本は脳を育てる ~北大教職員による新入生への推薦図書~ 

推薦者 :  中村重穂      所属 :  国際連携機構国際教育研究センター      身分 :       研究分野 : 
「馬鹿ばかしさのまっただ中で犬死しないための方法」とは何か?
タイトル(書名) 赤頭巾ちゃん気をつけて
著者 庄司薫
出版者 新潮社
出版年 2012
ISBN 4101385319
北大所蔵 北大所蔵1 
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推薦コメント

この小説は、一時期多くの読者の心を捉え、近年また出版社を替えて文庫化されるほどに読み継がれてきた名作である。大学紛争(と言ってももう知識としてしか知らない学生ばかりだろうが)で1969年度の東大入試が中止になるという時代背景の中、東京都立日比谷高校3年生の「庄司薫」君の饒舌的で独白的な文体を軸に綴られたこの作品を高校時代に最初に読んだとき、僕は作者が本当に日比谷高校3年生ではないかと思ったほどである。著者の庄司氏と僕はちょうど20歳の年齢差があるが、僕自身―全盛期末期か凋落期かの違いはあれど―都立高校に在籍し卒業した者として主人公の「薫」君にもの凄く感情移入してしまい、ついに日比谷高校を見物(?)しに行ったのを覚えている(僕は学区が違ったので日比谷高校は受験できなかった)。

特にこの本に影響を受けたのは、主人公の兄が書いた「変てこな本」、『馬鹿ばかしさのまっただ中で犬死しないための方法序説』に出てくる「どうでもいいことから逃げて逃げて逃げまくる」という“思想”で、主人公の「薫」君はこの“思想”をどう実践するかに悩みつつ自分のあり方を模索していくのだが、僕も僕なりにこの“思想”を実践してみようと色々試みたことがあるし、今でも時々日常がしんどくなるとこのことばを思い出すことがある。その意味で、僕にとっては忘れられない作品であり、既に読んだ人にも新しい読み方の可能性を探してもらえればと思うし、まだ読んでいない人には新しい読書体験となるであろうと思い、推薦することにした。この本が文庫化されたとき(だったと思うが)に著者は「四半世紀たってのあとがき」を書いているが、今回2012年の新潮文庫での刊行に際しては「あわや半世紀のあとがき」を書いている。是非味読してほしい。

ただ、余計事を書くと、新潮文庫の解説を書いている苅部直氏(この作品の中でネタにされている筑波大学―当時は東京教育大学―附属高校の卒業生)は、「六九年当時の風俗を示す言葉については、調べれば簡単にわかるだろうし、意味を取れなくても物語の理解に大きな支障はない。」と書いているが、あの時代をリアルタイムで生きて、同じ都立高校を卒業した僕は、いくらWikipediaがあると言ってもやはりそろそろこの本にも親切な「注」が必要なのかもしれないと思っており、その点苅部氏との温度差を感じてもいる。

思い入れが強すぎて推薦文が思わぬ長文になってしまった。ご容赦いただきたい。


※推薦者のプロフィールは当時のものです。

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