スヴァーリンコレクション

ボリス・スヴァーリンコレクション

Boris Souvarine Collection

[1978年度 大型コレクション]
1880年代から1910年代までに出版されたロシア革命運動に関するオリジナルのパンフレット類1023点のコレクション。

形態 オリジナル マイクロフィルム
数量 1,023点 39リール
言語 ロシア語 ロシア語
購入年度 1978 1979
貸出 不可
複写 不可

資料一覧


*資料紹介(『楡蔭』No.50,p.6-7より)
ボリス・スヴァーリンコレクション
経済学部教授 荒又重雄

 これは,恐らく間違いなく,北海道大学附属図書館が世界に誇る宝の一つである。

 B.Lazitchの『コミンテルン人名辞典』によると,Boris Souvarineは18 95年年に手工業職人の子としてキエフに生れ,のちパリに移住して製図工の徒弟となった。第一次大戦に参加,1916年に除隊してのち国際主義の主場をとる社会主義ジャーナリストとなり,1919年にコミンテルン国際問題部員となる。1920年逮捕され,1921年に釈放され,のちコミンテルン第三回大会にフランス代表として参加,執行委員会と幹部会のメンバーに選出され(のちには書記局にも),1924年おそくまでモスクワに留まった。トロツキーを擁護したためにコミンテルンとフランス共産党の双方から追放された彼は,1925年にパリに戻ると, 共産主義反対派グループを助けてジャーナリストとして活躍するが,1929年にトロツキーとも決裂し,やがて政治活動をやめた。しかし1935年には著書『スターリン』を出版したほかソビエト・ロシア問題に関する発言を続けた。第二次大戦中はアメリカに避難し,1947年に再度フランスに戻って,以後も執筆活動を続けた。

このようにBoris Souvarine自身の政治的・思想的活動は全くといっていいほどコミンテルンの内と外をめぐっているのだが,北海道大学附属図書館が入手したコレクションの内容は,主として1880年代から1910年代までに出版されたロシア革命運動に関する文献であり,ロンドンやジュネーヴで,あるいは1905年から1907年ころのペテルブルグやモスクワで,ロシア語で印刷された革命運動の内部文献である。古いものからあげると,1864 年にロンドンで出されたオガリョーフの文献,1874年にロンドンで出されたラヴロフの文献,1880年代から1890年代のはじめにかけてロンドンで印刷されたテロリストたち(モロゾフ,ペロフスカヤ,ジェリヤボフ,キバリチッチ,ステプニャク)に関する文献,1890年代を中心にした「労働解放団」のメンバーたち(プレハーノフ,アクセリロード,ザスーリチ,デイチ)による文献,19世紀末から20世紀初頭にかけて,ロシア社会民主労働党が生れ出てくる過程で主としてジュネーヴで印刷された諸文献,たとえばマルトフやマルトィーノフやプロコポヴィッチの筆になるもの,ロシア各地の労働運動の報告をもとにまとめられたものと思われるシリーズなど,さらに,ロシアの労働者革命運動の準備期におけるマルクス文献のロシア訳,運動の昂揚期における第二インターナショナル系理論家(ラファルグ,ゲード,カ・リープクネヒト,カウツキーら)の文献のロシア訳,等々,目をみはるようなものが並んでいる。第一次大戦の開戦前後のものもみのがせない。

 

▼利用はマイクロフィルム化したもので行われている

 

いま少し具体的にいくつかについて紹介すると,プレハノフが反撃したことでも有名なエリ・チホミロフの『なぜ私は革命家であることをやめたか』(1889)があるし,レーニンの『何を為すべぎか』の前史をなすことで有名な『ラボーチェエ・デエーロ編集部へのロシア社会民主主義者の抗議』(ジュネーヴ,1899)があるし,1897年6月2日付の工場法に関する秘密文書を暴露した文献(ジュネーヴ, 1898)──オボレンスキー公の周辺が資料の出所ではあるまいかとわたくしは想像しているのだが───もある し, 1907年エス・エル第一回大会で採択された綱領・規約の文書もある。毛色のちがったものとしては,ジョルジュ・ロンゲによる『日本における社会主義』(ジュネーヴ,1904)と題する文献だとか,ぺ・ラヴロフがソーニャ・コヴァレフスカヤを記念した文書(ジュネーヴ,1891)が目につく。とにかく興味深いものである。

 保管状態はとてもよい。多くは小さなパンフレットといってよい文献であって,ちょっとでも注意を怠ればたちまち風化して果てていたであろう。現物に触れるとその感を深くする。それらが80年,ものによっては100年の歳月に耐えてわれわれの眼前にあるのをみて,わたくしはこのコレクションの成り立ちについての想像を刺激された。これは,ひょっとして,いわばコミンテルン時代人としての、Boris Souvarineが自分の関心から自分個人で蒐集したコレクション以上のものなのではあるまいか。彼の一世代前の口シアの革命的インテリゲンツイア達が,自分たちの運動を記録するために文献の蒐集と保管を必要として,その責を負った人あるいは人々,そのことに意義を感じた人あるいは人々の努力があって,その成果が何らか歴史的な偶然によって彼の管理下に入ったのではあるまいか。彼は先輩の意志を体してコレクションを守ってきた。コレクションの特徴は,ボリシェヴィキーとメンシェヴィキーの対立が激化するまえの時期の,ロシア革命家の在外活動を最も大きく含んでいることにあるから・・・・・・。

 この宝物が永く大切に保管され,かつはその内容がひろく学界に利用されることを切望する。