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推薦者 : 前田 亮介 (法学研究科・教員)
政治経済史の画期的業績
帝国から開発援助へ : 戦後アジア国際秩序と工業化 / 秋田茂著. - 名古屋大学出版会, 2017
北大ではどこにある?
第二次世界大戦後のアジア諸国の経済的台頭を可能にした条件の一端を、コロンボ・プランをはじめとするイギリス主導の戦後国際秩序構想から明らかにしようとした、政治経済史の画期的業績である。著者がイギリス帝国史の第一人者ということもあり、コモンウェルス体制の維持・再編に向けた戦後イギリスの生存戦略が、旧帝国からの旧植民地への所得移転や開発援助を通じて、アジア諸国の脱植民地化と(多くが開発独裁的な形態での)国家形成を後押ししていくなかば逆説的な力学が、英米のみならずインドの文書館史料も利用して興味深く分析されている。帝国秩序における戦前... [続きを読む]登録日 : 2017-08-07
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推薦者 : 小浜 祥子 (公共政策学連携研究部・法学研究科・教員)
政治学の最先端理論を分かりやすく
独裁者のためのハンドブック / ブルース・ブエノ・デ・メスキータ, アラスター・スミス著 ; 四本健二, 浅野宜之訳. - 亜紀書房, 2013
北大ではどこにある?
なぜ国民を弾圧し飢えさせる独裁者がこれほど長く権力の座に居続けるのか?なぜ往々にして、資源の豊かな国ほど国民が貧しいのか?対外援助は本当に人々を救うのか?なぜ民主主義国家はこれほど戦争に強いのか?
本書では、第一線で活躍する政治学者二人がこれらの謎を解き明かす。彼らがこの本を書いた理由は「問題に取り組む方法を学生に教えること、問題解決のための訓練をきちんとほどこしてから彼らを世の中に出すこと…自分が事態を良くしているのか、それとも悪くしているのかもわからず、ただものごとを掻き乱すだけの人間を、世界に送り出したくない」からだという... [続きを読む] -
推薦者 : 小浜 祥子 (公共政策学連携研究部・法学研究科・教員)
突如として権力者が消えた世界、そこで何が起こるか
別荘 : Casa de campo / ホセ・ドノソ著 ; 寺尾隆吉訳. - 現代企画室, 2014
北大ではどこにある?
権力と自由こそ、政治学におけるメインテーマである。チリの作家ホセ・ドノソの傑作『別荘』では、ある小国で栄華を誇るベントゥーラ家の大人たちがピクニックに出かけ、33人の子どもたちだけが別荘に残される。突如として権力者が消えてしまった世界で、何が起こるのか。本作は1973年にチリで起こったアウグスト・ピノチェト将軍によるクーデターに着想を得て執筆されたものと言われている。ぜひ自分を取り巻く権力と自由に思いを馳せながら、このドラマチックな小説を楽しんでほしい。チリや中南米の政治史を学べばよりいっそう味わい深いに違いない。 -
推薦者 : 武藤 俊雄 (公共政策大学院・教員)
「市町村」はどう作られたか?
町村合併から生まれた日本近代 : 明治の経験 / 松沢裕作. - 講談社, 2013
北大ではどこにある?
現在の市町村という、基本的な行政区分がどのような歴史的経緯で形成されてきたのかを、明治期の変革を中心に描いている本である。わが国の社会構成の基本単位が形成される過程には、近代へと向かう人々のダイナミックな動きが見て取れる。私たちが目にする社会の基本構造を支えている「基盤」のようなものの存在を知ることは、少子高齢化・人口減少という大きな変動期を迎える今、ここから先を見通す知的な武器になるだろう。 -
推薦者 : 石橋 道大 (メディア・コミュニケーション研究院)
「米軍基地の島」沖縄? 真実をまっすぐに見つめる
沖縄の不都合な真実 (新潮新書601) / 大久保 潤 / 篠原 章. - 新潮社, 2015
北大ではどこにある?
沖縄の米軍基地は長年住民を苦しめてきたといわれる。おどろおどろしい姿の軍用機が轟音をたてて飛び交う様がテレビで報道されている。しかし実際には基地周辺以外の地域や島では、軍用機の轟音を耳にすることは意外と少ない。市街地に近いため危険な普天間基地を辺野古という田舎に移転する政府の計画に対して、拳を天に突き上げて反対を絶叫する人々の姿がテレビで放送されている。ところが辺野古の住民の8割は移転を受け入れている。では反対を叫ぶ人々は、どこの人たちなのだろうか。テレビは反対を叫ぶ人々の姿は報道するが、辺野古の人々のことは報道しない。日本にあ... [続きを読む] -
推薦者 : 寺沢 重法 (文学研究科)
台湾のエスニシティーを理解するために
族群:現代台湾のエスニック・イマジネーション / 王甫昌. - 東方書店 , 2014
北大ではどこにある?
台湾の社会学者・王甫昌先生の著作の日本語訳。つい先日刊行されたもの。原題は王甫昌(2003)『當代台灣社會的族群想像』臺北:群學。台湾の高校生、大学1・2年生向けに行った授業をベースにして書かれたもので、非常にわかりやすい説明である。
族群(エスニシティー)概念の説明から、台湾の「四大族群」(閩南人/客家人/外省人/原住民(先住民))の説明、そして「四大族群」がどのようにして現在のような「四大族群」になったのかを解説している。族群が族群たる根拠・正当性といった、族群の内実を述べるのではなく、族群自体が歴史的・文化的・社会的条件によって可変的なも... [続きを読む] -
推薦者 : 河合 剛 (メディア・コミュニケーション研究院)
what really happened between 1945-08-06 and 1945-08-15
Hiroshima Nagasaki: The Real Story of the Atomic Bombings and Their Aftermath / Paul Ham. - Thomas Dunne Books, 2014
北大ではどこにある?
Did two atomic bombs end the war? Did nuclear weapons save millions of lives in 1945? Did Japan unconditionally surrender? Think again. Read this book to find out what really happened between 1945-08-06 and 1945-08-15. -
推薦者 : 寺沢 重法 (文学研究科)
台湾における「日本語世代」「日本語人」の戦後の人生
台湾アイデンティティー (DVD) / 酒井充子. - マクザム , 2013
北大ではどこにある?
同監督のドキュメンタリー『台湾人生』の姉妹編とも言うべきドキュメンタリー作品。『台湾人生』同様、戦前の台湾に生まれ戦前の教育を受けた「日本語世代」「日本語人」たちへのインタビュー記録。本作では特に戦後における「日本語世代」「日本語人」たちのライフコースが語られます。戦後日本に残った人、戦地ジャカルタに残った人、戦後台湾の白色テロを受けて監獄生活を送った人など、様々な人生が語られます。
※図書館注:『台湾人生』も所蔵しています。(ID:2001522597) -
推薦者 : 寺沢 重法 (文学研究科)
残留日本兵の包括的な社会史
残留日本兵──アジアに生きた一万人の戦後── / 林英一. - 中央公論新社, 2012
北大ではどこにある?
台湾の日本統治時代関係の調べものをしている中で読んでみた作品。戦後アジア各地に残った日本兵たちのライフコースを、膨大な日記・ルポルタージュ・映像作品から網羅的に取り上げ、その全貌を描いた歴史モノグラフ。地域別に章立て、さらに章の中では出身階層別に分類するなど様々な工夫が凝らされている。残留日本兵という言葉からは横井庄一氏や小野田寛郎氏がイメージされるが、むしろそうした人々は本書からすれば例外的なのかもしれない。非常に興味深い作品であった。 -
推薦者 : 寺沢 重法 (文学研究科)
福祉国家の比較歴史社会学
福祉資本主義の三つの世界: 比較福祉国家の理論と動態 / エスピン・アンデルセン. - ミネルヴァ書房, 2001
北大ではどこにある?
エスピン・アンデルセンによる福祉社会の比較歴史社会学の重要書。近代化・社会主義化といった単線的な軸で、各地域を分析・比較するのではなしに、各地域ごとの福祉制度の歴史的展開に分け入りながら(教会による救貧活動の変化や労働運動の政治へのインパクトなど)、タイポロジーを作成。具体的には保守主義レジーム(ドイツ・イタリアetc)、社会民主主義レジーム(北欧)、自由主義レジーム(アメリカetc)を作成し、そこから福祉社会の比較分析を行うといういうもの。重厚な文体で論じているため、読むのに少々力がいるが、歴史叙述の詳細さやマクロ統計を駆使した比較など圧巻であ... [続きを読む] -
推薦者 : 寺沢 重法 (文学研究科)
日本統治時代台湾における「青年団」の歴史人類学
植民地期台湾における青年団と地域の変容 / 宮崎聖子. - 御茶の水書房, 2008
北大ではどこにある?
日本統治時代台湾における青年団を対象とした歴史人類学的研究。歴史資料や当時青年団員だった人々へのライフヒストリーインタビューなどから青年団の変容やメンバーの心理を丹念に探っている。青年団が当時の社会階層と複雑に結びついていたのが興味深い。
私個人としては以下の点が興味深い。もともとはどちらかといえば富裕層・地主層の師弟向けのものだった青年団(第2章~第3章)が、戦時色が濃くなる日本統治時代後期になると、幅広い層(小作・労働者の師弟など)対象のものに変容していく(第45章~第6章)。青年団自体がある種の階層上層移動のための媒体でもありそ... [続きを読む] -
推薦者 : 寺沢 重法 (文学研究科)
台湾と沖縄(特に八重山諸島)の交流を知る
知られざる南の国境 : 八重山・台湾 (DVD) / 北海道大学グローバルCOEプログラム「境界研究の拠点形成」企画. - 北海道大学グローバルCOEプログラム「境界研究の拠点形成」, 2011
北大ではどこにある?
北海道大学グローバルCOEプログラム「境界研究の拠点形成」がHBCと協同で作成したドキュメンタリー作品。
戦前、さらにはそれ以前の時代において台湾と沖縄(特に石垣・与那国などの八重山諸島)は互いに密接な交流のある地域でした。たとえば戦前では八重山諸島出身者が進学する際には内地ではなく台湾の旧制中学・旧制高校・女学校・台北帝国大学などに進学することは決して珍しくありませんでした。また漁獲物を台湾の市場で売るということも行われました。台湾から八重山諸島に移住したり、逆に八重山諸島から台湾に移住するという人もいました。本作品は比較的高齢の人々へ... [続きを読む] -
推薦者 : 寺沢 重法 (文学研究科)
日本統治時代台湾の女性史
近代台湾女性史 : 日本の植民統治と「新女性」の誕生 / 洪郁如. - 勁草書房, 2001
北大ではどこにある?
日本統治時代の台湾の女性史の研究。著者の博士論文をまとめた本。纏足解放、女子教育、女性運動、「新女性」のライフスタイルなどが丹念に検討されている。個人的には女子教育を社会階層の視点から分析しているのがとても興味深かった。
たとえば、1920年代の新女性とその夫からなる核家族において、新女性は家事労働をさほど担わなかったというところが面白い。台湾の高等女学校では、近代的知識を伝授するとともに良妻賢母的な教育(料理・礼儀作法・伝統芸能)などを伝授されていたのだが、結婚後の日常生活において家事に関する技能はさほど生かされなかったようであ... [続きを読む] -
推薦者 : 寺沢 重法 (文学研究科)
台湾映画の名作
悲情城市 (DVD) / 侯孝賢監督 ; 呉念眞, 朱天文脚本, トニー・レオンほか出演. - Imagica, 1989
北大ではどこにある?
台湾における日本統治時代・敗戦・戦後初期の中華民国統治時代を舞台に、これらの時代を生きた一族を描いた作品。特に1947年に生じた二・二八事件の一部を描いた映画として有名です。台湾、植民地経験、弾圧、歴史的記憶などに関心のある人に特におすすめです。1989年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞グランプリ受賞作品。 -
推薦者 : 寺沢 重法 (文学研究科)
幕末日本の農民運動を発生させた要因とは何か?
変革期における社会運動の研究 : 19世紀日本の農民運動を通して / 野宮大志郎. - 北海道大学, 1998
北大ではどこにある?
幕末日本の農民運動がどのような社会構造的要因によって発生したのかを統計的に検討した歴史社会学的研究。江戸時代日本の農民階級と武士階級の探索から始まり、農民運動が発生する要因に関する理論的考察、そしてその理論を検証するための実証分析を行うというスタイルになっています。実証分析では農民運動の年表から各年の運動発生件数をデータセット化し、物価変動や飢饉発生などの社会変動との関連を検討していきます。歴史学専攻の人にも是非読んでもらいたい書籍です。
(図書館注:科学研究費補助金基盤研究(C)(2)研究成果報告書 ; 平成8年度-平成9年度) -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
戦前・戦中・戦後を駆け抜けた哲学者の生き方に迫る
戦争が遺したもの-鶴見俊輔に戦後世代が聞く- / 鶴見俊輔、上野千鶴子、小熊英二. - 新曜社, 2004
北大ではどこにある?
後藤新平の孫、鶴見祐輔の子として生まれ、華麗な閨閥の中で一種の拗ね者として幼少期を送った鶴見が、アメリカ留学から戦後市民運動までの自身の生き方と考え方、その過程で関わった様々な人々とのつながりを余すところな語った貴重な証言である。戦争(というより戦場)の実相、市民運動のあり方、知識人と言われる人々の生態など、実体験した者でなければ語れない生々しさがある。一人物の座談的伝記としても、歴史書としても読み応えがあるのでぜひ一読を勧めたい。 -
推薦者 : 高橋 正宏 (工学研究院)
リスク論で”福島”の現実に寄り添う
原発事故と放射線のリスク学 / 中西準子. - 日本評論社, 2014
北大ではどこにある?
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推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
類まれな人間観察の鋭さ
君主論 / マキアヴェッリ. - 岩波書店, 1959
北大ではどこにある?
マキアヴェッリあるいは『君主論』というと、後世に染みついた「権謀術数を弄する奴」というイメージが浮かぶが、実際の彼はそういうことを中心的な思想として言いたかったわけではない、というのが今日では一般的な理解となっている。この本は時として“政治思想の古典”などと言われるが、そういう読み方を一旦脇に置いて、彼がこの本の中でどのように人間を描き出しているかを読み取っていくと意外に面白い。それも、表だって書かれている様々の君主ではなく、名前すらも分からないような一般人や兵士たちを、国や君主にとってどのような存在と見ていたかに焦点を当て... [続きを読む] -
推薦者 : 清水 賢一郎 (メディア・コミュニケーション研究院)
現代中国理解のために
近代中国の政治文化 : 民権・立憲・皇権 / 野村浩一. - 岩波書店, 2007
北大ではどこにある?
改革開放の進む中国では近年、魯迅と同時代に活躍した現代中国を代表する知識人・胡適の研究がますます盛んになっているが、日本では残念ながらあまり注目されていない。その胡適を中心に近代中国における「自由主義」の位置づけを試みた第三章は本書の圧巻で、現代中国理解のためにも一読に値する。 -
推薦者 : 鍋島 孝子 (メディア・コミュニケーション研究院)
市民が作る国際政治
地球時代の国際政治 / 坂本義和. - 岩波書店, 1990年
北大ではどこにある?
国際政治とは、強い国家が国益のためにやりたい放題する状態だと思っていませんか。確かにそういった面は否定できません。しかし、著者は世界が核兵器の脅威に直面している中、市民の力で国際政治の構造が変動する可能性を示唆しています。
決して安易な理想主義ではなく、市民と国家、国際社会の在り方について冷徹に検証しています。 -
推薦者 : 岸本 晶孝 (理学研究科)
文明の将来を考える書
American Theocracy / Kevin Phillips. - Viking, 2006
北大ではどこにある?
Theocracyは神権政治と訳します。これは、アメリカがむかし神権政治の国であったというのでもなく、将来そうなるという警世の書でもなく、現に(ブッシュ政権が)神権政治に陥ったことに対する慷慨の書なのです。
キリスト教国では「神のお恵みを」とか、イスラム教国では「アッラーの神に」とかを、政治家も民衆に使っているようです(もっとも実際にはわたしは聞いたことがないのですが)。わたしはこれを言葉の綾と思って注意を払ってきませんでした。これは「心の問題」であって、人それぞれに解釈すればいいことでしょう。このことが心の問題として済ませられなくなるの... [続きを読む] -
推薦者 : 西 昌樹 (メディア・コミュニケーション研究院)
基本的知識の必要
パリの女は産んでいる / 中島さおり. - ポプラ社, 2005
北大ではどこにある?
ある元首相が結婚しない、子供を産まない女性に年金を与えるのはとんでもないという暴言を公言した。それに比べてフランスでは出産率は維持されている。それは政策として女性をサポートする体制があるという事実を紹介する書物。外国崇拝ではなく、わが国の社会保障と福祉の欺瞞(介護保険の改正などや自己責任、個人情報保護を口実にする隠蔽化)を考える資料になる。