ナチズム研究コレクション

ナチズム研究コレクション

Nazismus Studium

[1994年度 大型コレクション]
本コレクションは,約1,600点におよぶ膨大なもので,1)ナチス・ドイツで出版された資料,2)反ナチス派,亡命者等により出版された資料,3)戦後,主としてドイツ連邦共和国で出版されたナチズムに関する専門的研究資料等により構成されている。特に,1)に関しては,ナチスの結成から政権掌握までの諸資料,ナチス体制維持に関する国内外政策,行政,法制,司法関係資料,ナチズム関係団体諸資料等,思想・政治・行政・外交・軍事・文化などの広範な領域にわたっている本格的なコレクションである。

形態 オリジナル
数量 1,592点
言語 英語,ドイツ語
購入年度 1994
貸出 可(一部不可)
複写 可(一部不可)

資料一覧


*資料紹介(『楡蔭』No.95,p.20-22より)

『ナチズム研究』について

教育学部教授 小出達夫

 本コレクションは,ドイツの古書店 Georg-Sauer Antiquariatが集めた本格的なナチズム研究のコレクションであり,875件 1,600点に及んでいる。時期的には,ワイマール共和制期,ナチス期,戦後の3期にわたり,主題では,思想・社会・文化・政治・法律・行政・経済・軍事・外交・司法・人種問題など多岐にわたる。ドイツ研究やファシズム研究に関心をもつ研究者にとり好個のコレクションである。特に大半はナチズム関係のオリジナル資料であるだけに,これによりナチズム研究の本格的な展開が期待される。内容は,以下の15のパートに分類される。以下順をおって紹介したい。

 

▼普通の本(左)と『わが闘争』特別豪華装丁版(右)

 

1)アドルフ・ヒトラー関係(64件)
 ここには,『わが闘争』についての各版,特別豪華装丁版(モンスター版, 40×52cm,11.5kg),翻訳本など9件が,またヒトラーの演説集,写真集(ヒトラーお抱えの写真家 H・ホフマンのものを含む)や,23年の「ミュンヘン一揆」とその裁判記録など直接ヒトラーに関する記録のほか,ヒトラー像の形成には欠かせないヒトラー直近の部下による記録がある。 M・ボルマン(ナチ党官房長)や R・へス(副総裁,副総統),さらには F ・パーペン(1932・首相)に関する同時代の記録や戦後の研究書,およびヒトラーと時代を共にした様々な人の手になるヒトラーとの交流記録がそれである。これらの記録はヒトラーの伝記的研究にとり不可欠なものである。さらにこのパートには,33~40年の年報 “Dokumente der Deutschen Politik”“Das Jahr”(写真集 I~VII)があり,この期のヒトラーをめぐる事象を年誌的に見るのに便宜である。

2)反ヒトラー関係(118件)
 このパートは「反ヒトラー」となっており,反ヒトラー派や亡命者による第3帝国批判の書籍類が入っているが,それ以外にも戦後の本格的なヒトラー研究を含む,ヒトラー伝記,写真記録,第3帝国の国制研究,ファシズム研究などが収められている。
 ヒトラー伝記では,E・ドイヤーマン,J・C・フェスト,H・B・ギゼフィウス,S・ハフナー,W・マーザーなど戦後の研究書や, K・ハイデン,T・ホイスなど同時代人による伝記も入っている。ファシズム研究やナチ党組織・行政機構の研究としては,K・D・ブラッハー,M・ブロシャート,W・ホーファー,E・イエッケル, W・ラカー,G・モッセ,E・ノルテ,G・シュルツら戦後研究者の業績がここには相当収められている。

3)「国会議事堂放火事件」関係(9件)
 デイミトロフの拘留および裁判中の書簡・覚書・公判記録,事件後プラハからドイツに持ち込まれた非合法文書「褐色の書」(Braunbuch)や,のちにレーム粛正で処刑されたG・シュトラッサーの弟オットー・シュトラッサーが除名後スイスで出版した『ドイツのバルテルミの夜』など,同時期の記録が収められている。

4)「レーム事件」関係(10件)
 レーム粛正に関する戦後研究も数件入っているが,処刑された E・レームおよび G・シュトラッサーの著作が2件入っている。また『ドイツ指導者事典 1934-1935』は第3帝国初期のナチ重要人物1700人のビオグラフィーを含む貴重な資料であるが,事典からはレーム事件で粛正された人物が抹消され空欄になっている。

5)6)「ナチズムのABC」および「ヒトラーとその側近たち」(129件)
 側近としては,ナチ党の創設者で党綱領の作成者 G・フェーダー,宣伝相で帝国文化院の創設者J・ゲーリングの著作・演説・論説,ナチスの基本文書『20世紀の神話』を書いた反ユダヤ主義の A・ローゼンベルクの著作,軍需相や戦時生産相で建築設計家・都市改造計画の中心人物 A・シュペーアの戦後の著作,なかでもシュペーアの『日記』はナチ党員の手になる三大日記のひとつとして注目される。また,ヒトラー・ユーゲントの指導者 B・シーラッハの戦前の著作・演説や彼の編集になる“Wille und Macht”誌なども入っている。なおヒトラーの側近中,ダレー,ゲーリング,ライ,シャハトなどはパート(9)および(10)にある。
 なお,このパートには,ナチ党中央出版局発行の月刊誌『ナチズム月報』(30-44年,163冊,)全冊が揃っているし,党組織・SA・SSのハンドブック,ニュルンベルク党大会の記録など党関係の記録・資料・雑誌が見られる。さらには,演劇・詩・芸術・文学・建築・スポーツ・オリンピックなどの分野に関する同時代の文献・雑誌・記録・年報が含まれており,この領域でのナチスによる強制的画一化(Gleichshaltung)の過程や機構を見るのに不可欠の資料となっている。

7)ナチズムの精神諸科学(38件)
 ここには文化,哲学,歴史学,神学,外交政策論,国家論,人類学,人種民族論,大学論,地理学など諸科学のナチズム化を例示する文献・書誌が収められている。さらにナチズム期の文化・大学・歴史(学)に関する戦後研究も数点入っている。当時のこうした分野の状況を知るのに参考になる。

8)ナチズム法曹関係(132件)
 戦後のものは13件だけで,ほとんどは戦前とくにナチス期のものである。この中には,ナチ党法律顧問,法アカデミー会長で,ニュルンベルク裁判で死刑になった H・フランクの著作,ベルリン民族裁判所長官でショル兄妹裁判やヒトラー暗殺事件裁判の指揮をした R・フライスラーのもの,フライスラーと同様刑事手続きの「統一モデル」を推進した H・へンケル,E・シュヴィンゲ,K・ジーゲルトなどの文献,基本権批判やナチス行政法の形成者 O・ケルロイターの著作・論説,カント個人主義法論を否定した K・ラレンツ,ナチズム行政法の T・マウンツ,カール・シュミットの著作・論説,など第3帝国の法学・司法・法哲学を検証するのに不可欠の重要な材料が相当豊富に入っている。個別に見ると以上の領域のほか,ナチズム国家論,憲法・国法論,革命と法,公務員法,民法,労働法,経済法,地方自治法などの領域を含み,そのほかにドイツ法アカデミーの雑誌(H・フランク編集)が揃っている。

9)ナチズムの経済と社会(80件)
 ナチ農民団の創設者で食糧農業相 W・ダレ,ナチ党組織指導者でドイツ労働戦線の指導者かつ歓喜力行団や「騎士団の城」の創設者 R・ライ,ドイツ国立銀行総裁で経済相 H・シャハト,大蔵省書記官 F・ラインハルトなどの著作・論説・演説などが含まれている。以上のほか,労働組織・労働政策,経済・通商・工業政策,農民・農業政策,社会政策,財政政策,戦時経済政策,各種統計に関するナチス期の文献・資料などが入っている。

10)ヒトラーと国防軍(39件)
 39件のうち17件が戦前の資料で,「コンドル兵団」(スペイン内戦介入の担い手)の報告書『ドイツ人はスペインで闘う』のほか,第2次大戦中の前線兵士向けの雑誌“Deutsche Wegleiter”, “Signal”など貴重な資料のほか,H・ゲーリング(国家元帥,帝国国防会議議長)に関する戦前・戦後の文献・資料が入っている。戦後のものは,独ソ戦をはじめ,ポーランド,オーストリア,ヴァルカンに対する外交・戦争政策に関するものや,ナチスドイツ諜報機関に関する研究書が多い。

11)ナチの反ユダヤ主義政策(65件)
 戦後のもの12件を含むが,それ以外のほとんどはワイマール期から第3帝国にかけてのナチスによる反ユダヤ主義の宣伝文書・パンフレット・書籍である。

12)強制収容所関係(126件)
 戦中のもの12件,戦後直後(45-49)のもの36件,それ以降のもの70件になる。戦中のものは亡命者により出版されたものである。戦後直後の資料には強制収容所の体験記録が多い。自力解放したブーへンヴァルト関係が9件と圧倒的に多く,続いてダッハウ,アウシュヴィッツ,ザクセンハウゼンその他の記録が入っている。婦人強制収容所のラーベンスブリュックの記録もある。 50年以降の研究書・文献ではアウシュヴィッツが14件と最も多く,ついでマウトハウゼン,ブーへンヴァルト各4件その他となる。

13)抵抗運動,戦犯,ニュルンベルク裁判,アイヒマン裁判(46件)
 ほとんど戦後刊行されたものである。抵抗運動関係は,「白バラ運動」,ヒトラー暗殺事件,ボンヘーファーの教会闘争,などでそれほど多くはない。ニュルンベルク国際軍事法廷と戦犯に関するものは,個別法廷のケースを含め11件,アイヒマン裁判関係は7件(H・アレント関連2件),戦後の非ナチ化政策に関するもの3件などが含まれる。

14)15)ヒトラー・ゲッべルス・シーラッハの手紙(10件)
その他(7件)

後記:本コレクションは,田口晃教授(法),今井弘道教授(法),加来祥男教授(経)と共同で推薦したものである。