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ジェンダー、あるいは男女平等/差別の問題が語られるときにほぼお決まりになっているパターンとして「男は支配する側、女は支配される側」あるいは「男は加害者、女は被害者」という言説がある。日本の社会のかなりの部分でそれは当てはまるのかもしれないが、僕はこの見方には強烈な反発を持っている。それは、“日本語教師”という「女性8割、男性2割」の業界で働いてきた経験から、女性が多数者側になれば「女性は加害者、男性は被害者」という事態も容易に出現することを知っているからである。そのような意味で日本のジェンダー研究はまだ色々なことを考え直さなければならないとずっと思っていたのだが、問題がそれだけではなく、一見支配する側/加害者と見える男性の中にも様々な男性がいてその間でさらに被害-加害、あるいは優位-劣位の構造があることをこの本を読んで初めて知った。
著者の多賀氏は、こうした男性の内部に抱え込まれている問題に早くから目を向けて研究に取り組んできた研究者であり、この本は一見男性優位と見える社会の中にある複雑な関係を明らかにして、新たな研究と問題解決の方向を示そうとするものである。ジェンダーをめぐる問題に関心のある人に一読を勧めたい。ただ、この類の議論になれていない人は前半の理論的な問題設定が解りにくい場合もあるかもしれないので、そのときにはとりあえず第1章を読んでから現場の実例を検証した第5章に飛んで、それからまた2章に戻って読み直すと少し解りやすくなると思う。 |