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西田哲学の難しさについてはその一端を、以前この「本は脳を育てる」に『善の研究』を推薦したときに書いておいた。この『西田幾多郎』は、現在西田幾多郎研究の世界水準を牽引する著者が、単に「伝記」=時間の流れの中である人物がなしたあれこれのことを書くだけでなく、まさに西田を一つの”出来事”とし、それに西田哲学を実践してみせることによって新たな西田像を明らかにしたものである。西田の伝記はこれまでさまざまなものがあったけれども、西田自身の歴史哲学的思索によって書かれた西田には、これまでのものにはない新鮮な人間像が見られる。「哲学」という特殊ヨーロッパ的な思惟と向かい合った西田の営為を読むことを通して日本と世界のこれからのあり方を考えるヒントをつかんでほしい。特に、「付論 欧米言語圏での西田哲学研究」は、「付論」と書いてあるが実は重要な問題提起をしているので、読み飛ばさないでほしい。付け加えると、実は、この本を著者が執筆する際に僕も少しだけお手伝いをさせていただいた。その意味でいくらかの愛着もあってここに推薦した次第である。
なお、この本も入っている「ミネルヴァ日本評伝選」は、実に読み応えのあるシリーズである。図書館でも多くの本を購入しているので興味を持った人物についての本は是非読むようお勧めする。 |