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一昨年度から「多文化交流科目」という授業を始め、一貫して異文化理解、あるいは異文化交流の問題を扱ってきた。難しいのは、異文化理解に関わる理論と異文化交流の実践を教室の内外でどうつなぐかということであり、このことにずっと悩んできた。今年になってからふと「現象学」の考え方からこの問題にアプローチしてはどうだろうかと思ってこの本を読んでみたら、まさに第四章・第五章を中心として示唆に富む記述が満ちていてありがたい思いがした。こうしたアプローチは、僕の曖昧な記憶では確かクラウス・ヘルトが手をつけ、日本では小川侃先生(元京都大学)が触れていたように思うが、田口先生のこの本は現象学の難しい用語を極力使わず、<読みながら考える>ことがいつの間にか進むように書かれている点で、現象学への手引きであるのみならず哲学することに読者を誘う優れた書物であると思う。将来哲学・倫理学を専攻したいと考えている人だけでなく、「考える」(あるいは「考えを深める」)ということを考えてみたい人、僕のように異文化交流や異文化理解に関心がある人に広く薦めたい。
ただ、ここまで(考えながら読めば)わかりやすくなっていても最後の第七章「間主観性」は相当に難しい。その場合には、六章まで読んでから先に終章「回顧と梗概」を読むのも一つの手かもしれない。
最後に敢えて余計事を書くなら、この本の『現象学という思考』という表題は筑摩書房の編集者が考えたものだそうだが、本の内容(とフッサールの意図)を考えると『現象学という“構え”』の方がいいのではないかと思った。 |