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さきにこの「本は脳を育てる」に、惣郷正明『日本英学のあけぼの』を推薦した。今度の『日本における近代倫理の屈折』は、惣郷の本にも登場する幕末の英語通詞・堀達之助の子孫である堀孝彦氏が、達之助の営為を通じて「英学」を語学としてのみではなく「人文学」と捉え、その内実が急激な近代化を急ぐ日本の中でいかなる変化を余儀なくされたか-著者のことばで言えば「屈折」を経たか-を明らかにし、現代にまで繋がるその「屈折」の影響を読み取ろうとしたものである。その「屈折」の延長線上には、明治期から現代までの日本の倫理道徳上の様々な問題が関連してくることがあきらかにされ、想像もし得なかった形で幕末の知識人の知的格闘が現代の私たちの問題と結びついてくる。
「英学」という古めかしそうな学問の投げかける問題を読み取ることで、「近代」や「近代化」という歴史の中の動きが、縁遠いものや知的な概念であるだけでなく確実に
現代の私たちに繋がっているというアクチュアルな感覚を得ることができるだろう。 |