本は脳を育てる ~北大教職員による新入生への推薦図書~ 

推薦者 :  小泉格      所属 :  総合博物館      身分 :       研究分野 : 
タイトル(書名) 深海底の科学 : 日本列島を潜ってみれば (NHKブックス;814)
著者 藤岡換太郎著
出版者 日本放送出版協会
出版年 1997.11
ISBN 4140018143
北大所蔵 北大所蔵1 
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推薦コメント

表記の「NHKブックス814」は、一つ一つの話題が要領よくまとめられているので、どこから読んでも良いところが特徴と言える。

骨子となる六章は組み立てが良く考えられていて、
 序章 地球の見方−潜水調査船科学への招待
 第一章 地球科学の基礎知識−動かざること大地の如し
 第二章 深海から見た東日本列島−ふるいプレ−トの沈み込むところ
 第三章 深海から見た西日本列島−若いプレ−トが沈み込むところ
 第四章 海の後ろに海がある−日本海の背弧海盆に潜る
 第五章 日本列島周辺のプレ−トの境界
 終章  深海探査に何ができるか−環境・災害・資源
そして付録の「しんかい6500」物語から構成されている。各章が一冊の本になるほどの内容を持つと言える。

 世界で現在運用中の主な有人潜水船や無人探査機の能力は、日本がいずれも一位である。「しんかい6500」は世界の海の98%に潜航できる能力をもっているし、「かいこう」は残りの2%に潜れるのである。しかし、マリアナ海溝の最深部チャレンジャ-海淵に潜って10,912mの世界記録を達成したのは、米海軍の有人潜水船トリエステで、1960年のこの記録はまだ破られていない。水深2,000mを超えると、太陽光線の届かない暗黒の世界が広がっている。
 海底に到達すると、黒煙を上げながら噴き出す熱水とその周辺には金、銀、銅、鉛、亜鉛などの金属やシロウリガイ、シンカイヒバリガイなどの生物群集が生息している。 三陸地震の震源近くでは、海溝に沈み込むプレートが曲げられ裂けた跡が見つかっている。日本近海において実際に潜水調査や掘削調査にたずさわった体験に基づいて書かれているので、海底の細部が具体的で直接的なイメージが伝わって迫力と説得力がある。

 基本的な展開は、何故そうした調査が必要であったかの歴史的経緯、調査の原理と方法、実際の調査の様子、調査のエピソ−ド、調査の結果、そして今後に残された課題といった案配である。この本で解説されている目新しい事項を挙げると、泥火山、蛇紋岩海山、九州の四大カルデラ、プルームテクトニクス、ガスハイドレート、鯨骨生物群集、化学合成生物群集、冷水湧出帯生物群集、などである。これらの6割以上が分からなかったら、お買い得のこの本を買って、この分野の先端でフル活動している概念と親しくなることをお薦めする。

※推薦者のプロフィールは当時のものです。

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