図書館の活性化のために

附属図書館長 原 暉之

館長就任にあたって

本年3月末をもって退官された吉田宏前館長の後を継ぎ,重責に身の引き締まる思いを抱いて,はからずも館長の大役を承った。以来4か月余り,その思いは今も変わらないし,おそらく在任中を通じて変わるまい。
館長就任前の数年間,図書館委員会の委員を務めた経験はあるものの,歴代の館長には申し訳ないことに委員としての寄与は微々たるものに等しかった。ただ,利用者としては,附属図書館を思う存分に使わせていただいた。
もとより館長に就任した以上,一介の利用者の延長で済まされないこと,言うまでもない。しかし,利用者の目線というものをこれからも大事にしたい。大学図書館に限ったことではないが,つまるところ利用者に対するサービスが正常に機能しているかどうか,大学図書館に即して言えば,学習・教育・研究との関わりで資料・情報を求めているユーザーに対し的確かつ効率的な橋渡しができているかどうか,という点こそ図書館にとって最も重要なチェック・ポイントだと思う。
さて,本題に入る前に一つの質問を投げかけてみたい。『楡陰』の読者の皆さんは,大学関係の法令に次のような条文があるのをご存知だろうか。
「大学は,学部の種類,規模等に応じ,図書,学術雑誌,視聴覚資料その他の教育研究上必要な資料を,図書館を中心に系統的に備えるものとする。」(大学設置基準第38条第1項)

大学改革教育と附属図書館

基幹総合大学として位置づけられる北大の図書館にとって,大学設置基準第38条にうたわれている「学部の種類,規模に応じ」た各種資料の「系統的」な収集,その提供(同第2項)とは何を意味するのであろうか。このことは,全学のレベルでしっかりと考えてみる必要がある。
北大では,学部一貫教育体制への移行と大学院重点化が大学改革の最も重要な柱をなしている。いま北大の図書館に問われている最大の課題は,教育研究の根幹に結びついたこのような変革にどう関わって行くかであろう。
一般に学部一貫教育は基礎教育の充実として,また大学院重点化は高度専門教育の確立に関連づけられている。ここで留意されてよいのは,今日の学術研究が高度化・専門化・先端化する一方で,総合化・学際化・横断化の傾向をますます強めており,基礎教育と大学院教育を問わず総合性・学際性が大学教育の重要なカギになるという点である。しかも,総合的・学際的な教育研究を可能にする条件がそろっている点にこそ,基幹総合大学としての北大の強みがあるはずである。
北大の学部一貫教育は,「一般教育と専門教育の有機的統合」を掲げて平成7年度からスタートした。その際に「北大は単なる単科大学の集合体になり,総合大学としての特徴が失われる恐れがある」として,縦割りの弊害をいかに防止するか,という問題意識が出発点にはあったし,それは今後とも有効性を失わないテーマであろう。
教育の組織と体制が変わっただけではない。教育環境も徐々に変わってきた。今後の社会では自主的に問題を解決できる人材が必要とされることから,大学の教育も自主的な問題解決を重視するような形態に変化しつつある。たとえばグループで討論したり,スライドやビデオを作って発表するような形態がふえて行くであろう。このような変化に対しても,図書館の対応が問われている訳である。
現在,北大附属図書館は狭隘化した現在の施設にかわる新館が必要であるとして,新営構想を検討中である。しかし,教育研究は一刻も休止しない日々の営みであって,それを積極的に支援しようとする図書館にとっては,新営が実現するまで現在の本館および北分館の施設設備について,その利用環境の改善を棚上げすることはできないし,何もかもが新営で一挙に片づくと考えるのは現実的でない。
教育研究の総合性と学際性,教育環境の変化に注目した場合,現有施設改善の具体的対応としては,たとえば一般閲覧室という中途半端な利用形態を見直して,すでに満杯状態になっている開架スペースを拡大し,開架図書の量的・質的充実を実現するとともに,視聴覚室やグループ学習室の拡充をはかるなどの措置が不可欠である。
また,この点にも関係するが,全学共通教育ゾーンの中の高等教育機能開発総合センターに隣接する北分館は,その立地にふさわしく,全学共通教育支援機能を十分に発揮することが求められている。かつて「キャンパス・マスタープラン96」のゾーニング策定以前に立案された「附属図書館将来構想」は,当時の説明によれば,「今後の学部一貫教育の展開充実が期待される中で,現在の分館の存続意義が薄くなることが予想され」る,との予測を前提としていた。このような予測は本当に的中したのか,それとも的外れの杞憂だったのか,全学一貫教育体制が3年目に入った現時点での評価が必要となっている。
図書館では,学習図書館機能と研究図書館機能を高めるということがつねに課題とされてきたが,高等教育の多様な発展,その質的充実,大学院重点化は二つの機能の境界線をあいまいにし,少なくとも二つを峻別する考え方を過去のものにしている。いずれにしても問題点の一つは各種資料を「系統的に備える」ことが要請され,とくに今後,資源共有・情報発信が重視される中で,効率的な資料選定体制をどのように作り上げて行くかである。

附属図書館の主体的性格

ところで現行の大学設置基準は平成3年7月から施行された。それを一言で要約すれば,大学設置基準の大綱化であり,実際たとえば学部教育の見直しがこの大綱化に端を発していることはよく知られている。これに対して,図書館の位置づけをめぐって旧基準と新基準のあいだに画期的ともいえる変化があったことは,それほど広く知られていない。
旧基準では,図書館は「医務室,学生自習室,学生控室」と並ぶ「校舎等施設」の一つと位置づけられ,静態的・受動的な意味の施設であった。新基準では,いちおう「施設」の一つとして扱われながらも,以前に比べると,動態的・主体的な位置づけが前面に出ている。あえていえば,大学図書館は大学の教育研究活動の不可欠の構成要素として規定されるようになったのである。
大学図書館の学習図書館機能とか,研究図書館機能というのは,学生なり研究者なりが学習や研究のために図書館を利用する,その利用に対応する図書館の機能のことである。このようにいっても循環論法になってしまう。
いってみれば,学習図書館機能や研究図書館機能は,図書館の静態的な側面に関係づけられた機能であろう。これとは別に,図書館の教育的機能,図書館の研究的機能という,より動態的な側面がありうると思う。つまり単なる施設としての図書館ではなく,主体としての図書館を語る時期に来ているのである。
大学設置基準は図書館職員についても規定している。「図書館には,その機能を十分に発揮させるために必要な専門的職員その他の専任の職員を置くものとする」(第38条第4項)というものである。これだけでは分かりにくいが,この規定の根拠となった大学審議会大学教育部会報告の中の文言はこうである。
「図書館の機能を強化するためには,司書のほか,コンピューターによる情報処理,データベース・サービス,古文献・専門分野別情報処理等を担当する専門職員を適切に配置することが重要であり,……配置が必要である旨の規定を新たに設ける。」
大学図書館の機能の高度化にともなって,文献検索法等の利用者教育,情報リテラシー教育等に関わる教育機能,あるいはまた情報処理論,書誌情報学等に関わる研究機能を担い得るような専門的職員が今や不可欠となっている,ということが,この部会報告から読みとれるであろう。
上記の引用文は,図書館の機能の高度化に対応しうる教員の配置の必要性にまで踏み込んではいないが,国公私立の先進的大学図書館では「研究開発室」を設けて専任または併任の教員を配置するケースが次第に定着しつつある。この点で北大はどう対処するか。これも早急に解決を要する問題の一つである。
以上,紙幅の制約上,意を尽くさないことは百も承知ながら,大学設置基準の図書館条項を手がかりに,北大附属図書館は学部一貫教育体制とどのように「リンクを張る」べきか,また,図書館自身の教育的,研究的機能をどのように高めて行くか(大型計算機センターが研究開発部をもち,情報処理教育センターが教官定員を擁し,検討中の学術資料館(仮称)も研究開発部を構想している中で,情報関連の諸施設のうち,ひとり附属図書館が事務部だけで対応しているのは片手落ちではないか),という点に注意を喚起しようとした次第である。
最後になったが,図書館の活性化になくてはならない存在が図書館委員会である。図書館委員会はいま「総動員」の状態に入っており,すでに前館長のもとで設置されていた「新営検討小委員会」に加え,本年6月から「電子図書館検討小委員会」と「学術文献データベース等検討小委員会」が発足し,それぞれの検討課題についてフル稼動で討議をはじめたことをご報告しておきたい。
こうして,22名から成る図書館委員会の部局選出委員はほとんど全員がどれかの小委員会に属し,どの小委員会でも図書館職員との意見交換を交えながら,活発な討議を通じて図書館活動に大きな刺激を与えて下さっている。この場をお借りして,委員の諸先生の英知と熱意に心から敬意と感謝の気持ちを申し述べたい。
(はら てるゆき,スラブ研究センター教授)


◆次の記事へ移る

◆目次へ戻る

ホームページへ戻る