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推薦者 : 千葉 惠 (文学研究科)
Japan’s Best
Living for Jesus and Japan : the social and theological thought of Uchimura Kanzō / edited by Shibuya Hiroshi and Chiba Shin. - Eerdmans Pub., 2013
北大ではどこにある?
本書は皆さんの大先輩札幌農学校二期生内村鑑三の研究書です。
新しい日本の黎明期、明治、大正そして昭和初期を力一杯駆け抜けたこの人物は思想家として信念を貫いた魅力ある人物です。外国人にも魅力的に見え、彼の諸著作は数カ国語に翻訳され、外国人による研究書は私の知る限りでも10冊を超えています。
本書は主に日本の内村研究者たちにより、彼の平和思想、愛国心そして神学思想を中心に人文学、自然科学に通じたジェネラリスト、社会思想家そして信仰者にしてキリスト教独立伝道者としての内村の諸側面を明らかにすることをめざし編集された英語論文集です。この... [続きを読む] -
推薦者 : 千葉 惠 (文学研究科)
最後まで読めるカントの『純理』
純粋理性批判(熊野純彦訳) / カント. - 作品社, 2012
北大ではどこにある?
この名著については邦語においても数種類の翻訳を容易に手にすることができます。今年出版されたあたらしい熊野純彦氏による訳業は、従来の成果を取り入れつつ、従来のゴツゴツした訳業とは異なり、あまり負荷をかけられることなしに「分かる」という感覚の中で読み進めることができます。学問に憧れをもつ多くの人々が大学生になったことを期にこの難解の誉れ高い書を手にして挑戦してきました。私もそのひとりでしたが、その当時最後まで読み進めることはできませんでした。今の若者は幸いな翻訳にであえたと言うことができます。カントはこの書で理性が理性自身を吟味し... [続きを読む] -
推薦者 : 千葉 惠 (文学研究科)
あらゆる学問の基礎
The Oxford Handbook of Aristotle / ed.Christopher Shields. - Oxford University Press, 2012
北大ではどこにある?
本書においては、その後の人類の知的な営みにおける思考の規範となりあらゆる学問の基礎となったアリストテレスの哲学についてそれぞれの領域の第一人者24人(26章)の執筆者により包括的な研究および紹介がなされています。推薦者が今思いますのは人間の正しい思考方法がアリストテレスにより明晰に提示されたからこそ、ひとはいかなる領域においてであれ思考を進めるためにはアリストテレス的に思考せざるをえないということです。彼は「美しく問い(行き詰まり・アポリア)をたてること」が、その解に導くと言います。そして人類にとって、そのような方法は他にない... [続きを読む] -
推薦者 : 千葉 惠 (文学研究科)
惹きこまれ一気に読める素粒子宇宙論入門
宇宙に終わりはあるのか?素粒子が解き明かす宇宙の歴史 / 村山斉. - ナノオプトニクス・エナジー出版局, 2010
北大ではどこにある?
評者の書架には素粒子論や宇宙論の基本書、入門書が何冊かほこりをかぶっている。本書は稀なことにも「分かる」という感覚を頁毎に持続しながら、惹きこまれて一気に読むことができた入門書です。150頁の小著ということもありましょうが、評者には幸いな出会いをもたらしてくれ、あいまいで雑然としたなまかじりの知識に秩序と生命を与えてくれました。書名副題にあるように、著者は極微の素粒子の世界の解明が130億年の宇宙の構造と歴史の解明の手掛かりであることを明晰かつ簡明にそして説得的に展開しています。物理学のこの領域においては何が問題になっており、... [続きを読む] -
推薦者 : 千葉 惠 (文学研究科)
哲学の始原がよくわかる
Definition in Greek Philosophy / ed.David Charles. - Oxford University Press, 2010
北大ではどこにある?
本書により哲学の揺籃であるギリシア哲学において、とりわけソクラテスがこだわった事物の同一性とその認識の問題がプラトン、アリストテレスそしてストアにおいてどのように理解され、哲学理論へと展開されていったかをテクストに即して理解することができる。周知のようにソクラテスは会う人ごとに、勇気とは、節制とは正義とはそして幸福とは「何であるか?」を尋ね、共に探求した。当時の人々同様多くの人が持つ哲学の理屈っぽさのイメージはこのソクラテスの問答の持つ吟味、論駁の詳細さそして厳密さに起因しているように思われる。しかし、本書によりこの「何である... [続きを読む] -
推薦者 : 千葉 惠 (文学研究科)
学際的研究の模範
光と視覚の科学―神話・哲学・芸術と現代科学の融合― / アーサー・ザイエンス. - 白掦社, 1997
北大ではどこにある?
本書は物理学者であるザイエンスによる、一切のものの基礎にある光についての哲学、宗教、芸術など人間の知力と想像力を駆使して解明にせまる、通史としての学際的研究の著しい成功例である。光の解明に取り組む物理学者、哲学者、数学者たちの知的営為が彼らの人間性を知らせる興味深いエピソードとともに、わかりやすく解説されている。「あらゆる物理系の振る舞いの背後、あらゆる物理法則の背後に何があるのか」という問いが本書を読むことにより道理あるものとして受け止められるのは、事物の一切に浸透する光という形而上学的な対象の故にであろう。アインシュタイン... [続きを読む] -
推薦者 : 千葉 惠 (文学研究科)
人文学はどのようなひとを育てるか
哲学修業時代 / H.G.ガーダマー (中村志朗訳). - 未来社 , 1982
北大ではどこにある?
本書は哲学、そして広くは文学、神学などを含む人文学一般への、生き生きした人物評伝を媒介にしたものとしては、最良の入門書であろう。1900年ドイツ生まれという著者が生きたその時代が人類史においても特筆すべき時代であったことからくる興味深さもさることながら、本書は人文学を学んだひとはどのようなひととなり、そしてどのように人々と交わるかを、さらに人間を愛情をもってどれほど豊かなものとして、また正確さにおいて説得的なものとして描きうるかをいかんなく伝えている。それにしても彼の交流のなんと豊かなことか、P.ナトルプ、E.フッサール、N.ハルトマン、R.... [続きを読む] -
推薦者 : 千葉 惠 (文学研究科)
鋭くバランスのよい人間洞察
アリストテレス『ニコマコス倫理学』 / アリストテレス (訳者朴一功). - 京都大学出版会 西洋古典叢書, 2002
北大ではどこにある?
本書はその後のヨーロッパのひとびとの精神形成のうえで『聖書』とならんで大きな影響を与えた名著です。本書においては、幸福や徳そして抑制のなさなど人間の魂の諸様態が分析されますが、ここには個人的には誰をも拘束しないが、普遍的には万人を拘束するそのようなロゴスの普遍的な力があります。鋭い魂の動きの観察と同時に人間であること全体の広い視野のなかで、魂の分析が問いの美しさと鋭さのなかで遂行され、問いから答え、答えから問いの連鎖において思考が着実に前進し、人間本性の解明が力強くしかも繊細になされています。人類が持ちえた最良の頭脳がどれほど... [続きを読む]