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日本文化論というグループに括られる書物はものすごく(と言っていいほど)多くのものが出版されていて、他方、それらに対する批判の書も少なからず出されている。大学で日本文化を専門として学び研究する人間にとってそうした批判に目を通しておくのは当然だが、小谷野氏は、「日本文化論批判は行われているものの、批判のほうはいっこうに広まらないのである」と嘆いており、それがこの本を書いた動機の一部となっている。
内容は、土居健郎『「甘え」の構造』やベネディクト『菊と刀』以来の日本文化論をめぐる研究状況に対するやや毒舌めいた批判であるが、新書版という-研究者よりは一般読者に向けて書かれている-性格のためか、専門的に新しい発見を多く述べているものではない。
ただ、この本(特に前半)には、具体的な著作を批判する中で、その批判的読みに即して一見正しそうだがその実怪しい議論の実態を見抜く読み方や発想、思考の持ちようがいろいろと書かれており、大学初年次の学生にはむしろそうした点に意を払いながら読んでもらえればと思ってこの「本は脳を育てる」に推薦することにした次第である。 |