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著者はある日突然、乗り合いバスによる貧乏旅行を思いつく。香港・マカオ、マレー半島・シンガポール、インド・ネパール、そしてシルクロードを経て、トルコ・ギリシャ・地中海、最後に南ヨーロッパ・ロンドン。その旅程は著者自身の成長過程でもあり、とくに異文化と出会う前半部は新鮮だ。
21歳のぼくがはじめてインドを訪れたのも、突然だった。ロンドン滞在から帰国する際に思い立って、インド経由に変更したのだった。ヴァラナシ=コルコタ間の夜行2等席では、トイレに往復する人が肩の上を踏んで歩くほど鮨詰めの満員立席で、ショックの余り言葉が話せなくなった。ランブル鞭毛虫という寄生虫で腹を下し、伝染病の隔離病棟に半強制入院させられたのも、忘れられない思い出だ。周囲への迷惑は反省しているが、このときの原体験なしに、パリ・NY・ロンドン在住13年、訪問国30-40、世界一周複数回の海外経験は語れない。
良質な紀行文に数多く触れることは、世界を志向する若者には必須の出発点だ。バックパッカー元祖の小田実『何でも見てやろう』(講談社文庫)や世界的指揮者の小澤征二『ボクの音楽武者修行』 (新潮文庫)なども、海外青春記の名著だ。
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