本は脳を育てる ~北大教職員による新入生への推薦図書~ 

推薦者 :  岸本晶孝      所属 :  理学研究科      身分 :       研究分野 : 
数学と人間と
タイトル(書名) The Mathematician's Brain
著者 David Ruelle
出版者 Princeton University Press
出版年 2007
ISBN 0691129827
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推薦コメント

数学という学問では論理的に正しい事柄、論理的に検証可能な事柄だけをもとめます。その論理にだけ注目すると数学はきわめて退屈な学問、形式的な学問といえそうです。(論理計算が正当化どうかを調べるには、記号の羅列が文法規則に従っているかどうかを見るだけでよくその意味を問う必要がないので、計算機にでもやらせることができるからです。)それでもギリシャ人はその前提となっていた自明の理を疑わず数学を真理の学問と神聖視しましたが、無限を取り扱う必要にかられた現代の数学者はそれほど幸せとはいえません。ほとんどの数学者のよりどころとしている自明の理(ZFC公理系)は実はひとつの公理系(仮説)にすぎず、われわれはいわばメタ数学の大海にうかんだひとつの浮き島にとりついているに過ぎないからです。数学は真理から見放されたのです。(他の学問は何らかの「現実」との接触をたもつことで真理の学問たるを主張できるでしょう。)それにもかかわらず多くの数学者はプラトン的な真理の世界を信じ数学がそれとの接触から成立していると信じているようです。この高名な数理物理学者は、数学の織りなす概念の構造に真理の世界を透かし見るよりはこの高等生物の脳の働きの反映を認めているようで、それとは一線を画しながらこれを書いています。
ずっとむかし著者の専門書(Statistical Mechanics)を読んだことがあります。これは、ことさら数学の形式主義に忠実で、区画整理された建設途上の新興住宅地を案内されているかのようでした。この本はそれに対してパリの下町の迷路のような長い歴史と人間の営為を刻んだ小路を連れまわされて、時折見通しの良い広い広場に出ると著者のまとまった意見を聞かされるという感じです。著者をとりまく数学界と同じ研究所の同僚の話題や数学者の心理的傾向などから、先に述べた数学に対する著者の洞察まで、面白い読み物になっています。

※推薦者のプロフィールは当時のものです。

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