附属図書館の新営に向けて

        附属図書館長  吉田 宏

 北大全体では,平成8年3月末現在で約313万冊の蔵書をかかえており,
年々約10万冊づつ増えている。雑誌は,製本したまとまりごとに1冊と数え
てのことである。この蔵書数に対して,附属図書館や学部図書室などにある蔵
書スペースを全部合わせても約330万冊分しかない。ここ一・二年のうちに
蔵書が溢れる計算になる。実際に,附属図書館では事務や閲覧用スペースに書
架が並べられ,教官研究室は蔵書でいっぱいになり,学部図書室をはみ出した
古い雑誌が地下の湿った物置に置かれているような状況にある。一日も早い附
属図書館の新営が待たれる第一の理由はここにある。

 大学図書館にある図書・雑誌などの図書資料は,大学の共有する知的財産で
あり,大学の教育研究環境の基盤である。図書館組織は大学における教育研究
支援機構の中核である。教育研究の拡充をめざす北大改革を支えるためにも,
附属図書館の充実が急がれる。

 北大のような総合大学の図書館の場合には,図書館に求める役割が専門分野
ごとに違う。少々大ざっぱではあるが,文系の場合には図書資料を収集し蔵書
を構築すること自体が研究の性格をもっているのに対し,理系の場合にはでき
るだけ多くの学術雑誌に容易に目を通すことができる研究環境が必要で,少し
古くなった図書資料には興味がない,という違いがある。しかし,これは大学
図書館に求められる諸機能のうち研究支援の視点から見た場合の違いで,図書
館に求められる他の機能,すなわち学習支援や資料保存の視点からは,文系と
理系との間にあまり違いはない。

 現在,313万冊の蔵書のうち約130万冊が附属図書館と北分館に配置さ
れ,残りは各学部・学科図書室や教官研究室に置かれている。図書館の将来構
想を練る場合のもっとも重要な問題点は,北大の教育研究をより活性化するた
めにどのように図書を配置することが望ましいかである。研究の観点からは,
文系については図書館機能と図書資料の配置を統合することが望ましいが,理
系については各学部の図書館機能を有機的に繋ぎながら図書資料は適当な規模
で分散配置することが現実的ではないかと考えている。一般的にいって,大学
の図書館組織は中央図書館に統合される趨勢にあるが,大規模でかつ広い専門
分野にまたがっている基幹総合大学では,中央図書館一館への集中には少し無
理があるように思う。その場合でも,学習図書館機能や保存図書館機能は中央
図書館に集中しなければなるまい。

 理系の研究用図書資料をどのような規模で分散配置するかは議論のあるとこ
ろである。現在,図書資料が学部図書室に集中しているところ,学科図書室に
まで分散しているところ,各研究室に拡散してしまっているところなど,いろ
いろである。図書資料の配置を集中すればするほど,1)資料の重複購入が避
けられ,2)資料の有効利用が図られ,3)広い範囲の資料が研究者の目に触
れ研究の幅を広げるチャンスがあり,4)人員や施設の面でよりレベルの高い
サービスを期待することができるメリットがあるが,反面,利用者はより遠く
まで出かけて行かなければならないというデメリットが生ずる。学部図書室程
度のまとまりがメリットとデメリットのバランスするところではないかと思う
が,小規模部局の場合には数部局がまとまらないと上記4)が期待できない。

 図書館の抱えている最大の問題点は,出版物の数の増大と価格の高騰である。
財源の確保と有効利用のためにも図書資料配置の集中化と図書館機能の統合は
避けられない。図書保管スペースが本1冊あたり約2千円かかるということか
ら見ても,蔵書スペース確保の努力とその有効利用が大切で,本はできるだけ
たくさん手近にある方がよいと言ってはいられない状況である。また,平成8
年度の全学の自然科学系における購入雑誌種類数総計は4,749で,そのう
ち14%は重複購入されているものである。基本的に重要な学術雑誌の重複購
入はある程度やむを得ないとしても,重複率が平成7年度の10%から激増し
たことや購入雑誌の全種類数は逆に減っていることは,財源の有効利用の観点
から問題無しとはしない。

 情報化の波は図書館にも覆いかぶさってきている。大学附属図書館関係者の
集会での話題は図書館の電子化に集中しているといってよい。いちがいに図書
館電子化といっても,図書館サービスの電子化と図書資料の電子化とに分けて
考えなければなるまい。

 図書館の電子化は図書・雑誌の総合目録(書誌・所在情報)のデータベース
化が基礎になる。北大では313万冊の蔵書のうち214万冊相当がすでにデ
ータベース化されている。HINESを利用して研究室に居ながらにして北大
の全蔵書の約70%を対象にオンライン検索ができるようになっている。これ
は,他大学に先駆けて昭和62年に開始して以来,附属図書館で営々と続けら
れてきた図書データ遡及入力のたまものである。また,CD化された各種の二
次情報もオンライン検索できるようになっている。さらに,各大学の図書デー
タ入力を基礎に作られた全国規模の学術情報システムと連携して,他大学図書
館にある雑誌のコピーを依頼したり,図書の現物を借用する手続きも附属図書
館あるいは学部図書室にある端末からオンラインでできる。図書館サービスの
電子化によって,新着雑誌の目次を見るために図書館・室へ出かける必要はす
でになくなっている。このような状況のもとで図書館サービスの充実を図るた
めには,サービス拠点を適正規模に集中化することが不可欠である。

 図書資料そのものの電子化は,図書館サービスの電子化に比べて,著作権等
の問題も絡み容易ではない。著作権問題をできるだけ安く解決して図書・雑誌
の内容の全文をデータベース化し利用者に提供したいという図書館の意図が,
知らず知らずのうちに,知的生産を奨励・促進する著作権制度の機能を骨抜き
にすることがあってはならない。図書資料をネットワークで10人の人が見る
ようになったからといって,資料購入費が一人当たり1/10ですむというも
のではない。図書館の電子化は,コンピュータ関連施設もさることながら,図
書資料を電子化したり電子化された図書資料を購入するためにも莫大な経費が
必要となる。経費の増大に対応するためにも,附属図書館と学部図書室等の間
で役割分担を明確にし,北大全体として効率的な図書館組織を築く必要がある。
そして,その図書館組織の機能を統合するセンターとしての附属図書館の新営
が必要なのである。

 電子化のかけ声が強いからといって,質の高い図書資料を系統的に収集し,
有用な図書資料と読書し思索する場を提供し,後世に必要な資料は大切に保存
するという図書館の伝統的役割が減るわけではない。たとえば,本離れが心配
される世代の学生に対する学習支援として,魅力ある図書を多数そろえ,快適
な読書環境を用意し,いつでも利用できるような図書館が今後ますます必要と
なっている。われわれが図書館のあり方を論ずると,往々にして研究支援機能
に目が集中しがちである。しかし,大学図書館というからには,学習図書館と
しての機能も忘れるわけにはいかない。

 附属図書館がいちばん最近に増改築されたのは昭和59年のことである。そ
れ以来,大学院重点化の実施や教養部体制から学部一貫教育体制への移行など
北大は大きく変わってきた。北大の教育研究活動の拡充を支援すべく附属図書
館の充実も緊急の課題となってきている。またこの時期に,大学の内外におけ
る情報ネットワークシステムの整備が格段に進み,これを有効に利用して図書
館サービスの内容を向上させる必要にも迫られている。

 幸いにして,平成7年度に三本木前館長のもとで,附属図書館将来構想検討
小委員会での検討に基づき,将来構想の基本方針が図書館委員会で策定されて
いる。それは,最適地を得て附属図書館を新築し,その場合に北分館機能を統
合して単一館体制とするというものである。現在検討が進められている北大キ
ャンパスのマスタープランが決まり,敷地の見通しが得られれば,早速にも附
属図書館の新営に向けての努力を始めたい。そのためには,北大全体の図書館
組織の在り方とそれに基づく新附属図書館の具体的プランニングについて全学
的合意を得なければならない。

 本年4月に思いがけずも図書館長を仰せつかった。短い任期ではあるが,附
属図書館新営に向けての歩みを少しでも前へ進めたいと考えている。各方面の
ご理解とご支援とをお願いしたい。


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