本は脳を育てる ~北大教職員による新入生への推薦図書~ 

推薦者 :  中村重穂      所属 :  国際連携機構国際教育研究センター      身分 :       研究分野 : 
高校で読まされてウンザリした人に敢えて今勧める
タイトル(書名) 舞姫
著者 森鴎外
出版者 筑摩書房
出版年 1995
ISBN 4480029214
北大所蔵 北大所蔵1 
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推薦コメント

今回、この「本は脳を育てる」に推薦された本を全部見てみた。(僕は別として)北大の優秀な先生方が思い入れ充分に推薦しておられるのだからそれなりに読む価値があるのだとは思うけれども、なぜか古典と言われる作品が洋の東西を問わず少ない。僕も書いたことがあるから他人のことをあげつらってはいけないのだが、何となく新刊書の紹介のようになっている観がある。古典は高校までの間に読んでいるはずだから、今更勧める必要もないという考え方もあるかもしれないが、古典が古典と言われるほどまで時代を超えて生き続けるのは、人間の成長とともに様々な新しい読み方を汲み出すことができるからだと僕は思っている。そこまで読み継がれてきたのだから中身自体は古くさいのが当たり前なのだ。その古くささの向こう(あるいは奥)に何か光るものが見え(た気がす)るから、人は古典を読み続けるのだと思う。
そこで『舞姫』である。これは、僕が高校生時代には-今もそうらしいが-高校の教科書に載っていて、現代国語の授業でいわば無理矢理読まされたものである。文体はわかりにくいし、内容は湿っぽいしで、おまけに担当した教師が、この作品を、山縣有朋をモデルとする天方伯爵即ち権力者に弱みを握られて首根っこを掴まれた哀れな男・太田豊太郎=森鷗外自身の慨嘆の書であるという解釈をしたものだから、もう全くウンザリしてしまった記憶がある。最近この歳になって再読する機会があったのだけれども、前より数段面白く読んでいる自分に気がついて、高校時代の嫌悪感は何だったんだろうと思い直している。今の僕は、これを太田豊太郎と相沢謙吉の「男の友情」-しかも『ヰタ・セクスアリス』ともつながる一種の疑似同性愛的な関係-の物語だと解釈している(余談だが、山本鈴美香の『エースをねらえ!』も、岡ひろみを主人公とする“スポ根”漫画というよりは、宗方仁と桂大悟の男の友情の漫画だと思っている)。これはあくまで一つの解釈に過ぎないが、高校時代には思いつかなかったこうした解釈がいまできることが古典の一つの魅力だと思う。僕と同じように高校時代に教科書で読まされてウンザリした人には、今すぐでなくてもいいからいつか再読することを勧めたい。
テキストは各種あるけれども、注釈の親切なちくま文庫版『森鷗外全集1』を推奨する。

※推薦者のプロフィールは当時のものです。

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