本は脳を育てる ~北大教職員による新入生への推薦図書~ 

推薦者 :  宮本 淳      所属 :  高等教育推進機構      身分 :  教員      研究分野 : 
「少年よ、迷い悩め」
タイトル(書名) アンパンマンの遺書
著者 やなせたかし
出版者 岩波書店
出版年 2013
ISBN 4006022336
北大所蔵 北大所蔵1 
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推薦コメント

この本のタイトルにちょっとドキッとした人もいるかもしれません。「遺書」とありますし、この本の著者で、アンパンマンの作者であるやなせたかしさんは、2013年10月13日に94歳で永眠されています。でも、タイトルを見て是非読んでみたいと思った人もいませんか?小さいころ大好きだったアンパンマンの遺書?!何が書かれているのだろう...ちなみに絵本ではありません。推薦する私がこの本を読んだ理由は2つです。ひとつは、私の実家が高知県にあること。高知県はやなせさんの出身地です。私は高知で暮らしたことがありませんが、両親がリタイヤ後に自分たちのふるさとである高知に戻ったため、その後帰省先になりました。2つめは、私の子どもが、アンパンマンが大好きなこと。最初に発した意味のある言葉が、「ンパ(アンパンマンのこと)」だったと記憶しています。そして、高知の山の中にあるアンパンマンミュージアムへ帰省の度に行きたいとねだられ、何度行ったことか。子どもたちは、なぜこれほどまでにアンパンマンに惹かれるのかと思いつつ、私のルーツである高知県出身のやなせさんの著書を何でもいいから読んでみたいと、アンパンマンミュージアムを訪れた時に手にしたのがこの本です。
さて、前置きが長くなりましたが、私は図書館の「少年よ、学部を選べ」と企画に際し、本の推薦を依頼され、この推薦文を書いています。この本の中に「数学駄目人間」という章があります。医師である伯父さんに育てられていたやなせさんは、医大へ進学することを勧められたのですが、数学が苦手なので断念したそうです。浪人を経て、伯父さんに「図案なら飯が喰える」と言われ、図案科とはいったい何か何も知らずに受験し、めでたく難関を突破して、東京高等工芸学校図案科(現千葉大学工学部)に入学したそうです。私には行き当たりばったりにしか見えませんが、やなせさんは「この東京高等工芸学校図案科はその後のぼくの人生のすべてに深くかかわってくる。この学校でなければ、今のぼくはなかったと思う。」と書いています。図案科からアンパンマンへ至るやなせさんの波乱万丈の人生は是非本を読んでいただきたいのですが、これは学部学科選択がその後の人生を決定した成功例と言えるでしょうか?仕事で世の中に貢献するという意味で人生半ばであると思っている私はどうでしょうか。私は、ある勉強がしたいと目標を持ち、大学入学前に学部学科を決めて進学しました。その後、思った通りの勉強をすることができ、研究を続け、現在も大学で働いています。これは成功例でしょうか?私の場合はこのように書くとすべて順調のように見えますが、実は日々迷い悩んでいます。やりがいのある仕事をしつつも思い描いていた方向からは少しずつずれてきています。やなせさんと私の違いは何でしょうか?どちらが正解か?とまではいかなくてもどちらがより良いか?例えば、今あなたが親から「将来就職に有利だから○○学部に進んだらどうか」と勧められているとしましょう。一方であなたは、就職のことを抜きにして、純粋に研究したいことがあって△△学部に進みたいと思っている。さて、あなたならどうする?私としてはもちろん後者を勧めたい。しかし、後で就職に失敗したと言われる可能性もある。無責任には勧められないと思っている私はまだまだ人生観が固まっていません。どちらにするか明確な答えはないでしょう。要は周りが何と言おうとあなたが人生の岐路に立った時、最終的には自分で決断しなければならないのです。ようやく本題です。このような時、この本はあなたに何をもたらすのか。決断するきっかけや決断するための材料をくれるのだと私は思っています。この本のように自伝的な内容であれば、実在の人物が人生の様々な場面で実際に何を考えたのか、どう行動したのかなどを知ることができます。この本に限らず、本から様々な人の多様な考え方を得ることができます。そして、それらの人の考えや行動を単に取り入れるのではなく、全く新しい自分の人生観を創り出して、決断に踏み切ってください。
長くなりますが、最後にこの本は私にどのような影響を与えたのかを簡単に。私にとってやなせさんは身近な存在だと思っています。アンパンマンと一緒に眠るやなせさんのお墓も訪れました。やなせさんは厳しい時代背景の中で人生を切り拓き(時に行き当たりばったり?)、アンパンマンがヒットしたのは70歳を超えてからとのことです。アンパンマンのストーリーとこの本からやなせさんの人生を知った時、私は日々迷い悩んでいますが、それでいいのかも、うまく定まらない道を楽しく歩こう!と思えた、そのことがこの本から得られたことのひとつです。皆さん是非この本を読んでみてください。そして機会があれば、皆さんの感想を聞かせてください。

※推薦者のプロフィールは当時のものです。

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