本は脳を育てる ~北大教職員による新入生への推薦図書~ 

推薦者 :  岸本晶孝      所属 :  理学研究科      身分 :       研究分野 : 
歴史を通じて世界経済を考える書
タイトル(書名) 超帝国主義アメリカの内幕
著者 マイケル・ハドソン
出版者 徳間書店
出版年 2002
ISBN
北大所蔵 北大所蔵1 北大所蔵2 北大所蔵3 
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推薦コメント

もし書店の棚にこういう題名の本を見かけたとしても、今、どれほどの人が手にとって見る気を起こすものなのか、想像がつきかねます。しかし、私の若いころは(1960年代)、若者がよく「アメリカ帝国主義反対」などと金切り声をあげていました。その当時とそれより暫くのあいだは、私のような政治的に鈍感なひとにとっても、世界というものを理解するうえで、これが喉につかえた小骨のようなものであったかもしれません。少なくとも、亜米利加追従我国安泰と割り切れるひとはほとんどいなかったのではないか、と思います。
日本語の題名には辟易するひともあろうかと思いますが、わたしは幸運なことに、附属図書館で、直訳すれば「超帝国主義」とのみ題された本にまず接しました。目次を繰っても、金切り声の響きなどせず、十分「学問的」にみえ、我が偏見に打ち勝つことができました。それで読む気になったのですが、これなら他の人にもぜひ勧めたいと思うようになりました。
私自身の経済に対する考え方は、これを読むまでは、徳川幕府のとそれほど変わらなかったのではないかと思います。幕府はもちろん権力の源泉が武力であることを十分に承知していたと思いますが、経済に関しては、農業第一と信ずるところで思考停止に陥ったようです。その点、ものの本によると、信長秀吉よりも迂闊だったようです。その幕府が、ペリーの来航に際して、慌てふためいたのは当然といえましょう。わたしもまた、この本に接して、驚天動地の体験をしました。
アメリカは国際社会のなかで最後に頼りうるものが武力だけであることを承知し、ときどきそれを実践しているようですが、それだけではないことも承知しています。肉体に血液が循環しているように、世界にはお金が巡っています。この循環がなんらかの生産的活動の結果であるとしてそれを偶然にまかせるほどアメリカは柔にはできていません。(それに比べると、ヨーロッパという古い世界では、そのほかにも価値とか思想とか倫理とかも多少は浸透していたように思います。それが今ヨーロッパ連合という形になっているのでしょうか。)結局世界とは自分自身の投影にしか過ぎないとすれば、アメリカ人は自分のなかに欲望しか発見できなかったのかもしれません(もっとも、公平を期せば、宗教的使命感にもあふれているようです。古い文明を思い起こしてもこの二つは両立するのでしょう)。それはそれでいいのですが、私が面白いとおもったのはもっと技術的なことで、アメリカは最初その欲をよく体現するものを金塊であると思っていたのに、今はそれを超越したらしいことです。どう言いくるめたのでしょうか、中国や韓国や日本などあわれな国々に、ドルの札束が金塊にかわる宝であることを信じ込ませることに成功したのです。このことをどこまで意識していたのかは不明ですが、第二次大戦中から、戦後世界の王者たるべく周到に準備を重ねてきたことは明らかなようです。いうまでもなくかの国はこの国よりは役者が一枚も二枚も上だったのです。もちろん今も。
そのほかにもいろいろなことが学べます。わたしは迂闊にも、この本を読むまで、国際条約というものが、アメリカとその他の国の主従の誓いのようなものであることを知りませんでした。世界の胴元たるアメリカと、客たるその他の国には、当然といえば当然ですが、違った規則が適用されるのです。(環境問題に関する京都議定書をアメリカが認めないのは歴史通には自明のことなのでしょう。)
というわけで、歴史を通じて世界経済を考える書として、これを推薦します。
原著は、Super Imperialism, The origin and Fundamentals of U.S. World Dominance, Pluto Press, 2003ですが、上記訳書はこの抄訳でしかありません(実際には1972年発行の初版本に多く依存しているようです)。わたしが特に面白いと思ったところは第一部ですが、そこの6章中2章しか訳されていません。興味ある方は原著をご覧になってください。(インタネットで著者Michael Hudsonを検索して著者のホームページからファイルを取ることもできます。)この二つの大戦間を扱った部分、米欧の駆け引き、は詳細まで分からなくても十分面白いので、英語が不得手でも楽しめると思います。あと第二次大戦後の部分は、訳書なり原著なりを手にとってみてください。訳書は、こういう例に漏れず、細部はなんとか分かっても、全体をとらえようとすれば霞がかかっているようであまり読みやすいとはいえません。原著は(私の英語力では難解ですが分かる部分をたどるだけでも)論旨は明解で、書いてあることすべてが新しく、並みのまじめくさった経済史の本よりよほど面白いと思います。だから無知をかえりみず、畑違いのものを取り上げました。

※推薦者のプロフィールは当時のものです。

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