| |
以前の推薦文に、最近岩波新書(新赤版)がつまらなくなってきた、と書いたが、最近の新書(岩波に限らない)ときたら、もう池上彰、佐藤優、島田裕巳、内田樹ばかり目立つ(少し前ならこれに香山リカも入っていた)。商業的に売れる本を書きたいというのは出版社の本音だろうし、若者の読書離れなどということも言われる中で出版社の新書編集部も大変だろうなぁとは思うが、こうも顔ぶれが変わらないと彼らの熱烈なファンでない限り購買意欲が逆にそがれてしまう。それにしても、この四人はよくも新書の大量執筆ができるもので、その点はうらやましい限りである。
閑話休題、ここに推薦する新書は、研究上の必要から照井亮次郎という人物のことを追いかけていたときに見つけたものであるが、照井に関する章だけでなく、その他の章でも辞書作りに執念を燃やした人物たちのあまりにも面白く波瀾万丈な物語に引き込まれ、最後まで読み通してしまった。推薦文の「辞書にはドラマがある」というのは、著者の田澤氏が「まえがき」の冒頭に掲げていることばであるが、この本でその言わんとするところを読み取ってみてほしい。田澤氏は、なぜ「辞書編纂者」ではなく「辞書屋」ということばを使ったのかも「まえがき」で明らかにしているが、この本を読めば、その理由に深く納得できるだろう。「終章」には、田澤氏自身のドラマも書かれている。いつか北大からも「辞書屋」になってその人なりのドラマを演じる人間が出るかもしれない。推薦者としてはそれも楽しみなことである。 |