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「芸術」という考え方が、「科学」という考え方と同様に、そしてまた「資本主義」や「民主主義」と同じように、ここ二、三百年における「Made in Europe」の産物であることをご存知だろうか。つまりそれらは現在においていかにもユニヴァーサルな価値として流布しているが、実はこうした事象そのものが、ヨーロッパの価値尺度のグローバル化の結果にほかならないのだ。人類学者、宗教学者として著名であり、現在多摩美術大学の芸術人類学研究所の所長を務める著者は、ヨーロッパにおいては「芸術」と呼ばれている思考が、いわゆる「未開社会」などの非ヨーロッパ文化圏においては、人間を人間たらしめていた思考原理そのものであることを豊富な事例をもとに例証してゆく。つまり芸術という営みは、欧米や日本などのいわゆる「先進」地域においてそう考えられているように、実社会の中でのオアシス的な存在などでは決してなく、本来からして人間のあり方そのものだったのである。こうした人類学的な地平に立って、芸術を個人の内面の美的表現から、社会全体の共有資源へと奪還しようとする著者の壮大な企画に、われわれひとりひとり是非とも参与してゆきたいものと思う。それこそが、いささか狂い始めているこの地球を「持続可能な」軌道に戻すことにほかならないのだから。 |