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推薦者 : 山口 良文 (低温科学研究所・教員)
生物学の世紀の来し方行く末
ハエ・マウス・ヒト / フランソワ・ジャコブ. - みすず書房, 2000 北大ではどこにある?
分子生物学の黎明期にオペロン説の提唱によりノーベル医学生理学賞を受賞したフランソワ・ジャコブが、現代生物学が辿ってきた道を解説するとともに、彼自身の科学哲学や、科学と政治・社会の関係性についても織り交ぜながら解説した本。
私自身は大学院生時代にこの本に出会い、自身の将来の研究の方向性について思案を深めることができました。いまでもバイブル的に時折読み返しています。
本著が世に出てすでに20年以上、遺伝子の世紀と言われた20世紀後半は過ぎ去り、21世紀に入ってもなお生物学研究は新しい方法論が次々と登場しますます加速しています。著者が本... [続きを読む] -
推薦者 : 山口 良文 (低温科学研究所・教員)
冬眠の謎にワクワク
冬眠の謎を解く / 近藤宣昭. - 岩波書店, 2010 北大ではどこにある?
哺乳類の冬眠は、わたしたちヒトや他の冬眠しない哺乳類なら死んでしまうような低体温下で長期間の生存を可能とする、ある意味究極の生存戦略のひとつです。
本著は、シマリスを用いて冬眠の謎に迫った孤高の科学者・近藤宣昭博士による、ご自身の研究録です。実は近藤博士の一連の研究の面白さに私は惹きつけられて冬眠研究をはじめた経緯があり、まさに私の人生を変えた研究です。とはいえこの本は過度に専門的すぎず、実験科学研究がどのような考え方のもと進むのか、専門外の人間でもワクワクしながら読み進められる構成となっています。
将来科学者を目指す若者... [続きを読む] -
推薦者 : 山口 良文 (低温科学研究所・教員)
今の時代にこそあらためて
夜と霧 / ヴィクトール・E・フランクル. - みすず書房, 2002 北大ではどこにある?
ナチス・ドイツによる強制収容所生活を生き延びた精神科医フランクルによる、その体験と分析記録。ここで改めて紹介するまでもなく色々なところで紹介されている名著ですが、まだこちらのリストにはないようだったので挙げておきます。
生命の危機どころか生きる意欲をも見失うような極限状態に置かれたとき、人はどのように振る舞うのか。そして、そこをどう乗り越えるのか。この究極的な問に対する箴言の数々がのっています。
”「生きていることにもうなんにも期待がもてない」こんな言葉にたいして、いったいどう応えたらいいのだろう。
ここで必要なのは、生きる... [続きを読む] -
推薦者 : 和多 和宏 (理学研究院・教員)
進化を実験する
生命の歴史は繰り返すのか? : 進化の偶然と必然のナゾに実験で挑む / ジョナサン・B・ロソス著 ; 的場知之訳. - 化学同人, 2019 北大ではどこにある?
私は中学生のとき、古墳時代を研究する考古学者になりたいと思っていた。中学校の郷土部という文化系クラブに所属していて、調査研究というものをはじめて体験した影響も強かったと思う。しかし、歴史を研究することの難しさというか、歯がゆさに気がついた。歴史の一回性、再現検証の問題である。人と人、文化と文化の交流など、そのとき、その場で起こったことにゆえに歴史が形成される。その時間の流れを後世になって、あれこれ推測して精度・深度を上げても、いつまでも「多分そうだったのだろう」ということしか言えないだろう、それをもって自分が分かったと納得で... [続きを読む] -
推薦者 : 和多 和宏 (理学研究院・教員)
ノーベル賞を取った人の半分はその先生もノーベル賞を取っている
メンター・チェーン : ノーベル賞科学者の師弟の絆 / ロバート・カニーゲル著 ; 熊倉鴻之助訳. - 工作舎, 2020 北大ではどこにある?
自分の経験からも、これまで行ってきた研究や自分の研究室を運営するなかで、自分がとってきた行動・決断は、確かにこれまでに自分が所属してきた研究室及び、ここでいう研究の師匠(メンター)の影響を間違いなく受けている。
落語の世界では、「師匠選びも芸のうち」という。これは、研究の世界でも指導教官を選ぶ際に通じるところがあると思う。これから自分が入る研究室を選ぶ前に、この本を一度読んでみると何か違う視点を得れるかもしれない。 -
推薦者 : 和多 和宏 (理学研究院・教員)
神経科学に基づいた教育
脳はこうして学ぶ : 学習の神経科学と教育の未来 / スタニスラス・ドゥアンヌ著 ; 松浦俊輔訳. - 森北出版, 2021 北大ではどこにある?
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推薦者 : 和多 和宏 (理学研究院・教員)
スポーツ能力を遺伝と環境の観点から考える
スポーツ遺伝子は勝者を決めるか? : アスリートの科学 / デイヴィッド・エプスタイン著 ; 川又政治訳. - 早川書房, 2014 北大ではどこにある?
小学校・中学校の体育の時間で、自分をふくめた同級生の運動能力の違いって何だろうと考えなかっただろうか?なぜ自分は運動会の駆けっこでいつも一番になれないのだろうと思わなかっただろうか?自分がもし、小さいころから毎日10Km走り続けていたら、オリンピックのマラソン選手になっていただろうか? 運動は紛れもなく生物としての表現型の一つである。ということは、遺伝と環境の両方の影響を受けるはずである。具体的にどのように影響を受けるのか? どうぞ読んでみてください。そして考えてみてください -
推薦者 : 畠山 美緒 (事務局・職員)
謎解き青春図書室ミステリー
本と鍵の季節 / 米澤穂信. - 集英社, 2021 北大ではどこにある?
堀川次郎、高校二年で図書委員。不人気な図書室で同じ委員会の松倉詩門と当番を務めている。
開かずの金庫、テスト問題の窃盗、亡くなった先輩が読んだ最後の本──
図書室に持ち込まれる謎に男子2人が挑む、謎解き青春図書室ミステリーである。 -
推薦者 : 畠山 美緒 (事務局・職員)
スクールカーストの実態とは。
石黒くんに春は来ない / 武田綾乃. - 幻冬舎文庫, 2019 北大ではどこにある?
スキー教室が開催されている最中、石黒くんが意識不明の重体で発見された。学校の女王・京香に告白し振られ、クラス全員に失恋をバラされたショックによる自殺未遂かと思われた。しかし、学校は一貫して無視。だが半年後、名ばかりの偽善グループライン「石黒くんを待つ会」に、病院で眠り続けているはずの本人が参加し大混乱に陥る。一体どういうことなのか??
弱肉強食だった教室の生態系が崩れ出す。スクールカーストの実態を体感せよ! -
推薦者 : 畠山 美緒 (事務局・職員)
貧困女子のリアルとは―――
神さまを待っている / 畑野智美. - 文藝春秋, 2018 北大ではどこにある?
大晦日、ホームレスになった―――
文房具メーカーで派遣社員として働く四大卒の女性・二十六歳の水越愛。
派遣期間の終了とともに正社員になるはずだったが、会社の業績悪化で職を失 う。正社員雇用を目指して必死に求職活動をするが、うまくいかずホームレスに なってしまう。
漫画喫茶に寝泊まりしながら日雇いの仕事でお金を稼ぐ日々。そんなある日、漫 画喫茶で出会った女性から「出会い喫茶」の勧誘を受ける―――
コロナ禍の今、ぜひ手に取ってみて欲しい小説だ。 -
推薦者 : 畠山 美緒 (事務局・職員)
少女の死が語るものとは―――
その日、朱音は空を飛んだ / 武田綾乃. - 幻冬舎文庫, 2021 北大ではどこにある?
ひとりの少女が、学校の屋上から飛び降りた―――読者に衝撃的な事実を突きつけるところから、物語は始まる。彼女の名前は川崎 朱音(かわさき あかね)。彼女はなぜ空を飛んだのか。彼女の身に一体何があったのか。
それを解き明かすは、彼女を取り巻く6人の生徒たち、そして朱音本人である。
各章の冒頭には、学校から配られたいじめに関するアンケートが掲載されており、その回答者のフィルターを通して、朱音との関係や彼らの日常が語られていく。教室という空間をさまざまな角度から照らすことで、彼らのいびつな関係性が徐々に明らかになる。少女の死が浮き彫りに... [続きを読む] -
推薦者 : 畠山 美緒 (事務局・職員)
ほろ苦い青春を刮目せよ!!
青い春を数えて / 武田綾乃. - 講談社文庫, 2021 北大ではどこにある?
理想と現実の狭間で揺れる“もう子供じゃいられない”、そんな5人の女子高校生が主人公の連作短編集です。
NHKのコンテストを目指す放送部の物語。エース女子部員の有紗と、あることをきっかけに消極的になってしまった知咲。二人の間の溝は深まるばかり。しかし、そこに純粋な新入部員の唯奈が現れる―――白線と一歩。
無駄なことはしたくない帰宅部、菜奈。受験に関係のない科目は勉強しないため、いつも一人で生物の補習を受けている。しかし、今回は何故か学年トップクラスの長谷部がいるではないか??彼は、放送部の知咲に感化され、あることを検証しているのだ... [続きを読む] -
推薦者 : 笠井 亮秀 (水産科学研究院・教員)
雨はどうやってできるの?
雨はどのような一生を送るのか / 三隅良平. - ベレ出版, 2017 北大ではどこにある?
誰しも一度は「雨はどうやってできるの?」という素朴な疑問を抱いたことがあるだろう。本書は,雨のでき方から地上に降り注ぎ,その後地中や河川などでどのように水がふるまうのかが,丁寧に書かれている。
読後は,きっと,これまでのモヤモヤが晴れるに違いない。 -
推薦者 : 笠井 亮秀 (水産科学研究院・教員)
自分の身近な場所ではどのような気象災害が起きるのか?
47都道府県 知っておきたい気象・気象災害がわかる事典 / 三隅良平. - ベレ出版, 2020 北大ではどこにある?
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推薦者 : 鈴木 孝紀 (理学研究院・教員)
『種の起源』の全体像がわかり易い
若い読者のための『種の起源』 : 入門生物学 / チャールズ・ダーウィン著 ; レベッカ・ステフォフ編著 ; 鳥見真生訳. - あすなろ書房, 2019 北大ではどこにある?
生物学を専門としようとする人以外でも、理系学生ならば一度は読んでみたい名著『種の起源』。実際に挑戦すると、かなり長くて文章も判り難いため、挫折する人が多いようです。ボリュームが圧縮されたこのコンパクト版では、どのようにして進化論が生まれたのかというダーウィンの思考過程を容易に理解することができるでしょう。
エピジェネティクスなどの最新の考え方もコラムで紹介されており、進化論の動向を感じることもできます。また、自宅でたくさんの鳩を飼育してデータを収集したり、ランプの下で羽ペンで執筆したり、という当時のダーウィンの姿を思い描いて... [続きを読む] -
推薦者 : 松本 伊智朗 (教育学研究院・教員)
教育学の面白さを伝えたい
ともに生きるための教育学へのレッスン / 北海道大学教育学部他編. - 明石書店, 2019 北大ではどこにある?
北大教育学部に所属する教員が、それぞれの研究テーマにもとづいて初学者向けに執筆した40の論考です。「こころと身体」「学びと教育」「社会と文化」の3つの領域で編集され、「教育」の研究の領域や方法がイメージできます。各教員が推薦するブックガイドも掲載されており、以後の学習に有益です。教育学部のほぼすべての教員が執筆しているので、学部の研究内容のガイド本としても役立ちます。 -
推薦者 : 朝倉 清高 (触媒科学研究所・教員)
理系も文系もとにかく一読する。
Homo Deus : A Brief History of Tomorrow / Yuval Noah Harari. - Vintage, 2017 北大ではどこにある?
今、AI、深層学習といったことが話題になっている。それを単に便利な道具と考えているかもしれません。しかし、本書は農業革命、産業革命に匹敵する情報革命という社会の大革命としてとらえ、“人類”の置かれた立場を考えさせる本です。
“Homo Sapiens will vanish”(p443) ということも言っています。皆さんが自分の未来を思い描くときに参考になると思います。
邦文もありますので、そちらで読まれるとよいかもしれません。
ホモ・デウス : テクノロジーとサピエンスの未来 / ユヴァル・ノア・ハラリ著 ; 柴... [続きを読む] -
推薦者 : 河合 剛 (外国語教育センター・教員)
国策教育の破綻
検証 迷走する英語入試――スピーキング導入と民間委託 / 南風原 朝和. - 岩波書店, 2018 北大ではどこにある?
本書は大学入試における英語科目について述べているけれども、論理はさまざまな選考に適用できるので、諸君が将来人選するときに参考になろう。
英語を読む・書く・聞く・話す能力(4技能)を高校で教えさせるため、大学入試に出題せよと文部科学省が命じた。試験の問題を作ったり、試験を実施したりするのは試験をなりわいとするプロにまかせろとの命令である。
試験とは能力を測る道具。どのような能力を身につけるのが望ましいのだろうか。
使える・通じる能力を求めるならば(自動車の運転免許のように)能力の閾値を上回れば合格(もしかすると全員入学... [続きを読む] -
推薦者 : 河合 剛 (外国語教育センター・教員)
福島事故の隠蔽も似ている
Midnight in Chernobyl: The Untold Story of the World's Greatest Nuclear Disaster / Adam Higginbotham. - Simon & Schuster, 2019 北大ではどこにある?
旧ソ連の秘密主義・隠蔽体質・国民軽視は為政者の権力維持・自己防衛が動機だったと考えられる。わが国の福島原発事故後の報道沈黙と東京電力経営者の責任回避も類似した動機に基づくかもしれない。西側職は、なまじ自由主義を標榜するあまり、マスコミや財界の中理性・信憑性が高いと誤解されやすい。
本書はチェルノブイリ原発事故の背景と経緯を記している。読者諸賢におかれては、事故の過程を技術と政策の両面から知り、わが国で起きた複数の原発事故をどのように報道すべきかを判断していただきたい。
書評が下記に。
https://www.nytimes.com/2019/02/06/books/review-midn... [続きを読む] -
推薦者 : 小林 和也 (高等教育推進機構オープンエデュケーションセンター・教員)
図書館の役割と人文学の勝利
図書館大戦争 / ミハイル・エリザーロフ. - 河出書房新社, 2015 北大ではどこにある?
「理系」が英語で論文書いているのに、「文系」は英語も碌に書けやしないなんて酷い悪口があったものですが、そんな時にはロシア語はできますかと聞き返しましょう(私はロシア語できません)。「理系/文系」なんておかしな二分法を用いてマウントしてくる人もまた碌な人はおりませんが、人文学部廃止なんて物騒な噂もあり、将来に不安を抱えている学生さんもいるかもしれません。しかしそんなことは杞憂に過ぎないのです。もし不安であれば、それはあなたの人生にまだ「意味が生まれていない」からなのです。これは危険なカルトへの誘いでしょうか。違います。文学はカル... [続きを読む] -
推薦者 : 河合 剛 (外国語教育センター・教員)
「つい最近」を体験する
海峡の鉄路青函連絡船 : 110年の軌跡と記憶 / 原田伸一. - 北海道新聞社, 2018 北大ではどこにある?
函館キャンパスの諸君はもちろん、札幌キャンパスの諸君も青函連絡船の役割を知るのは大切な素養。写真たっぷり、じっくり楽しめる。
函館駅から徒歩数分に青函連絡船「摩周丸」が展示されている。本書を読みつつ船を巡ると時代の変遷がわかる。 -
推薦者 : 河合 剛 (外国語教育センター・教員)
札幌の変貌を学び、未来を知る
定山渓鉄道 / 久保ヒデキ. - 北海道新聞社, 2018 北大ではどこにある?
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推薦者 : 小林 和也 (高等教育推進機構オープンエデュケーションセンター・職員)
北大図書館に眠る財宝
四季・ユートピアノ (DVD) / 佐々木昭一郎. - NHKサービスセンター, 1986 北大ではどこにある?
佐々木昭一郎という偉大なる映像作家の作品は、テレビドラマであったということが災いし、ほとんどソフト化されていない状況です。しかしなんと我らが北大図書館には『四季・ユートピアノ』のVHSがあるではありませんか。 映画は映像、イメージです。だからこの映画について抽象された物語の部分を伝えても何の意味もありません。家族は主人公榮子を置いて皆死んでしまいます。彼女は貧困の中で育ちますが、ピアノの調律師となります。多くの出会いがあり訣れがあります。でも映画は少しも暗くありません。彼女は「音の日記」をつけています。最初に聞こえた音の記憶か... [続きを読む] -
推薦者 : 河合 剛 (外国語教育センター・教員)
平城京遺跡を専属ガイドつきで回る気分
平城京一三〇〇年「全検証」 : 奈良の都を木簡からよみ解く / 渡辺 晃宏. - 柏書房, 2010 北大ではどこにある?
博物館・美術館を訪れると展示物よりも説明文に目が向いてしまう私は、文章による解説が不可欠と見えて、図録などを自宅でじっくり読みふけり、肝心の展示品の画像記憶ができないためスケッチはおろか形状・色彩もろくに説明できないありさま。逆に言えば、展示物だけでは不満足で、どなたかに詳しくお話を伺いたい。講演は垂涎の的。
さて本書は平城京遺跡を専属ガイドつきで回る気分が味わえる希有の作品。著者とともに働いた経験をもつ同僚によれば、著者の渡辺晃宏博士は、研究させていただいてるものを世間に還元する意識が強く、木簡に対する愛も加わり、誰にで... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
不愉快な、しかし有益な本
介護する息子たち : 男性性の死角とケアのジェンダー分析 / 平山亮. - 勁草書房, 2017 北大ではどこにある?
これを書いている僕は3月31日付けで北海道大学を退職する。理由は介護離職、つまりこの本の標題にもなっている「介護する息子」になるわけだ。この本は、そのような「介護する息子」になる前に参考とするべき点を調べようと思って読んだのだが、内容は全く違っていて、所謂ジェンダー社会学の立場から「介護する息子」たちが一見親の介護で苦労しているように見えながら、その背後には女性(配偶者や姉妹)からの支援や女性に対する差別やジェンダー的不均衡があるという可視性の低い問題点をこれでもかとばかりに暴き出す研究書だった。
考えてみれば著者の平山氏は... [続きを読む] -
推薦者 : 橋本 雄 (文学研究科(日本史学講座)・教員)
仏教って、こんなに素晴らしいものなんだ。
仏教発見! / 西山厚著. - 講談社, 2004 北大ではどこにある?
本書は、仏教関連の一般書である。ご自身断っておられるように、本書は純粋に正統的な仏教書ではない、かもしれない。だが、長年、奈良国立博物館で研鑽を積んでこられた氏の、仏教やモノへの愛がギュッと詰まった〈啓蒙の書〉である。
ある日、私はこの本を電車のなかで読み始め、終盤近くでとうとう泣き出してしまった。新書を読んで泣いたり笑ったりなどという経験は、初めてのことである。読者に直接繙いて貰いたいので、ここに詳しくは書かないが、西山氏の手がけた「東大寺のすべて」展(奈良博・二〇〇二年)を、東大寺附属の幼稚園児たちに展示解説するくだり(→笑... [続きを読む] -
推薦者 : 橋本 雄 (文学研究科(日本史学講座)・教員)
劇薬かもしれないが、研究者を目指すなら必読です。
答えのない世界を生きる / 小坂井敏晶著. - 祥伝社 , 2017 北大ではどこにある?
ちまちました「研究」(もどき)など積み重ねても、パラダイムは変えられない。深く、矛盾を乗り越える、素晴らしい解決をめざそう。自分の問題意識に則って、自分に嘘をつかない研究を行なうべし――。当然といえば当然だが、目前のささいな「研究課題」(もどき)にあくせくしている自分が恥ずかしくなるような本です。
「根本思想」((c)山田ズーニーさん)に向き合うことこそ、人文社会科学に必要な心持ちでしょう。研究者を目指す人、研究者を自認す... [続きを読む] -
推薦者 : 橋本 雄 (文学研究科(日本史学講座)・教員)
常識を突き崩してみよう。
民族という虚構 / 小坂井敏晶著. - 筑摩書房, 2011 北大ではどこにある?
本書は、強いていえば、著者小坂井氏の〈本籍〉からして、社会心理学の成果と言えるでしょうか。しかしながら本書は、グローバル時代に生きる者すべてが参照すべき卓見に満ちあふれています。隣人・隣国とのより良い関係のために書かれた書として、歴史学にとっても重要な一書と考えます。
本書の「あとがき」によると、「生物学・社会学・政治哲学など広い領域に触れ、学際的試論の性格を持つ」、真に学際的な成果です。また、「民族同一性の脱構築を試み、近代的合理主義を批判する」ことを目指したものだともいいます。そのいずれにおいても成功を収めた快著だと私は考え... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
揺るぎない体験と明敏な眼と強靱な思索の結晶
自分のなかに歴史をよむ / 阿部謹也著. - 筑摩書房, 2007 北大ではどこにある?
何年かにわたって「一般教育演習」や「多文化交流科目」で異文化間コミュニケーションの理論と実践といった類いの授業を展開してきたが、この本はそうした授業の設計思想を作る上で常に座右に置いていたものである。この本が出たとき、ある夕刊紙の書評が「これは真に感動的な本である。」と書いた。「感動的」ということばが適切かどうかは分からないが、「目からウロコが落ちる」という感覚が得られる本ではあると確かに思う。内容は、少年時の修道院生活、大学時代の上原専録との出会い、ヨーロッパ留学生活等々著者の体験談が多いように見えるが、その根底で著者はヨー... [続きを読む] -
推薦者 : 小泉 均 (工学研究院・教員)
働いていて痛感するのは、「効率的であれば忙しいことは苦にならない」ということ。
未来食堂ができるまで / 小林せかい著. - 小学館, 2016 北大ではどこにある?
理学部数学科卒業後、日本IBMとクックパッドでエンジニアとして働いた女性が、会社をやめ自分の食堂を開業するまでの1年半のことを書いたものである。この食堂には「まかない」「あつらえ」「ただめし」といったユニークなシステムがある。しかし、それ以上に注目すべきところは、彼女が自分で何をやったらよいかを考え、自分が良いと思うことを今までのこの業界の慣習や常識にとらわれず実行したことである。何が必要か、それは結局どういうことを意味するのか、そのためには何をやれば良いかをきちんと考えている。「働いていて痛感するのは、「効率的であれば忙しいことは... [続きを読む]登録日 : 2018-02-28
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推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
「新しい」学問の「古典」
言語と社会 / P.トラッドギル著 ; 土田滋訳. - 岩波書店, 1975 北大ではどこにある?
推薦文タイトルの”「新しい」学問の「古典」”という表現はそのまま読めば形容矛盾でしかない。しかし、この本は、社会言語学という1960年代から形成され始めた「新しい」学問の分野においては紛れもなく今や「古典」であり、タイトル通り「言語」と「社会」を見るための視点や研究の方法を手際よく整理して提示している。現在、社会言語学についての概論書、入門書は数多く出版されているし、その対象や方法も発展しているけれども、この本に盛り込まれた内容は今日でも(あるいは今日なお)有益であり学ぶことが多い。社会言語学という個別分野だけでなく、言語と社会の関... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
「日本国」の主権者であるために
新解説世界憲法集 / 初宿正典, 辻村みよ子編. - 三省堂, 2017 北大ではどこにある?
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推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
宗教を信じつつ宗教を超える
はじめて読む聖書 / 田川建三ほか著. - 新潮社, 2014 北大ではどこにある?
この本を推薦するのは、僕がキリスト教徒であるからでもなく、『聖書』にありがたみを感じているからでもない。どのような本にせよ、読み手の体験を通してその内面と響き合うものでなければそもそも本を読む意味はないということをこの本の中の第Ⅳ章「レヴィナスを通して読む『旧約聖書』」(内田樹)が慄然たる厳しさを持って教えてくれるからである。この本を手にした人は全部読まなくても良い(読めば読んだでそれなりに得るものはあろうけれども)が、上記の箇所だけはじっくりと読んで欲しい。その上で、関心があればレヴィナスの本に向かうこともお勧めする。わかり... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
「研究者」になるための知的基礎体力をつけたい人に
これから研究を書くひとのためのガイドブック : ライティングの挑戦15週間 / 佐渡島紗織, 吉野亜矢子著. - ひつじ書房, 2008 北大ではどこにある?
何年か前に、日本各地の大学で文章表現法関係の授業を担当している教員が集まって実践研修会をしたことがある。各人が自分の授業実践を発表し、ワークショップを通してよりよい授業のあり方を考えるというものだったが、そこで僕が言ったのは、文章表現法の授業をやるということが「自分が教わっていないことを教える”恐怖”」を伴う営為であるということだ。欧米の大学(院)に留学した人は別だろうが、僕自身の高校・大学時代には文章表現法やレポート作成法、論文執筆法は誰も教えてくれなかった。(僕の卒業した大学の教養科目の「文章表現法」は、1年間の総仕上げに短... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
「革命」の担い手は誰だったのか。
青きドナウの乱痴気 : ウィーン1848年 / 良知力著. - 平凡社, 1985 北大ではどこにある?
1848年、西ヨーロッパに勃発した「革命」の一つの舞台となったウィーンでの、様々な人びとの思惑や欲望や理想や愚痴(?)が渦巻く展開を、帝国、国家、権力者の立場からではなく、「革命」に参加した人びとの目線から描いたすぐれた本である。歴史を庶民、あるいは当事者の立場に寄り添って書くということは決して簡単ではない。その困難な試みがいかに為されたかを読み取ってみてほしい。特に、「あとがき」に書かれているグレーテというウィーン子のことばは心に染みる。 -
推薦者 : 小泉 均 (工学研究院・教員)
将来の世界の在り方、政策などを考えるうえで必読の本
隷属なき道 : AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働 / ルトガー・ブレグマン著 ; 野中香方子訳. - 文藝春秋, 2017 北大ではどこにある?
生活維持に必要な現金を一律に給付する制度、すなわちベーシックインカムの有効性について説明している本である。著者は、将来わたしたちが、豊かな生活を維持しその質を向上させてゆくためには、この制度の実施がぜひ必要であると主張している。著者によれば、現代では、コンピュータやコンテナの利用などにより、品物やサービス、資金などがかつてないスピードで世界を回るようになっている。ロボットにより生産性が向上し、機械にできないような技術を取得していない人は、機械に仕事を奪われる。このため、不平等は広がり格差は広がってゆく。時間と富の再分配、ベーシ... [続きを読む]登録日 : 2017-10-19
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推薦者 : 小泉 均 (工学研究院・教員)
錆(さび、腐食)と取り組むさまざまな人々の仕事と人間像を描いた本
錆と人間 : ビール缶から戦艦まで / ジョナサン・ウォルドマン著 ; 三木直子訳. - 築地書館, 2016 北大ではどこにある?
錆(さび、腐食)と取り組むさまざまな人々の仕事と人間像を描いた本である。錆と人間の歴史から、自由の女神の腐食と補修、ステンレス鋼の発明、缶の腐食と環境ホルモン、錆を撮り続ける写真家、アメリカ国防総省の防食担当者、防食技術者という職業について、石油パイプラインと錆探知ロボットなど、さまざまな事について取り上げている。錆という点で共通しているだけで、全体として一貫したテーマがあるようには見えない。書き方も各章でバラバラである。しかし、錆というものが、どのような科学や工学、社会、政治、人間とかかわっているか概観でき、非常におもしろく... [続きを読む]登録日 : 2017-10-19
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推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
研究のための「転ばぬ先の杖」
実証的教育研究の技法 : これでできる教育研究 / 西川純著. - 大学教育出版, 2000 北大ではどこにある?
この本は著者の学生(大学院生)指導体験から得た知見をもとに書かれた「研究」のための手引き書である。素材の多くは教育学、特に教育現場の実践を想定しており、それらをどのように研究テーマとして成立させ処理していくかについて解説してくれている。副題に「これでできる教育研究」とあるが、実際の教育研究は現場の生身の人間(生徒・学生)を相手にするのだからこの本を読めば全て滞りなく研究ができるというわけではない。そのことは著者自身が最もよく分かっているだろう。それでもこの本を推薦するのは、学生が、壁にぶつかったり悩んだり理解しにくかったりする... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
戦後日本の思想的骨格を掴む
日本の思想 / 丸山真男著. - 岩波書店, 1961 北大ではどこにある?
先日必要があって高校の倫理の用語集を見ていたら、丸山眞男が項目立てされて解説が書かれていたので少しびっくりした。同時にもうそういう時代になったのか(=丸山もそういう存在になったのか)とあらためて感じるものがあった。ということは、かなりの北大生が高校時代におそらくこの『日本の思想』を読んでいると思われるので、今更紹介するまでもないのかもしれないが、まだ読んでいない人のためにここに推薦しておきたい。
実は、僕自身はこの本を今読んでも率直に言って“程度の低い常識論”にしか読めない。しかし、裏を返せばそれは、今や常識論に思われるほどに... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
アメリカに生まれて生きる、とは
ボーン・トゥ・ラン : ブルース・スプリングスティーン自伝 / ブルース・スプリングスティーン著 ; 鈴木恵, 加賀山卓朗他訳. - 早川書房, 2016 北大ではどこにある?
“ボス”と呼ばれるアメリカのロックンロール・ミュージシャン、ブルース・スプリングスティーンが7年をかけて執筆した自伝である。この本から彼の音楽に対する姿勢を窺えるのは当然だが、それ以上にアメリカ東海岸の労働者階級の家庭にアイルランド系、イタリア系、オランダ系という様々な血脈を受けて生まれ育ったスプリングスティーンが自分の出自を絶えず意識しながら音楽を作り演奏していく姿は、日本人のかなりの部分=日本(ヤマト)民族という出自を普段意識することのない存在には、強い印象を与えるであろう。彼の音楽が好きな人だけでなく、帰属意識(カタカナ言... [続きを読む]