| |
以前森鴎外の『舞姫』を推薦した時に、「古典」を読むということについて少しだけ書いたことがある。では「古典」とは何か、と言うことになると答えはそれほど簡単ではない。そのわかりやすい見取り図の一つがこの『古典力』である。これを読むと、読んだことがある本に再会したり、名前は知っていても(案外それで分かった気になって)読んでいない本に出遭ったりするだろう。そこで興味が湧いた本があればためらうことなく手にとって欲しい。なぜそれが「古典」になっているかは、斉藤氏の解説を手がかりに読めば自分なりの理解を獲得することができると思う。
ちなみに、この本を読んだら(あるいは読みながら)是非やってみてほしいのは、この本と、北大附属図書館ホームページの「北大教員が北大生に薦める不朽の名著」と、同じく岩波書店が出している『大学新入生に薦める101冊の本 新版』(広島大学101冊の本委員会編)の三つの読み比べである。意外に共通したものがあったり、独自の視点で選ばれたものがあったりと、色々発見があると思う。そこからまた読書の幅が広がる可能性が得られるだろう。
ただ、この『古典力』が薦める50冊の「古典」は、岩波新書だからだと思うが、ほとんどが岩波書店の出版物であり、他の出版社でいい版があっても「岩波文庫、他」となっている。この点、著者の斉藤氏も出版元に気を遣いすぎたのか、岩波の宣伝媒体の観がなきにしもあらずである。見方を変えればそれだけ岩波書店が「古典」の名に値する書物を出版する眼識がある、ということの立証でもあるのかもしれないが、この“営業活動”だけはちょっといただけない。 |