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推薦者の義父は戦後シベリアで抑留生活を送った。そのことについて推薦者には何も語らずに亡くなったが、そこでの苦労は並大抵のことばで語れるものではなかったようである。シベリア、と聞けば推薦者も含めてかなりの日本人は戦後のシベリア抑留のことを、あるいはまた天然ガスパイプラインを、さらには水野晴郎の映画『シベリア超特急』を思い浮かべるかと思うが、この本で描かれるのは、そうしたイメージとは異なる自然豊かなシベリアで独立運動を戦い抜いたポターニンという人物の生涯である。そのまわりには、ドストエフスキーやバクーニンをはじめ、アイヌ語研究で有名になったピウスツキーその他の才能に溢れた魅力的な若者が関わり、ロシアからソヴィエトに至る社会の変化の中で謂わば内国植民地化されたシベリアを自分たちの手で動かしていこうと解放運動を繰り広げていった。こう書いてしまうと過去の歴史の話になってしまうが、この本の中で読者に最も強く訴えかけてくる部分は最終章の「ポターニンの思想的遺産」である。著者は、ポターニンたちが認識していた内国植民地的な環境がロシアだけの問題ではなく、広く東ユーラシア(東アジアというと誤解されそうなのでこう書いておく)に関わる問題であったこと、そして、一部の国や地域-日本もまた例外ではない-においては今日でも続いている問題状況であることを詳細な資料と事実に基づいて明らかにしている。ロシアをよく知るためにも、そして東ユーラシア地域の状況を深く理解するためにも一読を勧めたい本である。 |