推薦者: 中村 重穂
所属: 国際連携機構国際教育研究センター

「倫理」は可能か?

タイトル(書名):
支配と服従の倫理学
著者:
羽入辰郎
出版者:
ミネルヴァ書房
出版年:
2009
ISBN:
4623052338
北大所蔵:
北大所蔵 1 
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推薦コメント

羽入辰郎は、過去、『学問とは何か』で些か刺激的な言説を思想界に投げかけてきた研究者である。本学経済学研究科の橋本努教授が、そのホームページで「羽入-折原論争の展開」を企図され、そこに羽入の著作に対する見解が数多く寄せられたが、残念ながらこの「論争」は、生産的な方向に向かう前に羽入によって『学問とは何か』の中で終結を宣言されてしまった。
本書は、羽入の講義録を基にまとめられたものであるが、「倫理」をもし「よく生きること」と解釈するなら、「支配と服従の倫理」というのは、形容矛盾でしかないと考えられる。しかし、羽入は、人が多かれ少なかれ「倫理」的に生きようとすることが、権威や社会関係の前でいかにあっけなく崩壊してしまうか、むしろ人間がいかに外的な権威などに隷従しようとするものであるか=カント的に言えば人間が「悪への傾向性」から逃れがたいものであるかを、容赦なく明らかにし、その中でいかに生きることが可能か(→「いかに生きるべきか」ではない)を考えさせようとする。羽入自身が書いているように、時として「極論」が出てくるので読むときには注意が必要であるが、それがかえって極論ではない自分に引きつけて考えることへと読者の思考を誘導・触発していく力にもなっている。考えながら読むことの楽しさと苦労を是非体験してみていただきたい。

※推薦者のプロフィールは当時のものです。