平成14年度北海道大学附属図書館講演会記録
「利用者の図書館利用行動:OPACの利用行動から」(要約)
学習院女子大学国際文化交流学部助教授 越塚美加
 

情報利用研究とは
  情報利用研究とは、その対象を図書館での情報利用としたとき、図書館側が利用者を情報資源にどう適用させるのかではなく、個々の利用者自身が情報資源を実際にどのように理解し、位置付け、利用しているのかという視点から図書館の利用行動を考察する手法である。ここでは利用研究の手法により、OPACの利用行動について考察していく。

OPACは使いやすいか
  図書館で資料を探す場合、種々のデータベースや参考図書類を利用したり、書架で直接ブラウジングすることによって探索したりする。いずれの場合においても、これらのツール・方法を利用した情報探索行動が、個々の利用者においてどのような意味を持つのか、しっかり位置づけられていなければ使いこなすことはできない。OPACにおいても利用者にとってどのようなものであるのか、その人なりに位置づけられてはじめて使いこなせたと言える。今まで図書館は、目録データやそのOPAC上での展開を熟知している図書館員が考えるOPACの有効な使い方の提示に比重を置きがちであり、そうした知識に乏しい利用者自身がOPACを実際にどのように使っているのかについてきちんと考慮してきたとは言えない。つまり、利用者にとっての使いやすさは図書館員にとっての使いやすさとは異なるかもしれないという点を積極的には考慮してこなかったのではないだろうか。

実際の場面でOPACの情報検索を観察する
  OPACは利用者にとって決して使いやすい検索ツールとは言えない。それでは、利用者はどのようにOPACとの折り合いをつけているのだろうか。実際の場面からどのように使われているのかを観察した。その観察の視点として、①利用者はどのようなことを当たり前のこととし、またどのような困難に直面し、それに取り組もうとするのか、②OPACは、情報探索行動全体の中でどのように位置づけられているのか(OPAC上で利用者が達成しようとしているのは何か)、以上の2つを考慮して観察した。なお、この際OPACの情報探索において「こうあるべき」、「上手な検索」、「稚拙な検索」といった調査者側の価値判断は考慮しないことを意識した。
その結果、以下のような傾向が把握できた。
 ●情報探索をOPAC上で完結させるのではなく、大まかな配架場所がわかればよい等、従来では正解もしく    は高度な検索とは呼ばなかったような場合でも利用者は満足していることが少なからずあった。
 ●利用者は普段Web上の検索エンジンの使用になれているため、OPACでも同様に検索してしまう。そのた    め、ヒットしないケースが多く見られる。(代表的な事例は、長い語句や文章をそのまま入力している)
 ●オンラインヘルプ、端末のそばにあるマニュアル類はほとんど見ない。そして、今以上に必要だと思われる   ことや改善策として以下のような点が上げられる。
 ●OPACで探索する手法と書架のブラウジングによって探索する手法の特徴、また今まで利用者がヒューリス   ティックに獲得していた、それらを組み合わせて情報要求を満足させるという戦略を利用者に明示的に知    らせること。
 ●ヘルプ機能の充実(積極的なヘルプ:検索機能を絞る・増やす等を自動的に行ったり、キーワードの候補を   出す等)
 ●アクセスポイントの増加(著者標目等をクリッカブルにする)。
 ●OPAC上で得た情報と実際に資料が排架されている書架を結びつけることができるよう、環境に埋没しない   サイン表示を考慮すること。

図書館利用教育の必要性
  以上の結果、OPACインタフェース自体の改善や館内サイン表示の充実も必要であるが、OPACに関しては利用者がWeb上の検索エンジンとの区別ができないようなケースもあった。利用者が情報探索行動におけるOPACの位置づけを得やすいものにするためにも、大学教育及び大学図書館での教育を通じて利用可能な情報源及びそれらの関連性を示していくことが必要である。また、利用者がOPAC(図書館)を使いこなせない要因として、学生の図書館や文献利用技能に対する教員の認識不足(学生は、教員から示されたものの、リーディングリスト上の書誌事項を読み解けない)等、図書館以外の要因も少なくない。これからは図書館が利用者の状況を把握し、教員等と連携を取った利用教育が今以上に必要になるだろう。

(本稿は、平成14年10月17日に開催された北海道大学附属図書館講演会の講演内容を要約したものである。)


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