カリフォルニア大学バークレイ校・ワシントン大学図書館を訪問して
  −アメリカ大学図書館の情報リテラシー教育支援サービス−

情報サービス課参考調査掛  小林 真木子


1.はじめに
 学術情報としての電子的資料の普及に伴い、大学図書館でも電子的情報資料の有効活用を含めた情報リテラシー(情報活用能力)教育への支援が求められている。
 北大附属図書館では、この情報リテラシー教育支援に関連して、平成9年から教官・学生を対象とした「雑誌論文の探し方」「新聞の探し方」等、資料調査のためのガイダンスやセミナーを企画・実施している。また、平成13年度からは全学共通科目一般教育演習の講義の中で『情報探索入門』と題した情報探索の基本についての90分間の講義と演習を実施している。このような大学教育との連携によるサービスは、導入されて間もないこともあり、その内容や実施形態など未だ試行錯誤の面も多い。
 そのような折、北海道大学国際交流事業基金の派遣事業として10月1日より10日間の日程でアメリカ合衆国西部の図書館を訪問する機会を得、図書館における情報リテラシー支援サービスが日本に先行して実施されているアメリカの大学図書館の様子を見聞することができた。
 
2.情報リテラシー支援サービス
 本学を含め近年日本の大学図書館では情報リテラシーに関わる多様なサービスが試みられているが、米国でも早くから図書館利用者教育のなかで情報リテラシー支援サービスが提供されてきた。アメリカ図書館協会(ALA)では、情報リテラシーを「情報が必要なときそれを認識し、必要な情報を効果的に探し出し、評価し、利用する能力」であると定義している(ALA情報リテラシー委員会最終報告書 1989年)。
 ALA 大学研究図書館協会(ACRL)ではこの定義に基づき 「高等教育のための情報リテラシー能力基準」(ALA大学研究図書館協会 2000年)、「情報リテラシー教育のための目標:大学図書館員のための文案」(同 2001年)を作成し、大学図書館がサービスを実施する際の具体的な目標を示している。
 今回の訪問はアメリカ西部の大学図書館で現在これらの基準をもとにどのような支援サービスが展開されているのかを知るよい機会となった。

3.カリフォルニア大学バークレイ校
 1873年創立のカリフォルニア大学バークレイ校は、キャンパス中心部に中央図書館である Doe Library,学習図書館のMoffitt Library,貴重図書館のBancroft Libraryを持つほか、20の専門図書館を有している。
Doe Library
カリフォルニア大学バークレイ校 Doe Library

Teaching Library
 "Teaching Library"は1993年に設置された情報リテラシー支援サービスを専門に担当する部門である。この部門の担当者の方にサービスの実施内容についてお話を伺った。
 Teaching Library"は、学習図書館Moffitt Libraryにサービス業務の一部門として置かれている。Webサイト"Teaching Library"から"Instruction & Tour" と呼ばれる各種講習会の案内、分野別にアクセスできるResearch Guideなど、情報リテラシーに関する様々な情報を発信している。
 10月の訪問時は新学期を迎えた時期でもあり、図書館資料の検索入門、LexisNexis等のデータベース利用セミナーなど、図書館の企画によるInstructionが案内されていた。スタッフのお話によると、最近の主要なInstructionは "Course-Integrated Library Instruction"と呼ばれるサービスであるということだった。これは教員の要望に応じて企画されるいわゆるオーダーメイドのInstructionで、希望する教員はWebフォームに希望の日時・授業のテーマやInstructionの目標、演習を要するデータベースなど、内容を具体的に記入し、希望日の3週間以上前に申込みをするようになっている。教員と担当職員がこのフォームをもとに実施内容の詳細について検討し、Instructionが実施される。こういった利用者の要望に応じたInstructionはMoffitt Library内のリテラシールームで開催されるほか、キャンパス各所に図書館職員が出向いて実施されることも多いとのことだった。 "Teaching Library"のInstructionは主に学部学生を対象に提供しているが、研究者・大学院生が要請する専門分野の情報収集など、内容に応じて適宜キャンパス内の各専門図書館でも行われており、情報リテラシー支援が大学図書館全体のサービスとして定着している様子が窺われた。また、講義を担当する教員のための図書館サービスとして、効果的な図書館資料の利用に関するアドバイスなど、学生へのリテラシー教育に必要な情報が教員対象のWebサイトなどで提供されている。
Moffitt Library Information gateway
Moffitt Library Information gateway

 ところで図書館の訪問に先立って、簡単なキャンパスツアーに参加してみた。これは大学構成員や観光客を対象に大学が実施しているツアーで、案内してくれたのは社会学を勉強しているという元気な女子学生だったが、ツアー中、彼女に図書館を利用しているか、ライブラリアンから図書館の使い方を案内してもらったことがあるか聞いてみると、もちろん新入生の時に授業でInstructionを受けたとのこと。私がこれから図書館を利用する予定と思ったのか、加えて「それにレポートやテストの前には、必要な資料を探すためのアドバイスを受けることができるから何でもライブラリアンに聞けば大丈夫!」と親切に説明してくれた。彼女が図書館の蔵書の豊かさや設備ではなく、まず図書館員にアドバイスを請うことを薦めてくれたのが印象的だった。

3.ワシントン大学
 ワシントン大学は、1861年に創立された州立大学で、シアトルキャンパスには中央図書館(Suzzallo and Allen Library)の他、学習図書館のOdegaard Undergraduate Libraryと16の専門図書館がある。中央図書館で情報リテラシー部門(Information Literacy)の担当者の方にお話を伺った。
Suzzallo Library
ワシントン大学 Suzzallo Library

 ワシントン大学でも図書館企画による講習会の参加者は減る傾向にある一方、"Course-Related Instruction"と称した教員の要望に応じて企画されるクラス単位のInstructionの開催数は増加しているとのこと。WebからのInstruction申し込みフォームも提供されており、情報リテラシーに関しては教員との協力体制・授業との連携がサービス形態の基本となっている。
 数多くのセミナーをこなしている専任職員の方に業務上の課題を尋ねたところ、講義形式で文献の案内を行うInstructionでは分かりやすい表現や説明の方法など、プレゼンテーションの方法について頭を悩ませており、Instructionをどのように企画し、実施するかはリテラシー担当職員の課題であるということだった。情報リテラシーに関する業務では、資料に関する知識に加え、プレゼンテーションの技術・能力が要求されるということは私自身日々の業務の中で痛感していることである。ワシントン大学ではこの点に関し、図書館職員を対象にワーキンググループによる教授法・コミュニケーション法のワークショップが開催され、必要な技術の研鑽の機会がもたれているとのことであった。
 ワシントン大学では、情報リテラシーサービスに関連してUWill(University of Washington Information Literacy Learning)と呼ばれる部門があり、主にWebを活用したリテラシー教育のサービスを提供している。UWillの置かれている学部学生を対象とした学習図書館Odegaard Undergraduate Library and Computing Commonsは、3階フロア全体が370台のPCが設置されたメディアセンターとなっている。
Odegaard Undergraduate Library and Computing Commons
Odegaard Undergraduate Library and Computing Commons

 UWillの代表的なサービスにはResearch 101と呼ばれる情報リテラシー教育のためのOnline tutorial がある。このチュートリアルでは、基本的な資料の解説から、入手した情報の評価までの6段階のレベルが用意されており、各レベルの最後に提示される質問に回答することによって自らの理解度を確認することができ、Webの機能を生かしてインタラクティブに情報リテラシーを身につけることができる。
 また、UWillでは図書館資料や探索方法を紹介した各種のテンプレートを提供している。これをクラスにあわせてカスタマイズし、主題を限定した資料案内やチュートリアルとして各クラスのWebサイト上で提供できるようになっている。UWillのサービスは、授業の目的に応じてカスタマイズできる、都合のよい時間に利用できるなど教員やクラスのニーズに対応したサービスという視点からWebを活用した様々な試みが行われているようだった。

5.おわりに
 カリフォルニア大学バークレイ校、ワシントン大学各図書館の情報リテラシー教育支援サービスを簡単にご紹介したが、本学の状況と異なる点として、情報リテラシーが独立したサービス部門として存在しているということがまず挙げられる。この専門部門が、「教養課程(学部学生)対象のリテラシー教育の充実」「講義と連携したサービスの実施」「Web機能を活用した情報提供」「教員・スタッフへの情報リテラシーに関わる支援サービス」など、他のサービス部門との連携を図りつつ多様なサービスを展開し、図書館の大学教育支援サービスの中心的役割を果たしている。
 
 本学図書館では主に附属図書館参考調査掛がレファレンス等の業務と併せて、情報リテラシー支援サービスを担当している。教官の要望により授業補助としてゼミ講義内に実施している文献探索セミナーの開催数は、平成13年度12回に対し平成14年度25回、全学共通科目一般教育演習『情報探索入門』開催数は、平成13年度39回に対し平成14年度47回と、年を追う毎に実施数が増加している。また、受講者のアンケートでは、「これまで文献の探し方がよくわからなかった」「もっと早い時期にこのようなセミナーを開催してほしい」等のコメントがみられ、大学での学習に必要な能力としての情報リテラシーの要求は高まっている。そのような利用者の具体的なニーズに対応したサービス、質の高い支援サービスを実施するためには、情報リテラシー教育支援サービスの専門部門の設置の他、図書館組織としての取り組み、スタッフの養成などが必要不可欠であることを改めて認識した。
 また、今回訪れたどの図書館でも学生が気軽に図書館員へあれこれと話しかけている姿を見かけ、人的サービスの充実も特に印象に残ったことの一つである。 情報リテラシー支援とは本稿で紹介したような新しい形態の業務だけではなく、カウンターでの資料案内、図書館サービス案内といった従来の業務のなかで日常的に提供されるべきものであるのだろう。 最後になりましたが、今回の訪問の機会を与えてくださった関係者の皆様、様々なアドバイスをいただき、新学期の多忙な時期にもかかわらず送り出してくださった附属図書館の皆様に心よりお礼申し上げます。


参照URL
 ・The Association of College and Research Libraries(ACRL), Standards & Guidelines
  (http://www.ala.org/acrl/guides/index.html)

 ・University of California Berkeley Library The Teaching Library
   (http://www.lib.berkeley.edu/TeachingLib/)

 ・University of Washington Library UWill pilot project
  (http://www.lib.washington.edu/uwill/pilot.html)


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