本学における学術研究コンテンツの整備について
〜 図書館委員会の提言 〜
情報管理課長 早瀬 均
 
はじめに
  大学における学術研究を推進する上で、多様な学術情報を迅速かつ的確に入手できる環境を整備することは、不可欠の条件である。インターネットの普及等による学術雑誌の電子ジャーナル化の急速な進展とネットワーク上で提供される学術情報の増大により、学術情報の利用様態は大きく変わりつつあり、大学としてこれら学術研究に必要なデジタルコンテンツの利用を可能な限り拡大し、本学の教職員、学生が等しく利用できる環境=学術情報基盤の整備を進める必要がある。
  本年度、図書館では電子ジャーナル等を全学的観点から導入するための整備のあり方について検討し、「北海道大学における学術研究コンテンツの整備方策について(提言)」、(以下「提言」という。)として取りまとめ、新たな枠組みに基づく整備方策を提案した。
以下では、まず今年度の学術研究コンテンツの整備状況について報告し、その後提言の内容について紹介することとしたい。

1 平成13年度の取り組み状況
1)2002年外国雑誌の重複調整
  外国雑誌価格の大幅な値上げに対して、従来はそれぞれの部局毎に対応していたが、本年度初めて全学的な調整作業が行われた。すなわち、理系、医系の複数部数購読外国雑誌のうち、電子ジャーナルで入手可能なタイトルについて、購読部局間で調整を行い、重複を抑制することによる経費節減を図った。その結果、286種の雑誌(重複を含む延べタイトルでは732タイトル)について重複調整が成立し、全学で約5,000万円の経費節減になった。同時に、重複調整が成立した286誌(新規115誌を含む)の電子ジャーナルが利用可能となった。

2)Web of Science, OED及びJSTORの導入
  かねてから要望の強かったWeb of ScienceとOxford English Dictionary(OED)について導入経費の措置をうけ、本年1月から利用を可能にした。Web of Scienceでは1993年以降のデータと雑誌のインパクトファクターを即座に確認できるJournal Citation Report(JCR)が利用できる。また、117種の中核雑誌を初号から電子化したJSTOR(Journal STORage)Arts and ScienceⅠCollectionを導入した。(それぞれの内容・利用方法については、本号の紹介記事をご覧いただきたい)

3)2002年全タイトルアクセスの導入
  平成13年度は、国立大学図書館における電子ジャーナル整備の元年とも言える年となった。いくつかの大手出版社と国立大学図書館の間で合意が成立し、2002年からかなり有利な条件で電子ジャーナルの全タイトルアクセスが可能となった。全タイトルアクセスとは、購読、非購読誌に関わらず、当該出版社が提供するすべての電子ジャーナルを利用可能とするサービスで、本学では、上記の合意に基づき、エルゼビア社のScience Direct、ワイリー社のInterScience、シュプリンガー社のLINK、ブラックウェル社のSynergyのサービス導入を決定した。

4)学術研究コンテンツの整備方策の検討経過
  平成13年7月に図書館委員会の下に「学術研究コンテンツの整備に関する検討小委員会」(以下「小委員会」という。)を設置し、電子ジャーナルを中心とする学術研究コンテンツの整備方策について検討した。検討結果は、本年1月開催の図書館委員会で報告され、報告内容についての部局等における検討と意見の集約、提出された意見に対する小委員会の考えの提示等の審議を経て、最終的に3月開催の図書館委員会において小委員会報告が承認された。同時に、報告を図書館委員会の提言として、部局長会議等で審議していただくことについても了承された。

2 提言の概要
  提言では、電子ジャーナルとWeb of Science等のデータベースについて整備のあり方を示した。詳しくは、提言そのもの(図書館ホームページに掲載)をご覧いただきたいが、以下に要点を紹介する。

1)電子ジャーナルの整備
①電子ジャーナル導入の基本方針
提言では、本学において電子ジャーナルを導入する際の基本的な考えを以下の5項目にまとめ、基本方針として示している。これらの基本方針に基づき、今後具体的な運用方法が作成されることになる。

基本方針1 電子ジャーナルは、全学的観点により導入を図る。
  これは電子ジャーナル導入の基本原則である。印刷体と異なり、電子ジャーナルは導入されると購読部局に関係なく、全学の教職員、学生が学内のどこからでも同等に利用できることになる。文字通り大学の共通情報基盤となるわけで、個々の部局による判断ではなく、全学的観点による整備を必要とする。

基本方針2 現在購入している学術雑誌を中心として、本学の研究者、学生が可能な限り多くの学術研究コンテン ツにアクセスできる環境を整備する。
  これは導入の対象を示す方針である。「現在購入している学術雑誌」とは、2002年購読雑誌を念頭においている。2002年購読の外国雑誌については、電子ジャーナルで提供されているものは可能な限り購入する。また、全タイトルアクセスサービスを利用して、できるだけ多くの電子ジャーナルを利用できるようにする。

基本方針3 電子ジャーナルの購入経費は、共通経費化する。
共通経費化の必要性については、提言に詳しく述べてあるが、基本方針1で述べた利用の態様から部局財源による整備がなじまないこと、学術情報基盤として安定的に継続購読する必要があること等が挙げられる。電子ジャーナルを全学的観点から整備するためには、それに見合った財源の仕組みが必要である。

基本方針4 電子ジャーナルに対応する印刷体については、印刷体を必要とする部局経費により整備する。
  電子ジャーナルの導入に際して必ず対応する印刷体をどうするかという問題が付随してくる。この基本方針は、印刷体はそれを必要とする部局が独自の判断で整備できる裁量を残そうとするものであったが、部局等からの意見ではむしろ印刷体の問題は、大学全体として取り組むべき課題であるとする意見がよせられた。そのような意見を含めて運用方法の検討を行うことになろう。

基本方針5 電子ジャーナルの導入にあたっては、全国的、国際的活動と連携する。
  電子ジャーナルは急速に普及してきたこともあり、価格モデル、利用条件等が出版社等により異なる。また、アクセスを永続的に保障するアーカイブという大きな問題もある。国立大学図書館協議会の電子ジャーナルタスクフォース等に参加し、他機関と連携・協力して種々の課題に取り組むことが肝要である。

②電子ジャーナル導入タイトル
a.購読中のタイトル
  2002年購読雑誌について可能なかぎり電子ジャーナルを導入するとしているが、これは、どのタイトルを電子ジャーナルとして導入するかという選定の問題でもある。これについては、本学ではこの10年余りで継続洋雑誌数が約1,000タイトルも減少しており、この過程で購読タイトルの厳選が相当進み、現在購読中の外国雑誌は基本的に北海道大学として購読すべきタイトルであるとの判断している。
  2002年購読外国雑誌の純タイトル数は4,397タイトルで、そのうち電子ジャーナルで入手可能なものは、2,594タイトル(59.0%)である。これが当面の整備の対象となるタイトル数である。分野別内訳では、人文・社会科学系が878誌、自然科学・工学・医学系が1,716誌となっている。
現在は電子ジャーナル化されていないタイトルについても、今後新たに電子ジャーナル化されれば、それは自動的に導入対象となる。
但し、国内誌については提供例が少ないことから、当面の整備対象を外国雑誌としている。
b.全タイトルアクセス
利用できる学術雑誌コンテンツを拡大するために、全タイトルアクセスのサービスも積極的に導入する。
上述のように、本学の継続洋雑誌数は相当減少しており、全タイトルアクセスの導入は、その減少を回復させる効果もある。

③電子ジャーナルの提供形態
  電子ジャーナル(論文単位ではfull textとも言う)の提供形態を類型化すると以下の表のようになり、提供形態が多様であることがわかる。
  電子ジャーナルは出版社だけでなく、アグリゲータといわれる電子ジャーナルだけを提供している業者からも入手可能である。個々のケースに応じた対応が必要となる。
提 供 形 態
%

 






 
 
 

タイトル毎の購入

印刷体にバンドルされているもの
 *印刷体を購読すればオンラインアクセスが可能となる。

  26%
印刷体購読が条件となっているもの
 *印刷体を含むオンライン価格だけが設定されてい。

  12%
電子ジャーナル価格が設定されているもの      
  62%
全タイトルアクセス
  購読誌、非購読誌を含めて出版社が提供する全ての電子ジャーナルを利用できるサービスで、エルゼビア社、ワイリー社、シュプリンガー社、ブラックウェル社等が提供している








 
出版社、学会以外で電子ジャーナルだけを提供する業者

パッケージ購読が条件となっているもの
  BioOne, EBSCOhost, ProQuest等

個々のタイトル毎に購入可能なもの
  HighWire, MUSE

 
④電子ジャーナル導入の財源
  外国雑誌を電子ジャーナル化するにあたっては、安定的な利用環境を維持することが不可欠である。そのため、電子ジャーナル購入経費は、共通経費化するという基本方針が立てられている。提言では、「2002年購読実績」と「最低拠出額」という二つの要素の組み合わせに基づいて算出した部局毎の負担額を電子ジャーナル購入経費として共通経費化する方法を提案している。しかし、共通経費化の方法については議論のあるところであり提案は当面平成15年度〜17年度の3年間の実施方法である。平成18年度以降の財源のあり方については、実施結果を踏まえて見直しを行うこととしている。
  また、全タイトルアクセスについては、新たに発生する経費であることから、中央財源からの措置を提案している。

2)Web of Science等のデータベース
① 整備の対象
  Web of Science及びOEDについては、上述したように平成13年度に導入経費を措置していただいたところであり、今後も利用を続する必要がある。また、本学ではMedline, BA on CD, PsycINFO, CA on CD等9種のデータベースを導入しているが、現状の運用方法には問題があり、改めて本学における学術研究コンテンツ整備の一環という観点から、整備すべきデータベースの見直しを行う必要があるとした。

② 財源
  平成13年度のWeb of Science経費は、間接経費により措置されたが、平成14年度以降についても中央財源による措置を提案している。また、その他のデータベースについては、現在受益者負担により運用している。提言では、これに代わる財源のあり方を示すまでに至っていないが、整備すべきデータベースの見直しと合わせて、経費負担のあり方についても見直す必要があると提案している。

3 平成14年度の対応
  提言のなかで提案された新しい枠組みが大学の方針として承認されると平成15年度から実施されることになる。したがって、平成14年度は従来どおりということになるが、学術研究コンテンツ関連では以下の整備を実施する。

 
区分
コンテンツ
 

 
 
 
 
 

電子ジャーナル

JSTOR

Science Direct(Elsevier)
 (全タイトルアクセス)

InterScience(Wily)
 (全タイトルアクセス)

LINK(Springer)
 (全タイトルアクセス)

Synergy(Blackwell)
 (全タイトルアクセス)

継続

継続
 

新規

 

新規
 

新規

 

データベース

Web of Science

JCR

 
OED
継続

継続

 
継続
  平成14年度で目新しいのは、全タイトルアクセスの拡大である。Science Directに加えて、3社のサービスを導入することによって、約1,800タイトルの非購読外国雑誌がオンラインで利用可能となり、大幅な購読タイトル増が実現する。
  また、平成14年度から、文部科学省において「電子ジャーナル導入経費」が措置されることになったとの朗報がある。この経費の趣旨は、これを呼び水として学内において財源を確保し、電子ジャーナル導入を拡大することにあるとされている。この経費が配分された段階で、本学においてもこの趣旨に則り、電子ジャーナルの導入拡大を図りたい。

  おわりに
提言では、とくに財源について全く新しい枠組みを提案した。図書館委員会における審議では、問題点の指摘や要望の表明はあったものの、基本的に全部局の賛同を得ることができた。この提言が大学全体の方針として承認され、提案どおり平成15年度から実施されることが強く望まれる。
学術雑誌は、学術コミュニケーションの基礎であるが、学術雑誌を巡る状況は極めて深刻で、本学においても継続的な価格上昇によって購読誌数は減少し続けている。
カンザス大学の学長David E. Shulenburger氏は、学術出版の市場が、量の増加(1986年から1999年までの雑誌全体の増加率は55%)にもかかわらず、価格が高騰する(同期間の学術雑誌の価格上昇率は207%)特異な市場であるとし、その要因が大手商業出版社による非弾力的な価格設定にあると指摘する。
http://www.ku.edu/~provost/Papers/unesco3.htm
当然のことながら電子ジャーナルも学術雑誌として全く同じ状況にあることを認識し、整備を進める必要がある。学術研究コンテンツが学術研究・教育に不可欠であるとはいえ、手当できる予算には限りがある。可能な限り予算を効果的に運用し、本学の研究者、学生ができる限り多くの学術研究コンテンツにアクセスできる対応が求められている。
  最後になりましたが、計9回開催された小委員会において熱心に議論し、提言をまとめていただきました吉野委員長はじめ小委員会の先生方、また、各部局における検討と意見の取りまとめにご尽力いただきました図書館委員会の委員の先生方に深く感謝申し上げます。


◆次の記事へ移る
◆目次へ戻る