推薦者: 高井 哲彦
所属: 経済学研究科
国境・領域を超越するユニークな世界交易史
タイトル(書名):
ナマコの眼
著者:
鶴見良行著
出版者:
筑摩書房
出版年:
1990
ISBN:
448085522X
北大所蔵:
推薦コメント
表題だけを見て、近頃流行の食べ物や生き物に関するエッセイだと勘違いすると、良い意味で大きく裏切られるはずだ。この本は、ちっぽけな食材(ナマコ)を切り口にしながら実は、アジア太平洋に生きる人間と交易の世界史を論じる、本格派の社会科学書だからだ。
国境・領域を越えて縦横無尽に駆け巡る構成の壮大さと、モノを軸に万物を網羅しようと試みる実証の緻密さは圧巻だ。この手法は、鶴見良行『カツオとかつお節の同時代史』(コモンズ)にも共通する。
しかも鶴見は、「歩きながら考える」現場主義と在野主義を徹底している。舞台となるメラネシア・オーストラリア・東南アジア・中国では、小さな島々や人知れぬ辺地まで足を運んでおり、超人的なフィールドワークには唸るしかない。第V章では、北海道・松前藩のアイヌ勘定論も、もちろん忘れていない。実際、著者の手による豊富な写真や体験談は、大真面目な経済史分析に紀行文のような生き生きとした色彩を与える。
こうした大部の名著を、専門分野を越えて手当たり次第に濫読することは、若者の必須課題であり特権でもある。そこでは、細かい知識の多寡などは気にせず、無から有を構築する巨匠の構想力こそ、酸素のように胸に吸い込むべきだ。
#『エビと日本人』は2007年に続編『暮らしのなかのグローバル化』(サブタイトル)が刊行されています。(北分館2008/03/08)
国境・領域を越えて縦横無尽に駆け巡る構成の壮大さと、モノを軸に万物を網羅しようと試みる実証の緻密さは圧巻だ。この手法は、鶴見良行『カツオとかつお節の同時代史』(コモンズ)にも共通する。
しかも鶴見は、「歩きながら考える」現場主義と在野主義を徹底している。舞台となるメラネシア・オーストラリア・東南アジア・中国では、小さな島々や人知れぬ辺地まで足を運んでおり、超人的なフィールドワークには唸るしかない。第V章では、北海道・松前藩のアイヌ勘定論も、もちろん忘れていない。実際、著者の手による豊富な写真や体験談は、大真面目な経済史分析に紀行文のような生き生きとした色彩を与える。
こうした大部の名著を、専門分野を越えて手当たり次第に濫読することは、若者の必須課題であり特権でもある。そこでは、細かい知識の多寡などは気にせず、無から有を構築する巨匠の構想力こそ、酸素のように胸に吸い込むべきだ。
#『エビと日本人』は2007年に続編『暮らしのなかのグローバル化』(サブタイトル)が刊行されています。(北分館2008/03/08)
※推薦者のプロフィールは当時のものです。