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著者のトドロフは、ブルガリア生まれでパリで活躍する言語学者。本のテーマは「他者の発見」で、その手がかりとして、新大陸の発見と征服の時期が、もっと具体的にいえば、新大陸とヨーロッパ人が出会って以降の100年あまりの間に新大陸に渡ったヨーロッパ人によって書かれた記録や文書が、分析対象として選ばれたのである。トドロフによれば、1492年は、「ヨーロッパの歴史上、最も驚嘆に値する他者との出会い」の画期をなした。「今あるヨーロッパ人のアイデンティティが示され、基礎づけられたのはまさにこの新大陸の発見にあるのだ」。その意味で、1492年以来、ヨーロッパ人は、他に類を見ない新しい時代に入ったという。
コロンブス、コルテス、ラス・カサス、サアグンらの一連の言説――膨大な資料になるが―を分析することで、トドロフは、そこには認識論的な大きな転換が起こっていたことを、解き明かしていく。それは、民族学の萌芽であったり、自己の相対化であったり、ヨーロッパ人側と先住民側の二つの立脚点の相互浸透だったりするのだが、たとえそこに揺らぎが見られるとしても、「平等のなかで差異を生きること」への接近であったことにかわりはない。
異文化に関心がある人だけでなく、知的な枠組みが転換しようとするときについて考えてみたい人にも、お勧めしたい一冊だ。 |