推薦者: 中村 重穂
所属: 国際連携機構国際教育研究センター

東大入試問題から見える「倫理」

タイトル(書名):
東大入試 至高の国語「第二問」
著者:
竹内康浩
出版者:
朝日新聞出版
出版年:
2008
ISBN:
4022599464
北大所蔵:
北大所蔵 1 
北大にある資料をOPAC(蔵書検索)で表示します。

推薦コメント

過去のある時期、東京大学の入学試験(二次試験)の現代国語の第二問は、200字以内で作文を書かせるという問題だった。この本は、その「第二問」を分析して東大が年度に関わりなく執拗に問おうとしたものを明らかにしていくという著作である。著者の竹内氏によれば、「底流には『死』という大問題があって、死を見ることで『生きること』について考えさせる」(「あとがき」より)というのがこの問題の勘所となっている。これだけ読むと、入試問題から人生訓を牽強付会しているような印象を与えてしまうかもしれないが、この本の真骨頂は、後半に進むに従って「死(と生)」の問題から説き起こして人間の生き方についての鋭い考察にあふれた一種の倫理学、あるいは実践哲学の本となっているところにある。下手に「倫理学」云々という表題がついている本を読むよりも、この本の後半部分に書かれた考察にははるかに「腑に落ちる」点が多い。このような読み方が竹内氏の本意に沿ったものであるかは別としても、一つの可能な読み方としてここに書いておきたい。
ただ、竹内氏は、では東大がなぜそのような問題を出題し続けたのか、という重要な問いには触れていない。おそらく敢えて触れなかったのであろうと思われるが、竹内氏自身にはその答えは分かっているのだと思う。この本を読んだら、是非その先にある上記の問いにも考えをめぐらせてほしい。「大学(生になること)」の意味をあらためて考えるきっかけとなるだろう。
最後に恥を忍んで書くと、この本を読んで、僕がなぜ東大に合格できなかったのかがよく分かった。その意味でも(!)有意義だった。

※推薦者のプロフィールは当時のものです。