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去年から書店の本棚に“反知性主義”ということばを含む表題の本が並ぶようになってきた。国内・国外にわたって難しい問題が山積し、それらに対する処方箋がなかなか見つからない中で人びとのある種のいらだちのようなものが確かに感じられるし、それが時としてこれまでの価値観に対する破れかぶれの破壊衝動のように見える場合もあって、そのようなことばが現代社会の懸念すべき問題として本の表題になることは理解できる。しかし、その一方で、問題のあり方が様々に複雑化・多様化している世界の状況を“反知性主義”という術語で語ろうとするのもある種の“メタ・反知性主義”ではないかという疑念も抱いていた。この本は、そうした疑念に直接的な回答を与えるものではないが、なぜそうした単純/単一のことばで世界が語られてしまうのかについて有益な示唆を与えるものである。読後感は決して明るいものにはならないが、この難しい時代をどう生きるかを真剣に考えようと思うなら一度読んでおいてもいいと思う。
ちなみに、本文もさることながら「あとがき」には結構共感できる点がある。また、巻末の「読書案内-参考文献にかえて-」は、現代社会を考える上で必要な文献を網羅している好適なリストであり、(著者には怒られるかもしれないが)この部分だけでも読む価値がある。 |