推薦者: 千葉 惠
所属: 文学研究科
哲学の始原がよくわかる
タイトル(書名):
Definition in Greek Philosophy
著者:
ed.David Charles
出版者:
Oxford University Press
出版年:
2010
ISBN:
978-0-19-956445-3
北大所蔵:
推薦コメント
本書により哲学の揺籃であるギリシア哲学において、とりわけソクラテスがこだわった事物の同一性とその認識の問題がプラトン、アリストテレスそしてストアにおいてどのように理解され、哲学理論へと展開されていったかをテクストに即して理解することができる。周知のようにソクラテスは会う人ごとに、勇気とは、節制とは正義とはそして幸福とは「何であるか?」を尋ね、共に探求した。当時の人々同様多くの人が持つ哲学の理屈っぽさのイメージはこのソクラテスの問答の持つ吟味、論駁の詳細さそして厳密さに起因しているように思われる。しかし、本書によりこの「何であるか?」の問いが明晰な仕方でほぐされ再提示されるとき、ソクラテスは何かゆきあたりばったりに論駁し相手をへこませているように見えるその営みが実はその後の哲学の営みの基本的な諸問題を提示していた根源的な営みであったことを知ることができる。ウィトゲンシュタインが'Identity is devil'と叫んだが、この同一性の問題こそたとえばプラトンのイデアやカントの「もの自体」を要請せざるをえない超越論的圧力の原動力なのである。編者D.CharlesのIntroductionは現在他の誰にも書くことができないと思われる周到で興味をそそる論述である。推薦者もアリストテレスにおける「何であるか?」の理論的分析が、述定の範疇、存在者の範疇さらにはものそれ自体としての「本質(何であったかということ)」として提示され、その後の哲学の営みを規定したことを論じている。本書により哲学は単に理屈ではなく、ソクラテスが生涯かけて探求したように、事柄そのものを探求する勇敢な営みであることが理解されることを願う。
※推薦者のプロフィールは当時のものです。