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評者の書架には素粒子論や宇宙論の基本書、入門書が何冊かほこりをかぶっている。本書は稀なことにも「分かる」という感覚を頁毎に持続しながら、惹きこまれて一気に読むことができた入門書です。150頁の小著ということもありましょうが、評者には幸いな出会いをもたらしてくれ、あいまいで雑然としたなまかじりの知識に秩序と生命を与えてくれました。書名副題にあるように、著者は極微の素粒子の世界の解明が130億年の宇宙の構造と歴史の解明の手掛かりであることを明晰かつ簡明にそして説得的に展開しています。物理学のこの領域においては何が問題になっており、どのような理論が解として立てられ、実験により検証され疑いのないものになっていくかが、歴史的な展望のなかで理論と実験のバランスのよく取れた記述と図解により提示されています。「素粒子は・・すべての自然事象の基本になっている粒子です。宇宙の始まりでは、宇宙自身が小さかったので素粒子が主役の世界でした。その素粒子たちのふるまいが、なぜ宇宙に銀河ができたか、それから私たち自身の存在、つまり、暗黒物質の起源と、なぜ物質と反物質の違いができたかということに関わっていると考えられます」(p.129)。なお日本のノーベル物理学賞受賞者たち(湯川、南部、小林・益川理論)が連続的に位置付けられ、彼らの仕事がどれだけ画期的なものであるかも分かりやすく臨場感をもって描かれています。確かに、ユニークな発想の連続です。物理の思考が、一般的にもその通りなのですが、問いをどのように提示するかに、その解明の道筋が依拠しているそのような思考であることがわかります。個人的には四つの力の統一理論の方向性について理解が進み喜んでいます。ともあれ、初めて宇宙論、素粒子論に挑戦する学生諸君に薦めると同時に、また何度も挑戦しつつも挫折した学生諸君には諦めずに本書により再挑戦を薦めます。 |