推薦者: 千葉 惠
所属: 文学研究科
最後まで読めるカントの『純理』
タイトル(書名):
純粋理性批判(熊野純彦訳)
著者:
カント
出版者:
作品社
出版年:
2012
ISBN:
4861823587
北大所蔵:
推薦コメント
この名著については邦語においても数種類の翻訳を容易に手にすることができます。今年出版されたあたらしい熊野純彦氏による訳業は、従来の成果を取り入れつつ、従来のゴツゴツした訳業とは異なり、あまり負荷をかけられることなしに「分かる」という感覚の中で読み進めることができます。学問に憧れをもつ多くの人々が大学生になったことを期にこの難解の誉れ高い書を手にして挑戦してきました。私もそのひとりでしたが、その当時最後まで読み進めることはできませんでした。今の若者は幸いな翻訳にであえたと言うことができます。カントはこの書で理性が理性自身を吟味し、純粋な理性の機能は何かを明らかにしそしてそれはどこまで及ぶのかの解明に取り組んでいます。真理の消極的な規準を示すアリストテレス以来の一般論理学とは別に、「超越論的論理学」を構想します。「超越論的」とは「対象にではなく、私たちが対象を認識するしかたに、その認識のしかたがア・プリオリに可能であるべきかぎりで総じてかかわる認識」(熊野訳B25)であり、認識の可能性それ自体を解明する次元を切り開いています。超越論的論理学には分析的な部門と弁証論的部門があります。超越論的分析論はそれをつうじてのみ対象が思考されうる「純粋悟性認識の要素」としてのカテゴリー(範疇)と諸原則を論じます。これに反して、カテゴリーと様々な原則(例「原因性の原則」)とを「経験の限界を超えてまで」使用するとき、弁証論的な次元が開け、思弁的形而上学を生み出します。カントは言います、「感性界を超えでて、そこでは経験がもはやいかなる手引きも是正もあたえることのできない認識にこそ、私たちの理性の追究するところがある。・・そこで私たちは・・あやまりに陥る危険を冒してでも、いっさいを賭しても遂行しようとする。純粋理性そのものにとって不可避な課題は、神と自由と不死性である」(B6f)。このすぐれて崇高な問いであるがゆえに斥けることのできない形而上学の問いに君も挑戦してみてはいかがですか。正しく思考する訓練を受けることにより、これらについても正しく問いを立て、思考を前進させることができるのです。
※推薦者のプロフィールは当時のものです。