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異文化理解論については凡百の書が出ているが、この本はその中で出色ものである。特筆すべきは、大学での教科書としてつくられていながら、多くの類書とは全く違って、文化接触の生の現場を通して、思考する営みへと読者を導いてゆく内容構成がなされていることである。それは巻頭に掲げられている以下の「本書のねらい」が雄弁に語っている。
1.異文化衝突の現場を提示する
2.文化間の価値観の相克、葛藤を浮き彫りにする
3.現場を知る専門家ならではの、読者へのメッセージ
4.概論提示ではなく、読者を理論構築へと誘う
5.読者による探求の道しるべを
こうした構成を通して、読者は現今の異文化衝突の現場を知るとともに、「共生」などという通り一遍の言葉でお茶を濁している月並な異文化理解論を越えて、今の世界が直面している問題群と真摯に向き合い、思考を始める旅に出ることになる。でも手っ取り早い解(目的地)などなきその旅こそが、言うところのグローバル時代を生きる倫理であり、脳を育ててくれる栄養なのだ。それぞれの章についている次のステップへの「読書案内」が、これまた新たな旅へのガイドとなっていてすばらしい。
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