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「日本文化」は、実は様々な「思いこみ」や、近代に於ける「意味づけ」に絡め取られている。俗耳に入ってくるものの一つとして例えば「日本人は古来から自然を愛する」が挙げられよう。この本は、中世謡曲から始まって近代の帝国主義的イデオロギーまでを分析し、「日本文化」に絡みついている思いこみ、俗説、恣意的な意味付与を引き剥がそうとする試みである。その中から見えてくる「日本文化(と言われるもの)」の根底にはどうしようもない暴力的、閉塞的な性格が顕れてくる。それは単なる“ステレオタイプ”などと言ってすませられるレベルではない、重い倫理的課題を我々に突きつけるものとなる。著者は、『希望の倫理学』というタイトルをつけていながら、問題解決への「希望」をこれから求めていくべきものとして語るにとどめている。そのため、読後感は限りなく重苦しいが、その重苦しさを抱えながら「日本文化」を捉え直すことが必要であることに気づかされる。 |