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社会心理学者・南博先生による日本人の心理的特性を扱った本。初版は1953年と結構昔のものであるが、個人的には今でも十分読み応えのあるものだと感じた。江戸時代の各種養生書・処世書などをベースとしつつ、出版の処世書(今でいう自己啓発本か?)などからも引用をし、日本人の心理を整理している。日本人論の初期作品と言っていいかもしれない。もっとも日本人論と言っても、出版された当時の社会状況を反映してか、多くの日本人論に見られるような日本の素晴らしさを唱導する論調は見られない。むしろ軍隊や戦争、日本の権威主義的人間関係などを鋭く批判するというスタンスが感じられる。その意味で、日本人論としても少々異色なものなのかもしれない。
個人的に今日を感じたのは「不幸感」「非合理主義と肉体主義」という項目である。「苦労はひとにつきもの」という言い方に代表されるように、不幸であること、多くの苦労を抱えていることこそが幸福であるという逆説的な心理・価値が日本には見られるという。軍隊組織のように、理不尽さをかいくぐることで理不尽を理不尽と思わなくなり、自ら理不尽な状態を望むような日本的マゾヒズムが生じるという。武士道というものも日本的マゾヒズムの顕現であると指摘している。
「非合理主義と肉体主義」は「運命主義」を論じた箇所である。ある困難な状況を天の定めだと思う、あるがままを受け入れる、考えるようにする、諦めるようにする、気にしないようにする、と認知的フレームを変えることで、心理的健康を保つという心理プロセスがしばしばみられるという。現代風に言えば、運命主義がストレスの緩衝効果をもっている、という命題になるだろうか。
いずれにせよ、非常に充実した本である。初版はもう60年近く前のものだけれども、本書を読んだ多くの方は思わず膝を打ってしまうことが多いのではないか。集団関係・人間関係・巷に流布している各種処世術に何か違和感を感じた時に読むと、その違和感の謎が解けるような、不思議な本である。 |