本は脳を育てる ~北大教職員による新入生への推薦図書~ 

推薦者 :  大平具彦      所属 :  メディア・コミュニケーション研究院      身分 :       研究分野 : 
《2008年ノーベル文学賞受賞!!》芸術、文学、ヨーロッパ思想を学ぶ者にとって必読の書
タイトル(書名) 悪魔祓い
著者 J.M.G.ル・クレジオ〔著〕 ; 高山鉄男訳
出版者 新潮社
出版年 1975
ISBN
北大所蔵 北大所蔵1 北大所蔵2 北大所蔵3 北大所蔵4 北大所蔵5 
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推薦コメント

 ル・クレジオは現代のフランスの作家。1960年代に前衛的作家として華々しくフランスの文壇にデビューしたあと、現代の西洋文明に飽き足らず、パナマでアメリカ先住民とともに長らく暮らし、スペインに征服される前のメキシコの文明に深く分け入って、芸術とは何か、文学とは何か、文明とは何かを、人類的なトータルな視野から探り続けてきた。本書は、パナマ先住民との生活を通して、彼らの芸術観、生命観、宇宙観をヨーロッパとの比較のもとで描き出したもの。ル・クレジオは、よくあるように、アメリカ先住民の文明を、西洋文明にまだ犯されていない無垢なるものとして語るのではない。そうではなく、われわれが最先端であると思っているその西洋文明がいかに一面的であり、先住民の文明がいかに叡智に満ちているかが、説得力ある文体で根本から明かされてゆく。


ル・クレジオ氏は,2008年ノーベル文学賞を受賞されました。
#この受賞に祝し,大平先生から寄稿していただきましたので,公開いたします。(北分館2008-10-23)


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ル・クレジオ、札幌シンポジウムでの思い出 
 ――ル・クレジオのノーベル文学賞受賞に寄せて



 ル・クレジオがノーベル賞を受賞した。彼の作品が提起し続けている根源性からみて、当然の受賞であるように思う。そのニュースを知って先ず思い浮かべたのは、文化人類学者で以前に札幌大学に勤めていた今福龍太氏(現東京外国語大学)の招請で彼が来日し、2006年1月25日に先ず札幌でシンポジウムを開催した(於:札幌大学)時のことである。テーマは「野生の物語、人間の物語──先住民神話と文学」。パネリストは、ル・クレジオ、今福氏、作家の津島佑子氏、そして私(大平)と高橋純氏(小樽商大)が、通訳兼パネリストとして加わった。シンポジウムはル・クレジオが先ず、メキシコ先住民の神話や文明を中心に、パナマでの先住民との生活体験を絡めながら話し、津島佑子氏がアイヌ叙事詩ユーカラをそれに関連させる形で進んでいった。 
 ル・クレジオには、作家というよりも、聖者のようなアウラが宿っていた。端正な風貌に刻まれた知性の年輪、澄み切って果てしない奥深さを湛えた眼。だが探求の道を歩み続ける者にふさわしく、声は太く若々しい。全体から受ける印象は、世界の智恵の在り処を探り続けてきた求道者の姿そのものだった。物静かさと凄さが一体となったその語り口や身のこなしは、今でもはっきりと脳裏に焼きついている。
 ル・クレジオは、よくあるように、西洋文明の眼差しによって、アメリカ先住民の文明を無垢なるものとして持ち上げるのではない。そうではなく、西洋文明を文明本来からの逸脱として、アメリカ先住民が育てた世界の智恵を通してそれを書き換えてゆこうとするのだ。コロンブス以降500年の歴史にとって、そしてある時期から西洋文明をひたすら追い続けてきたわれわれにとって、ル・クレジオの言葉のひとつひとつは、深くかつ重い。
 「すべてはつながっている」、これは、アメリカインデアンの酋長からのメッセージとして、ル・クレジオが最近作『歌の祭り』で、ある章のタイトルに掲げている言葉である。これは、「グローバリゼーション」として喧伝される大変動の時期を生きてゆくにあたって、それとは異なる次元の「智恵」の言葉として、深く心にとどめておくべきだろう。
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#【北分館に所蔵しているル・クレジオの邦訳作品】(北分館2008-12-26)
# ・『Relation de Michoacan

※推薦者のプロフィールは当時のものです。

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