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アジア・太平洋戦争についてある程度勉強してきた時、頭に浮かんだ疑問というのが、「なぜ日本軍は兵員を無駄死にさせるような戦闘行動や作戦を行ったのか」ということだった。戦争-特に近代戦-にあっては、いかに戦闘手段の損失を少なくしつつ有利に戦況を進めるかということが目標になる。にもかかわらず、日本軍は、例えば「バンザイ突撃」等に見られるような「玉砕」戦を実行し、それらに対して日本軍の狂気じみた精神主義、あるいはまた「戦陣訓」の影響といったことが原因として指摘されてきた。
この本は、第一次世界大戦以降の日本陸軍内部の戦争指導理念の変容を、ターニングポイントとなる事件や、キーパーソンとなる人物に光を当てて解明していくものであるが、読み終わったときに上記の疑問が実に明快に解き明かされたのを実感することができた。話は陸軍内部の「皇道派」と「統制派」の対立などよく知られた内容はもちろんのこと、宮沢賢治と石原莞爾との関わり、そして、東京帝国大学倫理学科教授・吉田静致(和辻哲郎の前任者)の倫理思想の影響など多方面にわたり、日本軍、そして日中戦争から太平洋戦争敗戦までの時代というものが決してそれだけで自己完結的に語ることができる単純なものではないことがよく解るようになっている。欲を言えば、石原莞爾の思想などもう少し取り上げてほしい面もあるけれども、少なくとも2012年に読んだ本の中で僕にとってのベストワンということでここに推薦することにした。
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