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見事な風景に接して、それを描こうとしても、きっとどこかで見た絵画のものまねになるように、この世界の現実を突きつけられても、それよりひとつの物語を紡ごうとすれば、きっとどこかで刷り込まれた解釈の焼き直しになるようです。著者によると(あるいは常識というべきでしょうか)、この世界の解釈は長いあいだアメリカより発信されてきました。たとえば、自由信仰にもとづく経済が世界に繁栄と安定をもたらすという託宣です。しかし(日本を除く)世界の国々はこの米国主導の解釈に対して疑念を抱き始めたようです。(例えば、昔からアメリカの支配下にあった中南米の国々が平均してその他の国々よりいま繁栄しているとはとても思えないからです。経済政策に干渉したアフリカの国々の現状をみても然りです。)疑念どころかそれを行動に移し始めたといいます。
2001年9月11日のあと、ブッシュ氏は演説の中で
You are either with us, or with the terrorists.
と厳かに述べ立てました。文脈を忘れてしまったのですが、世界にはもはやアメリカとテロ集団しかいないという宣言に違いありません。一説によると、一方の旗頭とされたオサマビンラディン氏をこれほど元気づけた言葉はないとのことです。他方、多くの友邦はこのような属国扱いに快く思ったはずはないのですが、マフィアに札束をちらつかされ脅されては抗すべきすべはありません。(もちろん札束は従順な金余りの国から巻き上げたものなのでしょう。)しかし、このような発言を臆面もなくできるブッシュ大統領はアメリカがそれまでの外交で蓄えてきた威信という遺産、覇権に欠くべからざるもの、を瞬く間に浪費しました。さて世界の現状が果たしてこの通りなのかどうかは分かりませんが、この書物はそれを(政府や新聞などによる解釈に惑わされることなく)自分で考えるきっかけを与えてくれそうです。 |