本は脳を育てる ~北大教職員による新入生への推薦図書~ 

推薦者 :  中村重穂      所属 :  国際連携機構国際教育研究センター      身分 :       研究分野 : 
新たな歴史哲学を考える原点として
タイトル(書名) 歴史における言葉と論理-歴史哲学基礎論-
著者 神川正彦
出版者 勁草書房
出版年 1970-1971
ISBN
北大所蔵 北大所蔵1 
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推薦コメント

この本については、少し過激な(?)推薦文を書きたい。

先日、某大学(敢えて名は秘す)の日本現代(1950年代以降)哲学の授業のシラバスを見ていたら、そこで取り上げてられているのが大森莊藏、廣松渉、坂部恵であった。しかしこれでは、結局戦前は「京都学派」で、それが戦後になったら“東大”に変わっただけじゃないか、という印象を拭えない。日本の哲学というのは京大と東大の“官学アカデミズム”の中で選手交代をやっていただけだとしたらあまりにも悲しい。ここに推薦する神川正彦は、今はもう哲学専攻の学生でも名前を知らない人が多いかもしれないが、上記のお三方と比べても遜色のない哲学者だったと個人的には思っている。大森、廣松、坂部が全集や著作集を出せるなら、決して多作ではなかったにしても神川も著作集くらいは出版されて然るべきである。この本は、2巻で800ページを超える大作であり、読むのはとても骨が折れる(僕も読み終えるまで半年かかった)。しかし、戦後、「歴史哲学」という分野が少なくとも日本では-おそらくは戦時中の京都学派の歴史哲学がファシズム翼賛だと戦後になってマルクス主義の立場から激しく批判されたことを受けて-大きな主題になり得なかった時代に一人黙々とその課題に向き合って思索を続けた神川の哲学の意義はあらためて評価されるべきであると考える。この基礎があってこそ、1990年代以降野家啓一や大橋良介によって歴史哲学の再構築が始まったのであり、神川自身は歴史哲学からさらに歩を進めて比較文明学・価値哲学の壮大な体系構築を企図していった。その点でも今後の歴史哲学研究に与える示唆は少なくないと思われる。

近年、日本の近代/現代哲学についての研究は盛んになりつつあるが、真に研究する価値のある哲学者が認められる時代が来ることを願って推薦した次第である。

※推薦者のプロフィールは当時のものです。

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