本は脳を育てる ~北大教職員による新入生への推薦図書~ 

推薦者 :  中村重穂      所属 :  国際連携機構国際教育研究センター      身分 :       研究分野 : 
日本の未来を考える視点はどこにあるのか
タイトル(書名) 日本
著者 姜尚中・中島岳志
出版者 河出書房新社
出版年 2011
ISBN 4309411045
北大所蔵 北大所蔵1 北大所蔵2 
クリックすると北大OPAC(蔵書検索)で該当図書を別窓で表示します。

推薦コメント

著者二人の対談であるこの本は、僕なりの理解でまとめると「国家権力に絡め取られない自分のあり方をどう構築するか」という問題意識で貫かれており、それを、過去の歴史的文脈も振り返りながら徹底して論じようとしたものである。その基盤をなす発想は「パトリ」(故郷、郷土、あるいは根拠地といったもの)であり、熊本出身の在日韓国人二世である姜氏と大阪出身の中島先生がそれぞれの「パトリ」を意識しつつ、国家権力、あるいはその表象としての「東京」を挟撃するといった展開となっている。読者はそれぞれの「パトリ」に応じてこの対談にさまざまな共感や反発を感じつつ、では日本の未来をどうするのか、という問題を真剣に考えざるを得なくなるだろう。それだけの知的刺戟に満ちた本である。
ただ、著者には申し訳ないが、「根拠地」を基盤とする発想自体は目新しいものではなく、すでに1981年に哲学者の花崎皋平氏が『生きる場の哲学』(岩波新書)の中でその発想と実践を示しており、そこでは特にアジアの民衆との連帯と共感が説かれていた。姜氏と中島先生の対談を読んだらぜひ花崎氏の本とも読み比べて「根拠地」という発想が時代の流れの中でいかに転換しているかを検討することも重要であるということを指摘しておきたい。
最後に、東京生まれ東京育ちの僕から見ると、あまりにも「東京」を意識しすぎて議論が「東京」対「パトリ」という二元論の枠を出ていないのではないかと考えるが、そのあたり読者はどう感じるだろうか?

※図書館注1: 『生きる場の哲学』(岩波新書)の所蔵状況は「北大所蔵2」をご覧ください。

※推薦者のプロフィールは当時のものです。

Copyright(C) Hokkaido University Library. All rights reserved.
著作権・リンクについて  お問い合わせ

北海道大学附属図書館
北海道大学附属図書館北図書館