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推薦者 : 河合 剛 (外国語教育センター・教員)
国策教育の破綻
検証 迷走する英語入試――スピーキング導入と民間委託 / 南風原 朝和. - 岩波書店, 2018
北大ではどこにある?
本書は大学入試における英語科目について述べているけれども、論理はさまざまな選考に適用できるので、諸君が将来人選するときに参考になろう。
英語を読む・書く・聞く・話す能力(4技能)を高校で教えさせるため、大学入試に出題せよと文部科学省が命じた。試験の問題を作ったり、試験を実施したりするのは試験をなりわいとするプロにまかせろとの命令である。
試験とは能力を測る道具。どのような能力を身につけるのが望ましいのだろうか。
使える・通じる能力を求めるならば(自動車の運転免許のように)能力の閾値を上回れば合格(もしかすると全員入学... [続きを読む] -
推薦者 : 河合 剛 (外国語教育センター・教員)
福島事故の隠蔽も似ている
Midnight in Chernobyl: The Untold Story of the World's Greatest Nuclear Disaster / Adam Higginbotham. - Simon & Schuster, 2019
北大ではどこにある?
旧ソ連の秘密主義・隠蔽体質・国民軽視は為政者の権力維持・自己防衛が動機だったと考えられる。わが国の福島原発事故後の報道沈黙と東京電力経営者の責任回避も類似した動機に基づくかもしれない。西側職は、なまじ自由主義を標榜するあまり、マスコミや財界の中理性・信憑性が高いと誤解されやすい。
本書はチェルノブイリ原発事故の背景と経緯を記している。読者諸賢におかれては、事故の過程を技術と政策の両面から知り、わが国で起きた複数の原発事故をどのように報道すべきかを判断していただきたい。
書評が下記に。
https://www.nytimes.com/2019/02/06/books/review-midn... [続きを読む] -
推薦者 : 河合 剛 (外国語教育センター・教員)
札幌の変貌を学び、未来を知る
定山渓鉄道 / 久保ヒデキ. - 北海道新聞社, 2018
北大ではどこにある?
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推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
不愉快な、しかし有益な本
介護する息子たち : 男性性の死角とケアのジェンダー分析 / 平山亮. - 勁草書房, 2017
北大ではどこにある?
これを書いている僕は3月31日付けで北海道大学を退職する。理由は介護離職、つまりこの本の標題にもなっている「介護する息子」になるわけだ。この本は、そのような「介護する息子」になる前に参考とするべき点を調べようと思って読んだのだが、内容は全く違っていて、所謂ジェンダー社会学の立場から「介護する息子」たちが一見親の介護で苦労しているように見えながら、その背後には女性(配偶者や姉妹)からの支援や女性に対する差別やジェンダー的不均衡があるという可視性の低い問題点をこれでもかとばかりに暴き出す研究書だった。
考えてみれば著者の平山氏は... [続きを読む] -
推薦者 : 橋本 雄 (文学研究科(日本史学講座)・教員)
常識を突き崩してみよう。
民族という虚構 / 小坂井敏晶著. - 筑摩書房, 2011
北大ではどこにある?
本書は、強いていえば、著者小坂井氏の〈本籍〉からして、社会心理学の成果と言えるでしょうか。しかしながら本書は、グローバル時代に生きる者すべてが参照すべき卓見に満ちあふれています。隣人・隣国とのより良い関係のために書かれた書として、歴史学にとっても重要な一書と考えます。
本書の「あとがき」によると、「生物学・社会学・政治哲学など広い領域に触れ、学際的試論の性格を持つ」、真に学際的な成果です。また、「民族同一性の脱構築を試み、近代的合理主義を批判する」ことを目指したものだともいいます。そのいずれにおいても成功を収めた快著だと私は考え... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
「日本国」の主権者であるために
新解説世界憲法集 / 初宿正典, 辻村みよ子編. - 三省堂, 2017
北大ではどこにある?
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推薦者 : 小泉 均 (工学研究院・教員)
錆(さび、腐食)と取り組むさまざまな人々の仕事と人間像を描いた本
錆と人間 : ビール缶から戦艦まで / ジョナサン・ウォルドマン著 ; 三木直子訳. - 築地書館, 2016
北大ではどこにある?
錆(さび、腐食)と取り組むさまざまな人々の仕事と人間像を描いた本である。錆と人間の歴史から、自由の女神の腐食と補修、ステンレス鋼の発明、缶の腐食と環境ホルモン、錆を撮り続ける写真家、アメリカ国防総省の防食担当者、防食技術者という職業について、石油パイプラインと錆探知ロボットなど、さまざまな事について取り上げている。錆という点で共通しているだけで、全体として一貫したテーマがあるようには見えない。書き方も各章でバラバラである。しかし、錆というものが、どのような科学や工学、社会、政治、人間とかかわっているか概観でき、非常におもしろく... [続きを読む]登録日 : 2017-10-19
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推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
君は世界をまたにかけるビジネスパースンになれるか?
反省しないアメリカ人をあつかう方法34 / ロッシェル・カップ著. - アルク, 2015
北大ではどこにある?
北大生の中には将来外資系企業、あるいは海外で働くことを希望している人もいるだろう。また、国内の職場でも上司や同僚や部下が外国人という環境は最早珍しくない。この本は、「反省しないアメリカ人を~」と書いてあるとおり、アメリカ人の、主に従業員に対してどう接し、どのように良好なビジネス上の関係を構築するかについてアドバイスを述べたものであるが、アメリカ人に限らず異なる文化的背景の人間―日本人でもその範疇に入ってくる可能性は大いにある―と仕事をする上でヒントになるものと思う。比較文化研究や異文化間コミュニケーションに関心のある人には、色... [続きを読む]登録日 : 2017-08-07
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推薦者 : 前田 亮介 (法学研究科・教員)
政治経済史の画期的業績
帝国から開発援助へ : 戦後アジア国際秩序と工業化 / 秋田茂著. - 名古屋大学出版会, 2017
北大ではどこにある?
第二次世界大戦後のアジア諸国の経済的台頭を可能にした条件の一端を、コロンボ・プランをはじめとするイギリス主導の戦後国際秩序構想から明らかにしようとした、政治経済史の画期的業績である。著者がイギリス帝国史の第一人者ということもあり、コモンウェルス体制の維持・再編に向けた戦後イギリスの生存戦略が、旧帝国からの旧植民地への所得移転や開発援助を通じて、アジア諸国の脱植民地化と(多くが開発独裁的な形態での)国家形成を後押ししていくなかば逆説的な力学が、英米のみならずインドの文書館史料も利用して興味深く分析されている。帝国秩序における戦前... [続きを読む]登録日 : 2017-08-07
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推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
やっぱり大学の未来は心配だ。
Fランク化する大学 / 音真司著. - 小学館, 2016
北大ではどこにある?
この本を「本は脳を育てる」に推薦することに対して旧帝国大学である“天下の北海道大学”の真面目な先生や優秀な学生から異論や批判が巻き起こるかもしれない。筆者自身も、この本に書いてあることは100%そのままであるとは思いたくないし、著者がやや大げさに書いている=「話を盛っている」面もあるかもしれないと思っている。しかし、他大学につとめる友人知人の現場の声を聞くと、ここに書いてあることを頭ごなしに否定することもできないと思う。そして、筆者自身が何より恐れるのは、―ここまでひどくないとしても―これらに近似する状況がここ数年の間に静かに北海道... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
日本人はアジアとどう向き合ってきたか
日本とアジア / 竹内好著. - 筑摩書房, 1993
北大ではどこにある?
これは、竹内好という稀代の中国文学者の手になるすぐれた日本、及びアジア研究の書である。初版が刊行されてから50年以上が経過しているが、そこに示される分析(あるいは同時代思想批判の)の観点には今なお学ぶものが多くある。中国、アジアだけでなく、というよりむしろ欧米社会・文化に関心を持つ人にこそ読んでほしいと思う。特に「二つのアジア史観」、「方法としてのアジア」は人文社会科学を勉強する上で貴重な示唆を含んでいる。 -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
モンゴルの魅力に近づくために
草原の革命家たち : モンゴル独立への道 / 田中克彦著. - 中央公論社, 1990
北大ではどこにある?
この「本は脳を育てる」の過去の推薦文に何回か書いたことであるが、僕は1990年代にエジプトに赴任していた。だが、最初に赴任先候補地としてあげられたのは、実はモンゴルであった。それがどこかでどうにかこうにかなってエジプトに落ち着いた(?)のであるが、今でも時々、あのときモンゴルに行っていたらどうなっていただろうかと思うことがある。今は、モンゴルと言えば相撲の世界が思い浮かぶだろうが、多くの日本人の間でこの国の歴史と現在の姿は意外に知られていないと言ってよいだろう。この本は、モンゴルが中国、ソヴィエトという巨大な国に挟まれて―しかもここ... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
韓国は「異星」である、か?
韓国、愛と思想の旅 / 小倉紀藏. - 大修館書店, 2004
北大ではどこにある?
仕事柄韓国人留学生とのつきあいが少なからずあるが、いつも彼ら彼女らとの独特の距離の置き方にはかなりデリケートに神経を使う。こういうことを“国際交流”の入り口で仕事をしている人間が書くと問題だと感じる人もいるだろうが、むしろそうした仕事をしているからこそ適度な距離感が必要であるとも言える。この小倉氏の本は、韓国滞在・渡航経験の中でその距離を縮めようとしてついに叶わなかった(もしくは彼なりのやり方でその距離を消滅させていった)異文化間コンフリクトの記録である。韓国に対する読者のスタンスの取り方に応じてそれなりに“ツッコミどころ”も... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
「ボランティア」のあり方を見つめ直すために
「ボランティア」の誕生と終焉 : 「贈与のパラドックス」の知識社会学 / 仁平典宏. - 名古屋大学出版会, 2011
北大ではどこにある?
学生時代に7年ほどあるボランティア活動に携わっていたことがあるのだが、最初に活動に参加しようとした時、親に言われたのは「自分の頭のハエも追えない奴が偉そうに人助けなんかやるな!」という暴言(!)であった。今考えてもあんまりな言い方だと思うが、そうした意識は程度の差こそあれ日本の社会にある時期流通していたボランティア理解ではなかったかとも思う。この本の帯には「『善意』と『冷笑』の狭間で」と書かれているのだが、このことばはボランティアというものに対して注がれる、あるいは浴びせられる視線の複雑さを見事に言い当てている。そうした複雑さを... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
ネット空間で被害者にも加害者にもならないようにするために。
ネット炎上の研究 : 誰があおり、どう対処するのか / 田中辰雄, 山口真一著. - 勁草書房, 2016
北大ではどこにある?
この本は、インターネット上で発生するいわゆる「炎上」という現象を分析し、その実態と歴史(!)と対応策を分かりやすく述べている。特に最後の「付録 炎上リテラシー教育のひな型」では、高校生を対象として想定し、「炎上」の仕組みとそれに巻き込まれそうになったらどうするべきかを丁寧に説いてくれている。インターネットがこれだけ広範囲に利用されるようになった社会で安全に生活し、かつ自分が加害者にならないためにも読んでおくべき1冊である。 -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
「東洋」と「西洋」とは何か、あらためて考える。
東洋意識 : 夢想と現実のあいだ1887-1953 / 稲賀繁美編著. - ミネルヴァ書房, 2012
北大ではどこにある?
学問―特に人文科学―の世界に於ける「東洋-西洋」という枠組み或いは二分法は、実は相当にうさんくさい。そのうさんくささを“学問的に”剔抉したのは言うまでもなくエドワード・サイードの『オリエンタリズム』だったが、そのとらえ方自体が西洋的な学問世界の中で一定の権威になってしまうという戯画的な状況が生まれ、相変わらず「東洋-西洋」という枠組みをめぐる思索は混迷している。今回推薦する本は、編著者の稲賀氏自身が書いているように「『東洋』と呼ばれる―あるいは時代遅れとな... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
異文化理解はぼちぼちこのあたりから…。
異文化理解の落とし穴 : 中国・日本・アメリカ / 張競. - 岩波書店, 2011
北大ではどこにある?
この本は、上海出身中国人で日本に留学し学位を得て日本で教職に就きアメリカで研究生活も送った著者の異文化体験の記録である。読後感としては標題にあるような「異文化理解」というレベルに達しているとは思えないし、ましてやその「落とし穴」を明解にしているとも言い切れない。むしろ表層的な体験と感想が連ねられているというのが率直なところである。しかし、それは裏を返せば、「異文化理解」ということに到達するには誰もがこの段階をくぐらなければならないということを示す一つの基準点になり得ている、ということであり、また、日本に限らず「文化」というもの... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター・教員)
世界はどうしてこうなっているのか。
エジプトを植民地化する : 博覧会世界と規律訓練的権力 / ティモシー・ミッチェル著 ; 大塚和夫, 赤堀雅幸訳. - 法政大学出版局, 2014
北大ではどこにある?
一見この本とは関係なさそうな話から推薦文を書く。みなさんは、観光旅行に行くとはどのようなことだと思っているだろうか。理由はいろいろあるにせよ、大きな共通点は世界遺産に代表されるような歴史的建造物や名所旧跡を辿ることが目的である、ということだろう。しかし、である。その時、観光旅行する我々は、実は名所旧跡を”見に”行っているのではなく、ガイドブックなどに一定の秩序で並べられた空間の”確認”をしに行っているに過ぎないのである。なぜそう言えるのか、の答えを与えてくれるのが、この本の副題になっている「博覧会世界」である。
この本は、表題か... [続きを読む] -
推薦者 : 小浜 祥子 (公共政策学連携研究部・法学研究科・教員)
政治学の最先端理論を分かりやすく
独裁者のためのハンドブック / ブルース・ブエノ・デ・メスキータ, アラスター・スミス著 ; 四本健二, 浅野宜之訳. - 亜紀書房, 2013
北大ではどこにある?
なぜ国民を弾圧し飢えさせる独裁者がこれほど長く権力の座に居続けるのか?なぜ往々にして、資源の豊かな国ほど国民が貧しいのか?対外援助は本当に人々を救うのか?なぜ民主主義国家はこれほど戦争に強いのか?
本書では、第一線で活躍する政治学者二人がこれらの謎を解き明かす。彼らがこの本を書いた理由は「問題に取り組む方法を学生に教えること、問題解決のための訓練をきちんとほどこしてから彼らを世の中に出すこと…自分が事態を良くしているのか、それとも悪くしているのかもわからず、ただものごとを掻き乱すだけの人間を、世界に送り出したくない」からだという... [続きを読む] -
推薦者 : 小浜 祥子 (公共政策学連携研究部・法学研究科・教員)
突如として権力者が消えた世界、そこで何が起こるか
別荘 : Casa de campo / ホセ・ドノソ著 ; 寺尾隆吉訳. - 現代企画室, 2014
北大ではどこにある?
権力と自由こそ、政治学におけるメインテーマである。チリの作家ホセ・ドノソの傑作『別荘』では、ある小国で栄華を誇るベントゥーラ家の大人たちがピクニックに出かけ、33人の子どもたちだけが別荘に残される。突如として権力者が消えてしまった世界で、何が起こるのか。本作は1973年にチリで起こったアウグスト・ピノチェト将軍によるクーデターに着想を得て執筆されたものと言われている。ぜひ自分を取り巻く権力と自由に思いを馳せながら、このドラマチックな小説を楽しんでほしい。チリや中南米の政治史を学べばよりいっそう味わい深いに違いない。 -
推薦者 : 武藤 俊雄 (公共政策大学院・教員)
「市町村」はどう作られたか?
町村合併から生まれた日本近代 : 明治の経験 / 松沢裕作. - 講談社, 2013
北大ではどこにある?
現在の市町村という、基本的な行政区分がどのような歴史的経緯で形成されてきたのかを、明治期の変革を中心に描いている本である。わが国の社会構成の基本単位が形成される過程には、近代へと向かう人々のダイナミックな動きが見て取れる。私たちが目にする社会の基本構造を支えている「基盤」のようなものの存在を知ることは、少子高齢化・人口減少という大きな変動期を迎える今、ここから先を見通す知的な武器になるだろう。 -
推薦者 : 堀田 尚徳 (法学研究科)
法学って何を勉強するの?と思っておられる方へ
キヨミズ准教授の法学入門 / 木村草太. - 株式会社星海社, 2012年
北大ではどこにある?
本書は、「法学部に入って講義を受けてみたけれど、『法学』ってイマイチよく分からない」「他学部だけれど、法学部って何を勉強する所なんだろう」等と思っておられる方にオススメしたい本です。
どの学問でもそうだと思いますが、「法学」にも考え方の特徴があります。その特徴の要点について、物語風で読み手を飽きさせないように工夫しながら、しかも300頁に満たない分量で解説してくれている本です。例えば、法学系の講義を既に受けられた方は、法的三段論法という言葉に出会われたはずです。本書のChapter1を読んでみてください。講義の良い復習になると思います。... [続きを読む] -
推薦者 : 河合 剛 (メディア・コミュニケーション研究院)
温故知新
写真で辿る小樽 明治・大正・昭和 / 佐藤 圭樹. - 北海道新聞社, 2014
北大ではどこにある?
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推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
「研究」ということの神髄に触れる
師範学校制度史研究-15年戦争下の教師教育- / 逸見勝亮. - 北海道大学図書刊行会, 1991
北大ではどこにある?
この本は、僕の専門分野と関わりがあるので読んだものだが、推薦文としては「良書だから読むべし!」としか言いようがない。実は,僕はこの著者である逸見先生(元教育学部長・現名誉教授)の“ファン”なのである。まだ逸見先生がご在職中にこの本を読んで疑問に思った点があったので、直接教えを請う機会をいただいたのだが、逸見先生のご教示、お人柄、生き方に痺れて、ファンになり今に至っている。その意味ではここに推薦するのが遅すぎたくらいだ。こういう推薦の仕方にきっと先生には眉をひそめられるかもしれないが、そこはお許しいただいて、多くの学生に読んでも... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
経済学とは結局何なのか、を考える。
戦時下の経済学者 / 牧野邦昭. - 中央公論新社, 2010
北大ではどこにある?
この本の表題は『戦時下の経済学者』であり、事実経済学者(の学説)に多くのページを割いている。しかし、この本の主眼とするところは人物伝ではなく、著者自身が「あとがき」で書いているように「経済学はなぜこうなっているのか」という問題意識である。僕なりの読み方で言えば戦時下の総力戦体制の中で個々の経済学者の学説が社会の要請と切り結びながらどうしてその学説のような形を取ることを求められたか、を考えようとするものだと言えるだろう。僕はこの本をノートを取りながら割合丹念に読んだのだが、僕自身の関心はむしろ個々の経済学者あるいは研究機関の時代... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
昭和をまだノスタルジーにするな!
昭和時代年表 増補版 / 中村政則. - 岩波書店, 1986
北大ではどこにある?
ここ何年かの間に、メディアで「昭和の○○」といったことばを少なからず読んだり聞いたりすることがある。女優の黒木華さんは「昭和顔」と言われているそうだ。昭和32年(=考えてみればちょうど昭和の半分の年)生まれで、経済の高度成長とともに成長し、1988年のバブル最盛期に就職した僕から見ると、「『昭和』をそんなに簡単にノスタルジーにするな!」という怒りにも似た気持ちを禁じ得ない。それは、僕個人にとって昭和がリアルタイムであると言うだけのことではなく、昭和時代に現れ、あるいは作られた様々な問題・課題から我々が未だに解き放たれているとは言えない... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
岩波新書は不滅です!
岩波新書の歴史 : 付・総目録1938-2006 / 鹿野政直. - 岩波書店, 2006
北大ではどこにある?
前にこの「本は脳を育てる」に岩波新書(青版)の鈴木八司『ナイルに沈む歴史』を推薦した際に、「最近(特に今世紀になってから)、岩波新書(新赤版)がつまらなくなってきた。」と書いたが、そうはいってもやはり岩波新書は「腐っても鯛」-という書き方は失礼かもしれないけれども-である。「岩波文化人」という、一種の鼻持ちならないエリートを作り出したという問題点はあるが、間違いなく日本近代、あるいは昭和以降の「教養」の担い手として大きな存在感を発揮したことは否定しようがない。この鹿野氏の著作は、岩波新書がどのような価値観を時代に対する「教養」... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
巧妙化・複雑化する戦争ビジネスを知る
民営化される戦争-21世紀の民族紛争と企業- / 本山美彦. - ナカニシヤ出版, 2004
北大ではどこにある?
戦争に関わる企業と聞くと、兵器・武器の製造売買を行う-古いことばで言えば-「死の商人」が思い浮かぶ。それはそれとして現在もあることに変わりはないが、この本を読むと、思いがけないところで思いがけない企業が、国家(この本で主題的に取り上げられるのはアメリカだが)の中枢部と結託して戦争の後方支援活動などに食い込み利益を上げていることが分かる。さらには、こうした企業が、アフリカなどの資源を保有する後進国で資源ビジネスに目を付けてに内戦=民族対立や紛争を煽っている構図までもが明らかにされる。民族紛争の解決と貧困の撲滅は間違いなく21世紀の世... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
日本語教育と国語教育をめぐる日中の結びつきを知る
現代中国の日本語教育史-大学専攻教育と教科書をめぐって- / 田中祐輔. - 国書刊行会, 2015
北大ではどこにある?
僕が30年以上前、初めて日本語教育に関わったときに学校から与えられた教科書は東京外国語大学附属日本語学校編『日本語Ⅱ』だった。内容を一目見て驚いたのは、僕自身が小学校の国語教科書で勉強した文章が幾つか教材として課を為していることだった。当時、日本語教育についての知識も技術もろくになかった僕でも「日本人小学生向けの教科書と外国人留学生向けの教科書が同じでいいものか」と疑問に思ったのを覚えている。しかし、実態としては、日本の国語科教科書の文章は、様々な形で外国人向け日本語教科書に取り入れられていたのである。そして、それは日本国内で出版... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
文学という営みを通してみた日本人像とは
近代日本人の発想の諸形式 / 伊藤整. - 1981, 岩波書店
北大ではどこにある?
標題となっている論文で、著者は、日本人の手によって行われた文学(創作と作品)を「逃避型と破滅型」、「上昇型と下降型」等いくつかの切り口から鋭く考察し、日本に於いてその文学的な風土がどのように形成されたかという問題に取り組んでいる。その過程で一つの鍵となるのは、創作の専門性とそれを体現する”文士”という存在である。そうした観点から見たとき、多くの人が常識的に(?)受け止めている「文豪」漱石と鴎外への批判は苛烈を極める。
20世紀末から日本哲学(史)の研究が徐々に隆盛の兆しを見せてきたが、哲学研究者とは別の(「異質」と言っても良い... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
理論と実例の両面から分かる異文化間コミュニケーション
異文化コミュニケーション : 新・国際人への条件[改訂版] / 古田暁. - 有斐閣, 1996
北大ではどこにある?
異文化間コミュニケーションについての解説書・研究書は山ほどあるが、内容がまとまっていてしかも頭に入りやすい本はそう多くはない。この本は、異文化間コミュニケーションの理論的側面に重点を置きながらも様々な実例を組み込んでわかりやすい叙述を心がけている。一章の分量もそれほど多くないので、一日に読む分量を決めてノートを取りながら読めば内容を押さえていくことができるだろう。異文化間コミュニケーションの好適な入門書として薦めたい。 -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
信仰をめぐる様々な問題を考えさせる本
黒い海の記憶-いま、死者の語りを聞くこと- / 山形孝夫. - 岩波書店, 2013
北大ではどこにある?
山形孝夫氏の本をすでに「本は脳を育てる」に2冊推薦したが、この『黒い海の記憶』は東日本大震災による犠牲者の鎮魂を軸として、山形氏自身の留学体験や信仰に触れながら宗教或いは信仰が持つ功罪両面に鋭い考察を加えたものである。盛り込まれた話題が豊富であり、読者はそれぞれの関心に応じて思考を触発されると思う。僕は、若き日の山形氏が留学先で出会った黒人キリスト教会をめぐる体験談と白人によるキリスト教のあり方の考察、そして、死者の祟りの封じ込めのための宗教へと変質した仏教に対する批判に考えさせられるものがあった。
ただ、残念なのは、これほどの... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
とりあえず元気になりたい人に。
燃える闘魂 / 稲盛和夫. - 毎日新聞社, 2013
北大ではどこにある?
正直に言えばこの本を「本は脳を育てる」に推薦するのは躊躇いがあった。こう書いている今も、図書館のA係長の困り切った表情が目に浮かんでくるようだ。それはそれで分かる。所謂典型的な日本の経営者のビジネス精神論だからだ。ビジネスは研究の対象になるが、精神論(或いは根性論)は研究の対象にはなり得ない。それでもなぜ推薦したかというと、最近の僕の周りの人間は教員も事務職員も学生も元気がない人たちが多いからだ。そういうときには”空元気”でいいから、とにかくテンションが上がる本を読みたい。そういうわけでここに推薦してしまった。
ちなみに僕も... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
何もそこまで言わなくても…
日本の大学に入ると、なぜ人生を間違うのか / 吉田良治. - PHP研究所, 2015
北大ではどこにある?
日本の大学で教職に就いている人間から見ると神経を逆なでされるような表題であるが、それなりの面白さと説得力はある本である。著者は、アメリカの大学の「ライフスキル・プログラム」に足場を置いて、国際通用性に乏しいに日本の大学教育を容赦なく批判していく。この著者の議論は、見方によってはアメリカの大学に留学してアメリカかぶれになった人間の一面的な判断ということもできるが、とりあえず日本の大学教育が抱える問題を概観するには便利な書物であるのは間違いない。あとは読んだ人がそれなりにどう考え、実行するかである。 -
推薦者 : 石橋 道大 (メディア・コミュニケーション研究院)
「米軍基地の島」沖縄? 真実をまっすぐに見つめる
沖縄の不都合な真実 (新潮新書601) / 大久保 潤 / 篠原 章. - 新潮社, 2015
北大ではどこにある?
沖縄の米軍基地は長年住民を苦しめてきたといわれる。おどろおどろしい姿の軍用機が轟音をたてて飛び交う様がテレビで報道されている。しかし実際には基地周辺以外の地域や島では、軍用機の轟音を耳にすることは意外と少ない。市街地に近いため危険な普天間基地を辺野古という田舎に移転する政府の計画に対して、拳を天に突き上げて反対を絶叫する人々の姿がテレビで放送されている。ところが辺野古の住民の8割は移転を受け入れている。では反対を叫ぶ人々は、どこの人たちなのだろうか。テレビは反対を叫ぶ人々の姿は報道するが、辺野古の人々のことは報道しない。日本にあ... [続きを読む] -
推薦者 : 寺沢 重法 (文学研究科)
台湾のエスニシティーを理解するために
族群:現代台湾のエスニック・イマジネーション / 王甫昌. - 東方書店 , 2014
北大ではどこにある?
台湾の社会学者・王甫昌先生の著作の日本語訳。つい先日刊行されたもの。原題は王甫昌(2003)『當代台灣社會的族群想像』臺北:群學。台湾の高校生、大学1・2年生向けに行った授業をベースにして書かれたもので、非常にわかりやすい説明である。
族群(エスニシティー)概念の説明から、台湾の「四大族群」(閩南人/客家人/外省人/原住民(先住民))の説明、そして「四大族群」がどのようにして現在のような「四大族群」になったのかを解説している。族群が族群たる根拠・正当性といった、族群の内実を述べるのではなく、族群自体が歴史的・文化的・社会的条件によって可変的なも... [続きを読む] -
推薦者 : 河合 剛 (メディア・コミュニケーション研究院)
what really happened between 1945-08-06 and 1945-08-15
Hiroshima Nagasaki: The Real Story of the Atomic Bombings and Their Aftermath / Paul Ham. - Thomas Dunne Books, 2014
北大ではどこにある?
Did two atomic bombs end the war? Did nuclear weapons save millions of lives in 1945? Did Japan unconditionally surrender? Think again. Read this book to find out what really happened between 1945-08-06 and 1945-08-15. -
推薦者 : 寺沢 重法 (文学研究科)
台湾における「日本語世代」「日本語人」の戦後の人生
台湾アイデンティティー (DVD) / 酒井充子. - マクザム , 2013
北大ではどこにある?
同監督のドキュメンタリー『台湾人生』の姉妹編とも言うべきドキュメンタリー作品。『台湾人生』同様、戦前の台湾に生まれ戦前の教育を受けた「日本語世代」「日本語人」たちへのインタビュー記録。本作では特に戦後における「日本語世代」「日本語人」たちのライフコースが語られます。戦後日本に残った人、戦地ジャカルタに残った人、戦後台湾の白色テロを受けて監獄生活を送った人など、様々な人生が語られます。
※図書館注:『台湾人生』も所蔵しています。(ID:2001522597) -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
異文化は実は…
異文化はおもしろい / 選書メチエ編集部. - 講談社, 2001
北大ではどこにある?
この本は21人の著者たちによるエッセイの集成である。
『異文化はおもしろい』という表題通り、はじめのうちは確かに「おもしろい」のだが、徐々に「そうなのだろうか?」と考えさせる内容になっていき、最後の「V 異文化が照らす自文化」になると実は異文化と関わるということはそれほどおもしろいばかりでもなくむしろややこしいものであるのだということを痛感させられる。しかし、この本に書いてあることぐらいの基礎的な見識を持たないと異文化と関わっていく(はやりことばで言えば「グローバルに活躍する」)ことなどできないのではないかと考える。この本を足がかり... [続きを読む] -
推薦者 : 寺沢 重法 (文学研究科)
福祉国家の比較歴史社会学
福祉資本主義の三つの世界: 比較福祉国家の理論と動態 / エスピン・アンデルセン. - ミネルヴァ書房, 2001
北大ではどこにある?
エスピン・アンデルセンによる福祉社会の比較歴史社会学の重要書。近代化・社会主義化といった単線的な軸で、各地域を分析・比較するのではなしに、各地域ごとの福祉制度の歴史的展開に分け入りながら(教会による救貧活動の変化や労働運動の政治へのインパクトなど)、タイポロジーを作成。具体的には保守主義レジーム(ドイツ・イタリアetc)、社会民主主義レジーム(北欧)、自由主義レジーム(アメリカetc)を作成し、そこから福祉社会の比較分析を行うといういうもの。重厚な文体で論じているため、読むのに少々力がいるが、歴史叙述の詳細さやマクロ統計を駆使した比較など圧巻であ... [続きを読む]