北大における電子ジャーナル事情
                                                         
附属図書館情報管理課雑誌受入掛 片山俊治

 仕事がら電子ジャーナルに関わっていますと,利用者から「この雑誌は北大で買っているのに,なぜ電子ジャーナルを見ることができないのか」という問合わせを受けることがあります。「雑誌を買っているのだから,その電子ジャーナルも利用できて当然」と思われているのかもしれません。確かにそういう例は多く,間違いとはいえないのですが,一方において雑誌を買っていても利用できない電子ジャーナルがあるのも事実です。そのあたりの事情も含め,本学における電子ジャーナルの現状について紹介したいと思います。

1.どんな電子ジャーナルが使えるのでしょうか
 図書館ホームページの電子ジャーナルというページを約1年半ぶりに全面改訂しました。

                                                                                                                    電子ジャーナルのページ http://www.lib.hokudai.ac.jp/item/e_journal.html/

 そこには現在電子ジャーナルが1,850タイトルほど登録されていて,そのうち論文まで読めるものは国内雑誌で30,外国雑誌で1,700タイトルほどあります。国際的学術雑誌の出版状況を反映してか大半が外国雑誌のものとなっています。
 そこで便宜的に外国雑誌の電子ジャーナルを販売方法の違いによって4つのパターンに分け,それに関連づけて本学で使える電子ジャーナルの状況を説明したいと思います。なお,文章中で使っている冊子体という表現は紙に印刷された雑誌のことを指しています。
   パターン1 冊子体価格で販売
   パターン2 冊子体価格に上乗せしたセット価格で販売
   パターン3 電子ジャーナル価格で販売
   パターン4 複数の電子ジャーナルを包括したパッケージ価格で販売
 パターン1の電子ジャーナルは言い換えますと「冊子体を買えば利用できる」というものです。現時点では本学で使える電子ジャーナルはこのパターンのものがほとんどといってよいので,冒頭での話のように電子ジャーナルとはそういうものだと思われている利用者は結構多いかもしれません。
 パターン2は冊子体と電子ジャーナルをセットにして販売するもので,セット価格は通常冊子体価格に比べ若干割高(1〜3割程度)となっています。
 パターン3は電子ジャーナルとして単体で販売しているものです。価格的には冊子体より低く設定される傾向にあり,購入コストだけを見れば安く情報を手に入れることが可能です。
 パターン4は複数の電子ジャーナルをパッケージとしてまとめて販売しているもので,中にはバラ売りしないものがあります。
 パターン2〜3の電子ジャーナルを使うためにはコスト面での負担がかかることもあって本学では数が少なく,ここに該当する電子ジャーナルのほとんどを利用できないのが実状です。冊子体を買っていて利用できない電子ジャーナルの多くはこれに当ります。
   本学で現在利用している電子ジャーナルのうち半分はパターン1のもので,残りの半分を「サイエンス・ダイレクト」というサービスで提供する電子ジャーナルが占めています。北大ではこのサービスを1999年8月から利用しており,現在のところ2001年12月末まで利用できることが確定しています。本来「サイエンス・ダイレクト」は上記のパターンでいうと4に該当する商品ですが,出版社の特別プログラムによって期間限定でパターン1に準じた利用が可能となっています。

                 
                      サイエンス・ダイレクトのホームページ
                        http://www.sciencedirect.com/
 
2.どのようにして電子ジャーナルは使えるようになるのでしょうか
 ところで電子ジャーナルは利用する権利を持っていても,実際には利用のための登録手続をしなければ使えません。そこで,その手続についても少しお話しします。
 電子ジャーナルは登録の際に利用範囲を制限されるのが普通です。インターネットを通じてどこからでも利用されてしまうと出版社は期待した利益を回収できなくなるからです。出版社が認めている利用範囲には大学あるいはキャンパスといった広い範囲にわたるものから,特定端末だけといった非常に限定されたものまであります。またカバーする範囲に応じて料金が段階的に設定されていることもあります。利用範囲を制限する方法として最も一般的なのはネットワーク管理上設定されているIPアドレスを利用するもので,他にもIDとパスワードの入力によって制限するものなどがあります。
 図書館で登録をする場合,特別な理由がない限り,できるだけ多くの利用者が使えるようにすることを心がけています。ただ先ほど触れたように出版社の条件によっては一部しか利用できないケースもありますので,その点はご理解とご協力をいただきたいと思います。登録後出版社が認証すれば電子ジャーナルを使えるようになります。こうした手続を経て図書館の電子ジャーナルというページにタイトルが並ぶことになるわけです。

3.せっかくですから電子ジャーナルを使ってみませんか
 何かの研究をしたりレポートを作成する際に必要な情報を雑誌から手に入れる場合,次のような行動をとることがあります。
対象となるテーマに関係しそうな雑誌論文を探す。
その論文を掲載している雑誌を確認する。
その雑誌が手元にない時は所蔵先を調べる。
所蔵している場所へ行って論文を読んだりコピーを取ったりする。
もし電子ジャーナルをうまく利用することができれば,時間や場所をあまり気にすることなく,上記一連の作業をデスクトップで行なうことが可能になります。もちろん,電子ジャーナルで必要な情報すべてを手に入れることは不可能ですが,情報収集のための選択肢のひとつとして利用してみてはいかがでしょうか。

           
               電子ジャーナルJBC ONLINE(Journal of Biological Chemistry)のホームページ
                             http://www.jbc.org/

4.どのくらい電子ジャーナルは使われているのでしょうか
 本学でどれだけ電子ジャーナルが利用されているのか,正直なところ,まだ実態がよくつかめていません。ただ「サイエンス・ダイレクト」という電子ジャーナルサービスの利用状況については出版社からデータを入手できましたので一部紹介します。
 次のグラフは本学における2000年4月〜9月までの「サイエンス・ダイレクト」の利用状況です。縦軸が論文(フルテキスト)のダウンロード件数で,横軸が月を表しています。少なくとも「サイエンス・ダイレクト」を利用して北大全体で毎月一万件近い論文がダウンロードされていることがわかります。

                 


5.なぜ電子ジャーナルは時々使えなくなるのでしょうか
 電子ジャーナルを利用していると,今まで何ともなかったのに急に使えなくなったということが時々起こります。いくつか
の事例について一部恥を忍んで紹介します。

1)ネットワーク障害が発生した
   電子ジャーナルはインターネットで配信されているため,当然ネットワークに障害が発生すると使えなくなります。回
  復を待つしかありませんが,こういった点に不安を持たれる方は多いかもしれません。障害とはいえないのですが,ネッ
  トワークが混雑していて電子ジャーナルを提供しているサイトへなかなか繋がらないという場合もあります。
 
2)利用条件の範囲を超えた
   同時アクセス数という条件があります。同一利用範囲内で特定の電子ジャーナルに対し同時にアクセスできる数の制限設
 けたものです。特に制限がないものから同時に一人しか利用できないというものまであります。同時アクセス数が1の場合
  ,誰かが使っていると,その人の利用が終わるまで他の人は待たなければなりません。

3)出版社の方針が変わった
   電子ジャーナルは商品としてまだ十分に成熟していないせいか,出版社によっては突然販売方法を変更する場合があり
   ます。そのため昨年は冊子体を買えば電子ジャーナルが利用できたのに,今年からは別に料金を支払わなければ使えなく
   なったということがあります。

4)購入業者を変更した
  本学では電子ジャーナルの利用は冊子体の購入と直接関係することが多いため,事情があって購入業者を変更した時に出
  社の電子ジャーナル登録データの切替がうまくいかず使えなくなってしまうことがあります。

5)登録をしていなかった
  登録しなければ電子ジャーナルは利用できないと説明しましたが,原則的には契約上毎年登録作業を行なう必要がありま
 す。また契約途中で新たに電子ジャーナルを提供し始めた雑誌の場合は,その時点で登録しておく必要があります。この作
 業を忘れると期限切れで利用できなくなったり,いつまでたっても利用できないことになります。
  担当者としては,上記4)や5)の理由によって使えなくなることがないよう心がけていますが,電子ジャーナルを利用
 ていて「何か変だぞ」と思われましたら遠慮なく 連絡してください。
      (連絡先:雑誌受入掛 email: gj@lib.hokudai.ac.jp)

6.これから電子ジャーナルはどうなっていくのでしょうか
 電子ジャーナルは,コンピュータ技術の発展に伴って生まれ,インターネットの普及によって成長を遂げてきました。冊子体と比べた場合,電子ジャーナルが持つ一番大きなメリットはインターネットやデジタル情報の特性を活かした利用方法を創造できることです。この動きは学術雑誌の世界において特に顕著で,電子ジャーナル化が学術情報流通のスピードアップとコストダウンという問題への解決手段と目されているせいか,もはやこの流れに逆らえないというのが一般的な見方ですし,担当者としての実感でもあります。好むと好まざるとに関わらず,電子ジャーナルや電子出版といった学術情報電子化の流れは,図書館はもちろんのこと,大学の学術情報流通のあり方を大きく変えるパワーを持ちはじめたという風にも感じます。ただ,この流れに一方的に巻き込まれるのではなく,教育や研究に必要な学術情報へのアクセスを将来にわたっていかに確保していくかという課題にしっかりと取り組んでいく必要があると考えています。


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