推薦者: 岸本 晶孝
所属: 理学研究科

天才数学者列伝

タイトル(書名):
God created the integers
著者:
Stephen Hawking
出版者:
Running Press
出版年:
2007
ISBN:
0762430044
北大所蔵:
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推薦コメント

 ピタゴラスは、エーゲ海に浮かぶサモス島で、宇宙は全き数(自然数)によって表される、と考えたそうです。そののちルート2が全き数の割合で表されない(有理数でない)ことを発見したとき、自らの宇宙観への危機をひそかに感じ、その秘匿を弟子たちに命じました。漏洩者には死がまっていました。
 ギリシャの人々の数学にかけた情熱は、広大無辺の宇宙に肉薄しようという真理にかけた宗教的情熱と一体不可分のようです。後のキリスト教の席巻はこの情熱を本物の宗教的情熱で窒息させてしまい、ギリシャ数学への新風はデカルト(1596−1650)までお預けになります。
 この本でそういう情熱の片鱗に触れると、理学博士、工学博士、文学博士などという日本でのちまちました博士号の呼称に、知に対する冒涜を感じてしまうほどです。(もっとも正確には最近は博士(理学)などといい、欧米では単に、すべてDoctor of Philosophyといいます。)
 この書物は天才数学者列伝といえます。著者のホーキング氏(物理学者)が、ユークリッド(紀元前265年ごろ没)からチューリング(1954年没)まで、二十一人の偉人の生涯と仕事を解説してくれます。いずれも数学界(思想界)に一大変革をもたらした人々です。
 この本は1300ページ以上ありますが、解説の部分は一割ほど、あとは原著論文(の英訳)です。ルジャンドルの数学書を小説のごとく読んだというガロワ(1811−1832)やリーマン(1822−1866)でない身(頭脳)とあっては解説記事を読むだけで満足すべきようです。著者の有名な書“A brief history of time” と較べると編集が完璧とは言いかねますが、数学の変遷に思いをはせ、其の理解の一助とすることができるでしょう。

※推薦者のプロフィールは当時のものです。