推薦者: 中村 重穂
所属: 国際連携機構国際教育研究センター

「近代」は人をいかに突き動かしたか

タイトル(書名):
日本近代思想の相貌-近代的「知」を問いただす-
著者:
綱澤満昭
出版者:
晃洋書房
出版年:
2001
ISBN:
4771013004
北大所蔵:
北大所蔵 1 
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推薦コメント

この本の表題には「日本近代思想」とあるけれども、おなじみの人々、例えば福沢諭吉や内村鑑三、新渡戸稲造、そして西田幾多郎や田邊元や和辻哲郎などはまったく主題化されていない(叙述の一部に僅かながら登場することはあるが)。著者は9人の人物を取り上げ、それらの人々の姿を描き出すことで「近代」という時代を捉え返しさらにそれらの捉え返しが「現代」、あるいは戦後日本に何をもたらし得るか、ということを問題にする。9人の人物は、宮沢賢治と長谷川如是閑を除けば今日のアカデミックな思想史研究では殆ど顧みられることがない人々ではあるが、それだけに日本の「近代」を新たな角度から考える好適な材料を提供してくれている。
著者は、副題に「近代的『知』を問いただす」と書いているけれども、実はこの本のなかでより大きく問題にされているのは「知」というよりはむしろ(その「知」を基盤とした)「行動」である。そして、特に前半の人物に共通してポイントとなる時代は明治20年代である。日本が近代国家として世界に乗り出していこうと苦闘を重ねていた時代に、その時代の人々は何を考えいかに行動したのか、それを戦後の知性はどう考えたのか、の考察から「考えること」と「行動すること」の結びつきの大切さと難しさを教えてくれる本である。

※推薦者のプロフィールは当時のものです。