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推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
信仰をめぐる様々な問題を考えさせる本
黒い海の記憶-いま、死者の語りを聞くこと- / 山形孝夫. - 岩波書店, 2013
北大ではどこにある?
山形孝夫氏の本をすでに「本は脳を育てる」に2冊推薦したが、この『黒い海の記憶』は東日本大震災による犠牲者の鎮魂を軸として、山形氏自身の留学体験や信仰に触れながら宗教或いは信仰が持つ功罪両面に鋭い考察を加えたものである。盛り込まれた話題が豊富であり、読者はそれぞれの関心に応じて思考を触発されると思う。僕は、若き日の山形氏が留学先で出会った黒人キリスト教会をめぐる体験談と白人によるキリスト教のあり方の考察、そして、死者の祟りの封じ込めのための宗教へと変質した仏教に対する批判に考えさせられるものがあった。
ただ、残念なのは、これほどの... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
「思想劇」としての般若心経
真釈般若心経 / 宮坂宥洪. - 角川書店, 2004
北大ではどこにある?
この本の表題は書き間違いではない。「新釈」ではなく「真釈」、つまり著者は「俺の解釈こそ本物だ!」と宣言しているわけである。もの凄い自信である。仏教学が専門ではない僕には、その「真」の度合いは測れないが、内容は確かに説得力に富む。それはひとえに、サンスクリット原典を文法的に厳密にたどりながら漢訳般若心経の問題点を的確に指摘し「四階の建物の比喩」という説明の枠組みを駆使して読み解いていく著者の態度からもたらされるものである。それだけに「あとがき」に書かれた、従来の般若心経解説書やそれらの執筆者に対する批判は秋霜烈日を極める。著者は... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
日本語教育史研究の金字塔、ついに成る!
戦時期における日本語・日本語教育論の諸相-日本言語文化政策論序説- / 田中寛. - ひつじ書房, 2015
北大ではどこにある?
長年にわたって、日本語教育史、日本語教育政策の研究に携わってこられた著者の業績の集大成とも言える大著である。副題に「序説」とあるが、決して「序説」ではなく、日本語教育の過去の歴史を批判的に受け止め、これと対決しながら日本語教育のあるべき姿を真摯に問うたその解答と言うべき著作である。今後の日本語教育史研究、日本語教育政策研究は、本書と、これに先行した関正昭『日本語教育史研究序説』(スリーエーネットワーク)を不可欠の必読書として出発しなければならない。まさに今、日本語教育史研究の“新しい”歴史が始まる。本書はその幕開けとなるものと... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
とりあえず元気になりたい人に。
燃える闘魂 / 稲盛和夫. - 毎日新聞社, 2013
北大ではどこにある?
正直に言えばこの本を「本は脳を育てる」に推薦するのは躊躇いがあった。こう書いている今も、図書館のA係長の困り切った表情が目に浮かんでくるようだ。それはそれで分かる。所謂典型的な日本の経営者のビジネス精神論だからだ。ビジネスは研究の対象になるが、精神論(或いは根性論)は研究の対象にはなり得ない。それでもなぜ推薦したかというと、最近の僕の周りの人間は教員も事務職員も学生も元気がない人たちが多いからだ。そういうときには”空元気”でいいから、とにかくテンションが上がる本を読みたい。そういうわけでここに推薦してしまった。
ちなみに僕も... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
何もそこまで言わなくても…
日本の大学に入ると、なぜ人生を間違うのか / 吉田良治. - PHP研究所, 2015
北大ではどこにある?
日本の大学で教職に就いている人間から見ると神経を逆なでされるような表題であるが、それなりの面白さと説得力はある本である。著者は、アメリカの大学の「ライフスキル・プログラム」に足場を置いて、国際通用性に乏しいに日本の大学教育を容赦なく批判していく。この著者の議論は、見方によってはアメリカの大学に留学してアメリカかぶれになった人間の一面的な判断ということもできるが、とりあえず日本の大学教育が抱える問題を概観するには便利な書物であるのは間違いない。あとは読んだ人がそれなりにどう考え、実行するかである。 -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
「まとも」な議論をするために
反論の技術-その意義と訓練方法- / 香西秀信. - 明治書院, 1995
北大ではどこにある?
この本は実は一時期僕の日本語の授業のタネ本であった。どのようにしたら留学生に、与えた課題とかみ合う文章(議論)を書けるように指導できるのか困っていたときにこの本に出会って、その説得力ある書きぶりと豊富な実例に蒙を啓かれる思いがしたものである。(ただ、正直、この本の助けを借りて行った授業実践に対する留学生の反応は賛否真っ二つであった。)
書名に「技術」と書いてあるが、所謂ハウツー本の域を超えて「反論する」ということが学問にとっていかに重要な知的営為かを詳しく説いており、読み物としてもおもしろい。この本に書いてある「訓練方法」を実践... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
ちょっと残念な、しかし面白い対談
対論 言語学が輝いていた時代 / 鈴木孝夫・田中克彦. - 岩波書店, 2008
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鈴木孝夫と田中克彦のお二人は、特に日本語に於ける漢字の使用を巡ってそれぞれの著書の中でまったく反対の立場を表明してきた。この本ではそのあたりを巡って激論が交わされるのかと思いきや、お二人とも妙におとなしくなってしまっていて(よく言えば紳士的なのかもしれないが)日頃の舌鋒の鋭さはどこへやら、落としどころをうまく見つけて話が進んでしまっている。これはちょっと読者の期待を裏切りすぎるんじゃないのかなぁ、と思う。日本語教師の僕としては、日本語教育に好意的な鈴木氏と、(今の)日本語教育に批判的な田中氏の論争も期待したのだが、それはタイトルが... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
日本の未来を考える視点はどこにあるのか
日本 / 姜尚中・中島岳志. - 河出書房新社, 2011
北大ではどこにある?
著者二人の対談であるこの本は、僕なりの理解でまとめると「国家権力に絡め取られない自分のあり方をどう構築するか」という問題意識で貫かれており、それを、過去の歴史的文脈も振り返りながら徹底して論じようとしたものである。その基盤をなす発想は「パトリ」(故郷、郷土、あるいは根拠地といったもの)であり、熊本出身の在日韓国人二世である姜氏と大阪出身の中島先生がそれぞれの「パトリ」を意識しつつ、国家権力、あるいはその表象としての「東京」を挟撃するといった展開となっている。読者はそれぞれの「パトリ」に応じてこの対談にさまざまな共感や反発を感じ... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
サンデルとの対話は成功したのか?
日本生まれの「正義論」-サンデル「正義論」に欠けているもの- / 川本兼. - 明石書店, 2011
北大ではどこにある?
著者は、サンデルの正義論が結局はアメリカの「力」の論理によるものではないかという疑問を呈するところから始めて、サンデルの正義論に対する対抗思想としての正義論を生み出そうとした。その懸命な思索の成果がこの本である。著者の思想的格闘が成功したかどうかは、読者それぞれが判定されたい。その中で読者自身が自分なりに正義について考えることをきっと始めているだろう。
ネタバレになるかもしれないが、僕の読後感としては著者は正面からサンデルの思想に切り込もうとしているがところどころで自分に不都合な証拠を-忘れているのか意図的にかは分からないが-出... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
「近代」は人をいかに突き動かしたか
日本近代思想の相貌-近代的「知」を問いただす- / 綱澤満昭. - 晃洋書房, 2001
北大ではどこにある?
この本の表題には「日本近代思想」とあるけれども、おなじみの人々、例えば福沢諭吉や内村鑑三、新渡戸稲造、そして西田幾多郎や田邊元や和辻哲郎などはまったく主題化されていない(叙述の一部に僅かながら登場することはあるが)。著者は9人の人物を取り上げ、それらの人々の姿を描き出すことで「近代」という時代を捉え返しさらにそれらの捉え返しが「現代」、あるいは戦後日本に何をもたらし得るか、ということを問題にする。9人の人物は、宮沢賢治と長谷川如是閑を除けば今日のアカデミックな思想史研究では殆ど顧みられることがない人々ではあるが、それだけに日本の「... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
異文化は実は…
異文化はおもしろい / 選書メチエ編集部. - 講談社, 2001
北大ではどこにある?
この本は21人の著者たちによるエッセイの集成である。
『異文化はおもしろい』という表題通り、はじめのうちは確かに「おもしろい」のだが、徐々に「そうなのだろうか?」と考えさせる内容になっていき、最後の「V 異文化が照らす自文化」になると実は異文化と関わるということはそれほどおもしろいばかりでもなくむしろややこしいものであるのだということを痛感させられる。しかし、この本に書いてあることぐらいの基礎的な見識を持たないと異文化と関わっていく(はやりことばで言えば「グローバルに活躍する」)ことなどできないのではないかと考える。この本を足がかり... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
インタビュー調査に必読の一冊
聞きとりの作法 / 小池和男. - 東洋経済新報社, 2000
北大ではどこにある?
研究の必要からインタビュー調査をすることになって、そのためのノウハウが書いてある本を数冊読んだが、その中で最も役に立ったのがこの本である。
内容は著者の小池氏が専門とする経済学の、主として職場の技術移転を例にとって書かれているが、その分インタビューの実際に関する記述が非常に豊富でわかりやすい。また、インタビューデータからどのように読み取りを行ったらいいかの例やインタビューの前後に行っておくべきことなども書かれていて、将来、聞きとり調査が必要となる分野で研究しようと考えている学生にとっては必読の一冊である。 -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
ブームが沈静化した今こそ冷静に読んでみよう
これからの「正義」の話をしよう-いまを生き延びるための哲学- / マイケル・サンデル. - 早川書房, 2010
北大ではどこにある?
言わずと知れた、「NHK白熱教室」のネタもととなった本である。テレビでのサンデルの講義に独特のスタイルがあったこともあって売れに売れたらしい(僕の持っているのは第78版!)が、こうした本はブームが去った今こそ落ち着いて読んでその内実を判断する必要があるだろう。
サンデルは、現代世界のアクチュアルな問題を古典から現代までの政治思想と結びつけて論じながら彼なりの(=コミュニタリアンとしての)哲学を開陳していくが、その解決が妥当であるかどうかは読者が今一度批判の目をもって考えるに値するものである。
今は文庫版も出て読みやすくなっているので、... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
哲学書を読み解く技術とは
『純粋理性批判』を噛み砕く / 中島義道. - 講談社, 2010
北大ではどこにある?
中島義道氏は、いろいろなところで一人っきりで哲学書を読むことの危うさを論じ、ご自身の「哲学塾カント」のホームページでも「哲学書を正確に読み解くには独特の技術が必要で、いい加減なわかり方ほど危険なことはありません。」と書いている。その中島氏がカント『純粋理性批判』の「アンチノミー論」を中心に据えてカントの-そしておそらくは中島氏の考える、「哲学書」の-読み方を実践したのが本書である。
この本は、難解な哲学書である(と思われている)『純粋理性批判』について意外にわかりやすいことを書いているのだ、というスタンスからカントの行論を追いつ... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
異質な他者との共存は可能か
地球(テラ)へ… (全3巻) / 竹宮惠子. - 中央公論新社, 1995
北大ではどこにある?
この作品は日本のSF漫画史上に語り継がれるべき大傑作である。それがこの北海道大学附属図書館に置いてあることについて、北大附属図書館スタッフの見識を僕は高く評価したい。単に傑作漫画を置いているからということではなく、この漫画が突きつけてくるあまりにも重い問いが、今日の我々にとって何よりも考え抜かれ、かつ実践されねばならない問いだからである。
グローバル化した社会で異文化としての他者と向き合ってそこで、関わりを深めていこうとするか相手を拒絶するかの選択に迫られることは現代では以前よりも遙かに頻繁にかつ容易に起こりえる。この漫画は、コン... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
図書館の達人になる!
図書館のプロが教える「調べるコツ」 : 誰でも使えるレファレンス・サービス事例集 / 浅野高史とかながわレファレンス探検隊. - 柏書房, 2006
北大ではどこにある?
図書館を、「本を借りる」ところ、「勉強する」ところだと思っている学生はおそらく今では少ないと思うけれども、では、図書館を有効に使えている学生(教員も)がいるかというと、どのように自分たちの勉強やそれ以外の活動に役立つのかまだぼんやりとしたイメージしか抱けない学生も多いと思う。そんなときこの本は役に立つ。図書館が、”お勉強”のためだけの建物ではなくわくわくするような=知的に興奮できる世界だ、ということがわかるだろう。読んだらきっとあなたも図書館に行きたくなる! -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
戦前・戦中・戦後を駆け抜けた哲学者の生き方に迫る
戦争が遺したもの-鶴見俊輔に戦後世代が聞く- / 鶴見俊輔、上野千鶴子、小熊英二. - 新曜社, 2004
北大ではどこにある?
後藤新平の孫、鶴見祐輔の子として生まれ、華麗な閨閥の中で一種の拗ね者として幼少期を送った鶴見が、アメリカ留学から戦後市民運動までの自身の生き方と考え方、その過程で関わった様々な人々とのつながりを余すところな語った貴重な証言である。戦争(というより戦場)の実相、市民運動のあり方、知識人と言われる人々の生態など、実体験した者でなければ語れない生々しさがある。一人物の座談的伝記としても、歴史書としても読み応えがあるのでぜひ一読を勧めたい。 -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
家族が「家族」として語られるとき
戦略としての家族-近代日本の国民国家形成と女性- / 牟田和恵. - 新曜社, 1996
北大ではどこにある?
多くの人にとっては家族というのは気がついたら存在している(という意味で)自然な環境である。この本は、その自然なはずの家族が近代日本のジャーナリズムの中でどのように論じられ、どのようにその論じ方が転換し、どのように教育の中に取り込まれてきたかを考察し、近代日本人の意識の中に「家族」として根付く過程を明らかにしている。今日の夫婦別姓や、性別役割分担の問題、あるいは家族の「絆」ということを考えたい、あるいは、そうしたことに興味がある学生にお薦めしたい本である。 -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
人の振り見て我が振り直せ
カネを積まれても使いたくない日本語 / 内館牧子. - 朝日新聞出版, 2013
北大ではどこにある?
最近の出版業界は「脅迫産業」めいてきたところがあり、本の表題にやたらと「知らないと恥をかく~」だの「あなたもきっとだまされる」だの「~のウソ」だの「その○○は恥をかく」だの、これでもかとばかりに読者を不安がらせ(て買わせ)ようとするフレーズを入れるものが多い。こういった表題の本は、おおむね中身はたいしたことがないので買わないことにしているが、ここに挙げた内館氏の本は、その大仰な表題に似合わず、今使われている、あまり適切とは言えないことばづかいを丁寧に拾い上げて論評しており、まさに「人の振り見て我が振り直せ」で、自分の日本語の使... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
日本語教育に関わりたい人に
日本のことばとこころ / 山下秀雄. - 講談社, 1986
北大ではどこにある?
日本語教師として30年近く働いてきてまだ人生を回顧するのは早すぎると思うけれども、この仕事を選んだ自分にとって「恩師」と呼べる先生は3人いる。この推薦書の著者である山下秀雄先生もそのお一人で、講習会や研究会で多くのことを教えていただき、海外に教えに行っていたときにもいろいろと心配りをしていただいた。先生は、平成10年9月に交通事故で亡くなられ、その前日の夕刻に僕に宛てて出されたお手紙がこの世での最後の書簡となった。それは今も僕の手元にある。
本書は、山下先生が、日本語教師としての長年の経験と研究から、外国語としての日本語を見るための目を... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
西田哲学の実践としての西田評伝
西田幾多郎 / 大橋良介. - ミネルヴァ書房, 2013
北大ではどこにある?
西田哲学の難しさについてはその一端を、以前この「本は脳を育てる」に『善の研究』を推薦したときに書いておいた。この『西田幾多郎』は、現在西田幾多郎研究の世界水準を牽引する著者が、単に「伝記」=時間の流れの中である人物がなしたあれこれのことを書くだけでなく、まさに西田を一つの”出来事”とし、それに西田哲学を実践してみせることによって新たな西田像を明らかにしたものである。西田の伝記はこれまでさまざまなものがあったけれども、西田自身の歴史哲学的思索によって書かれた西田には、これまでのものにはない新鮮な人間像が見られる。「哲学」という特... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
バッハを聴くために
J・S・バッハ / 礒山雅. - 講談社,
北大ではどこにある?
私事から始めるので恐縮だが、僕の父親は、生前「バッハは何を聴いても同じに聞こえるから嫌いだ」と言っていた。まあ、ギターで「湯の町エレジー」(知らないだろうなぁ)を弾くような父親だったから、バッハにそれほど縁があったとは思えないが、幼少時の僕には結構このことばは刷り込みになってしまい、後年楽器を習うようになってからもバッハは聴くのを避けていたところがある。しかし、チェロを習うようになって「無伴奏チェロ組曲第一番」を自分で演奏してみたとき、一見単純に見える楽譜から実に調和に満ちた曲が立ち現れてくるのに驚き、いかに父親のことばがいい... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
読み物として面白い文章読本
思考のための文章読本 / 長沼行太郎. - 筑摩書房, 1998
北大ではどこにある?
ここ何年か、「一般教育演習(フレッシュマンセミナー)」で日本語文章表現関係の授業を開講しており、その参考とするためにあれこれの文章読本を45冊ほど読んで、今46冊目を読んでいる。率直に言って授業の素材として役に立ったものはほとんどなく、推奨できるものは4、5冊程度である。そして、これらの推奨できる数少ない本も、どう言ってみても結局はハウツー本であり、面白さという点ではほとんど期待できない。その中にあって、長沼氏のこの本は唯一と言っていいほど読み物としての面白さがある文章読本である。この本を通して読者は、文章作成の根本にある「問い」を立てる... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
死と美意識と
太陽と鉄 / 三島由紀夫. - 中央公論新社, 1987
北大ではどこにある?
この作品は三島の、精神と肉体の拮抗を軸とした自己認識過程の吐露であるとともに、己の死と向き合おうとする冷徹な美意識の自己表現の書でもある。この本に書かれた思索とその基盤をなす体験の延長線上で三島はあのような「自決」という仕方を選び取ったのであり、その死は三島の、死に対する美意識の自己完結的結晶であったのだ。「国(でも何でもいいが要するに他者)のために自分の生命を投げ出して死ぬ」ということを自分の真剣な問題として考えたいなら、この本は、その内容を肯定するにせよ否定/批判するにせよ、避けて通れない作品であり、今の時代にあらためて読... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
日本と日本人を見る目の背後にあるもの
日本人論・日本論の系譜 / 石澤靖治. - 丸善, 1997
北大ではどこにある?
この本は、ルース・ベネディクトの『菊と刀』以後の代表的な日本人論・日本論を取り上げてそれらを関連づけて論じることを通して日本と日本人に対する内外の見方がどのように関連し合ってどう変化してきたかのわかりやすい見取り図を描き出すものである。
この本の眼目は、所謂広義の「日本(文化)論」と言われるものを「日本論」と「日本人論」に分けてそれぞれが登場してくる歴史的・政治的文脈を明らかにしている点である。これを読むと、結局のところ、“代表的な”(と言われている)「日本人論」や「日本論」は、実は-カレル・ヴァン・ウォルフレンを除くと-基本的にア... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
偶像破壊の果てに聞こえるものは
ベートーヴェンとべートホーフェン-神話の終わり- / 石井 宏. - 七つ森書館, 2013
北大ではどこにある?
近年(だけの現象ではないのかもしれないが)、歴史上の人物像の見直しや新解釈の本が目白押しである(例えば、エヴァリスト・ガロアやレオナルド・ダ・ヴィンチ)。その中で、この本はベートーヴェンの名前の読み方が実は「べートホーフェン」である、というところから説き起こして、よく知られている(らしい)髪の毛を振り乱した眼光鋭い「ベートーヴェン」の肖像が実像とはずれていることに進み、あとはひたすらこれまで語られてきた「べートーヴェン」像を解体して実像を描き出そうとする。その書きぶりは、副題の「神話の終わり」どころかまさに「偶像破壊」といった勢いであ... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
思索するカントの姿に迫る
理性の不安-カント哲学の生成と構造- / 坂部 恵. - 勁草書房, 2001
北大ではどこにある?
この推薦文を書いている今日の昼間、書店に行ったら故石川文康先生訳『純粋理性批判(上下)』(筑摩書房)が棚に並んでいるのを見てびっくりした。石川先生は昨年逝去されたし、『純粋理性批判』を翻訳していらっしゃったことも知らなかった。同時に、どうしてこうも日本の哲学研究者(あるいは出版社?)は『純粋理性批判』の翻訳を出したがるのかなぁ、とも思ってしまった。この「本は脳を育てる」に文学研究科の千葉先生が熊野純彦先生の翻訳を推薦していらっしゃるが、それ以外にも多くの翻訳があり、訳書の多さという点では哲学書に限定せずとも『純粋理性批判』、ハイデガー... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
もう一つの「本は脳を育てる」
古典力 / 斎藤 孝. - 岩波書店, 2012
北大ではどこにある?
以前森鴎外の『舞姫』を推薦した時に、「古典」を読むということについて少しだけ書いたことがある。では「古典」とは何か、と言うことになると答えはそれほど簡単ではない。そのわかりやすい見取り図の一つがこの『古典力』である。これを読むと、読んだことがある本に再会したり、名前は知っていても(案外それで分かった気になって)読んでいない本に出遭ったりするだろう。そこで興味が湧いた本があればためらうことなく手にとって欲しい。なぜそれが「古典」になっているかは、斉藤氏の解説を手がかりに読めば自分なりの理解を獲得することができると思う。
ちなみに、... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
ワールドカップの原点はここだ!
フットボールの原点-サッカー、ラグビーのおもしろさの根源を探る- / 吉田 文久. - 創文企画, 2014
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サッカー(フットボール)の起源は諸説あるようで、スポーツにほとんど関心がない推薦者でもイギリス起源かイタリア起源か、くらいのことは知っている。この本は、イギリスの民俗フットボールにその起源を求め、今なお残るそのゲームの現場にいくたびも足を運んで取材とインタビューを重ねた筆者の労作である。ただのスポーツ蘊蓄本と思うなかれ、この本では「民俗フットボール」からサッカーへの変化の歴史が史料に基づいて丹念に追跡され、同時にそのような変化を促したイギリス社会の歴史についても理解を深めることができるものとなっている。サッカーやスポーツだけで... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
東ユーラシア世界に目を開く
「シベリアに独立を!」-諸民族の祖国(パトリ)をとりもどす- / 田中 克彦. - 岩波書店, 2013
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推薦者の義父は戦後シベリアで抑留生活を送った。そのことについて推薦者には何も語らずに亡くなったが、そこでの苦労は並大抵のことばで語れるものではなかったようである。シベリア、と聞けば推薦者も含めてかなりの日本人は戦後のシベリア抑留のことを、あるいはまた天然ガスパイプラインを、さらには水野晴郎の映画『シベリア超特急』を思い浮かべるかと思うが、この本で描かれるのは、そうしたイメージとは異なる自然豊かなシベリアで独立運動を戦い抜いたポターニンという人物の生涯である。そのまわりには、ドストエフスキーやバクーニンをはじめ、アイヌ語研究で有... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
異文化の底辺で詩人は何を見たか
ねむれ巴里 / 金子光晴. - 中央公論新社, 2005
北大ではどこにある?
詩人・金子光晴は、昭和初期に妻とともにパリに渡って住み着く。この本は、そのパリ生活の記録であるが、金の工面に困った金子はそれこそ何でもありの阿漕な金稼ぎをして糊口をしのぎ、社会の底辺を這い回るようにして生き抜いていく。同時に、パリという異文化の中で、同じように底辺にうごめく日本人や異国人、そしてフランス人たちの生活を驚くほど鋭い観察眼で活写していく。ここに描かれるパリ(フランス)の姿は、「芸術の都」として近代の日本人エリートが憧れた世界とはほど遠く、様々な葛藤を抱えて死んでいく人間の描写も多い。こうしたことは、昭和初期のパリ特有の... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
日本陸軍の戦争理念に迫る
未完のファシズム-「持たざる国」日本の運命- / 片山杜秀. - 新潮社, 2012
北大ではどこにある?
アジア・太平洋戦争についてある程度勉強してきた時、頭に浮かんだ疑問というのが、「なぜ日本軍は兵員を無駄死にさせるような戦闘行動や作戦を行ったのか」ということだった。戦争-特に近代戦-にあっては、いかに戦闘手段の損失を少なくしつつ有利に戦況を進めるかということが目標になる。にもかかわらず、日本軍は、例えば「バンザイ突撃」等に見られるような「玉砕」戦を実行し、それらに対して日本軍の狂気じみた精神主義、あるいはまた「戦陣訓」の影響といったことが原因として指摘されてきた。
この本は、第一次世界大戦以降の日本陸軍内部の戦争指導理念の変容を... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
インチキを見抜く考え方を学ぶ
日本文化論のインチキ / 小谷野敦. - 幻冬舎, 2010
北大ではどこにある?
日本文化論というグループに括られる書物はものすごく(と言っていいほど)多くのものが出版されていて、他方、それらに対する批判の書も少なからず出されている。大学で日本文化を専門として学び研究する人間にとってそうした批判に目を通しておくのは当然だが、小谷野氏は、「日本文化論批判は行われているものの、批判のほうはいっこうに広まらないのである」と嘆いており、それがこの本を書いた動機の一部となっている。
内容は、土居健郎『「甘え」の構造』やベネディクト『菊と刀』以来の日本文化論をめぐる研究状況に対するやや毒舌めいた批判であるが、新書版という-... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
日本文化に絡まる「思いこみ」を引き剥がす
希望の倫理学-日本文化と暴力をめぐって- / 持田季未子. - 平凡社, 1998
北大ではどこにある?
「日本文化」は、実は様々な「思いこみ」や、近代に於ける「意味づけ」に絡め取られている。俗耳に入ってくるものの一つとして例えば「日本人は古来から自然を愛する」が挙げられよう。この本は、中世謡曲から始まって近代の帝国主義的イデオロギーまでを分析し、「日本文化」に絡みついている思いこみ、俗説、恣意的な意味付与を引き剥がそうとする試みである。その中から見えてくる「日本文化(と言われるもの)」の根底にはどうしようもない暴力的、閉塞的な性格が顕れてくる。それは単なる“ステレオタイプ”などと言ってすませられるレベルではない、重い倫理的課題を我々... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
「英学」のもう一つの姿
日本における近代倫理の屈折 / 堀孝彦. - 未来社, 2002
北大ではどこにある?
さきにこの「本は脳を育てる」に、惣郷正明『日本英学のあけぼの』を推薦した。今度の『日本における近代倫理の屈折』は、惣郷の本にも登場する幕末の英語通詞・堀達之助の子孫である堀孝彦氏が、達之助の営為を通じて「英学」を語学としてのみではなく「人文学」と捉え、その内実が急激な近代化を急ぐ日本の中でいかなる変化を余儀なくされたか-著者のことばで言えば「屈折」を経たか-を明らかにし、現代にまで繋がるその「屈折」の影響を読み取ろうとしたものである。その「屈折」の延長線上には、明治期から現代までの日本の倫理道徳上の様々な問題が関連してくること... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
論理学の深さを知る
現代論理学入門 / 沢田 允茂. - 岩波書店, 1962
北大ではどこにある?
今から50年前に出たこの本は、いまなお論理学の名著としての価値を失っていない。もちろん50年の間には論理学にも進歩があって、多値論理、様相論理、量子論理などはこの本では取り扱われていないし、用語や記号の表記も古いところがあるが、それは仕方ないこととしても、論理学を専門的に研究するならともかく、それ以外の幅広い哲学的関心に広く答え得る点でこの本をしのぐ内容のものはいまだにほとんどないと言って良い。こうした優れた本を絶版にしないで出し続けている岩波書店の“営業努力”は賞讃されてしかるべきである。
この本を紹介する際に、記号の使用を最小限... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
東大入試問題から見える「倫理」
東大入試 至高の国語「第二問」 / 竹内康浩. - 朝日新聞出版, 2008
北大ではどこにある?
過去のある時期、東京大学の入学試験(二次試験)の現代国語の第二問は、200字以内で作文を書かせるという問題だった。この本は、その「第二問」を分析して東大が年度に関わりなく執拗に問おうとしたものを明らかにしていくという著作である。著者の竹内氏によれば、「底流には『死』という大問題があって、死を見ることで『生きること』について考えさせる」(「あとがき」より)というのがこの問題の勘所となっている。これだけ読むと、入試問題から人生訓を牽強付会しているような印象を与えてしまうかもしれないが、この本の真骨頂は、後半に進むに従って「死(と生)」の問題... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
英語と格闘した日本人の足跡を辿る
日本英学のあけぼの-幕末・明治の英語学- / 惣郷正明. - 創拓社, 1990
北大ではどこにある?
20年以上まえに出たこの本を今頃推薦するのは実は大変恥ずかしい。というのは、出版されてから割合すぐに買い求めたのだけれど、最近まで“本棚の肥やし”にしてあって読んでいなかったからである。(言い訳すれば、昔、僕の恩師も「20年前に買った本がまだ読めないんだ」とぼやいていたので、同じようなことは案外あるのかもしれない。)
「英学」という表題はいかめしいが、要するに日本人が英語と接して以来、どのようにこの言語を勉強しようと工夫なり悪戦苦闘なりを重ねてきたかの歴史が描かれているものであり、具体的な教科書や参考書や辞書、果てはかなり怪しげな学... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
理想郷とは?
失われた地平線 / ジェイムズ・ヒルトン. - 新潮社, 1959
北大ではどこにある?
ジェイムズ・ヒルトンといえば『チップス先生、さようなら』で広く知られているけれども、この『失われた地平線』は、彼のもう一つの代表作とも言える、不思議な雰囲気をたたえたユートピア小説である。第一次大戦後の動揺するインドからヒマラヤを舞台に、英米人の主人公たちが思いがけない事件に巻きこまれて一種の理想郷的世界に紛れ込んでいく。特に、この小説の後半をしめるラマ教寺院の院長とイギリス人外交官の対話、そこから急転する脱出劇は読むものを引きつけて放さない面白さがある。(この小説に出てくる「シャングリラ」ということばは後に“理想郷”を示す代... [続きを読む] -
推薦者 : 中村 重穂 (国際連携機構国際教育研究センター)
もう一つの「ローマ人の物語」
ディスコルシ-「ローマ史」論- / マキアヴェッリ. - 筑摩書房, 2011
北大ではどこにある?
「ローマ人の物語」といえば塩野七生さんの著作があまりにも有名であるが、この『ディスコルシ』はマキアヴェッリによるもう一つのローマ史である。マキアヴェッリは、この本を書く時に間違いなく彼が生きていた時代のイタリアの運命を考えながら-その姿勢は『君主論』にもつながる-筆を走らせていた。歴史から何事かを学ぶ、ということがどのようなものか、この本から浮かび上がってくるだろう。