、余計事を書くと、新潮文庫の解説を書いている苅部直氏(この作品の中でネタにされている筑波大学―当時は東京教育大学―附属高校の卒業生)は、「六九年当時の風俗を示す言葉については、調べれば簡単にわかるだろうし、意味を取れなくても物語の理解に大きな支障はない。」と書いているが、あの時代をリアルタイムで生きて、同じ都立高校を卒業した僕は、いくらWikipediaがあると言ってもやはりそろそろこの本にも親切な「注」が必要なのかもしれないと思っており、その点苅部氏との温度差を感じてもいる。

    思い入れが強すぎて推薦文が思わぬ長文になってしまった。ご容赦いただきたい。


    登録日 : 2016-05-15

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