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聖書やキリスト教の中心的テーマはやはり何と言ってもイエス・キリストであり、そのイエスがどういう人物だったのかという問いは、そういう研究の根底にある問題だと言えます。学問的にイエスの生涯を論じた書物は他にも数多くあり、その意味では別の本も薦められますが(例えばE・P・サンダース『イエス』)、読み物としてはタイセンのこの本がお薦めです。
実は、イエスの生涯を物語風に書いた本も既に数多く世に出ており(例えばモーリヤック、遠藤周作、三浦綾子)、それらもそれぞれに一読の価値がありますが、このタイセンという著者は、もともと新約聖書を専門的に研究してきた学者なのです(今日(こんにち)の聖書学者の中で最も高名だと言ってよいでしょう)。そういう学者が書いた小説だというところに本書の特徴があります。つまり本書でタイセンは、あくまで学問的な成果を踏まえつつ(ここがその他多くのイエス伝物語と異なる点です)、想像力をはばたかせて、当時の人の目から見てイエスがどのように見えたか、また特に、イエスに関する伝承が人々の中でどのように形づくられていったのか、といったあたりを興味深く描き出しているのです。大学生としてイエス・キリストという人物について考えるための第一歩として、ぜひ一読をお薦めします。 |