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北朝鮮の核実験に触発されて、与党の有力者から、わが国も核を保有するべきだ、というような議論が出ました。政府の見解は、非核三原則を貫く、しかし言論は自由なので、将来のことをあれこれ思い巡らすなかに「核武装」という選択肢も残しておく、ということであったようです。ここで肝心なことからわざと目を背けていることに気づきます。この問題のまえに、当然、アメリカの覇権にどう対処するべきか、という議論を済ませておかなければならないからです。(実際に核武装すれば、イスラエルという例外がありますが、アメリカの逆鱗に触れることは確実です。)
チョムスキー氏は、生成文法を創始した言語学者としてつとに有名ですが、積極的に政治的発言をすることでもよく知られています。この著書は、昨秋の国連総会でベネズエラ大統領が米国大統領を「悪魔」呼ばわりするときに、真実はこの本にありと推奨したことから、特に(欧米では)部数を伸ばしているそうです。
アメリカはレーガン大統領のときから対テロ戦争を標榜していますが、「テロ」という概念を公平に平等に定義しようとすればするほど、「テロ」という武器を最大限に利用しているのは他ならぬアメリカという国だということがこの本で主張されています。したがって、公平平等の原則(民主主義)は破綻します。(アメリカとその同盟国の暴力は正当であり、アメリカとその同盟国への暴力はテロであると。)国際社会にあっては、ソ連崩壊の後、武力を反映した、アメリカを頂点とする序列のもとで、平和と安定を実現するというのが、アメリカの国是となっています。(したがって、そのうちに国連は、世界銀行などと同様、アメリカ国務省の下部組織になるのでしょう。)
Chomsky氏の視野はもっとひろいものです。誕生以来十万年(種の平均寿命)を経て、今、人類という種は岐路に立たされている、このまま種の絶滅への道を歩むのか、生存への道を選択できるのか、というのです。このまま手を拱いていれば、いづれ全世界を掌握することになるアメリカ帝国のもと、テロとテロの相克に明け暮れて、今のイラクの惨状を現前させ、嘗てのローマ帝国と同じ運命をたどることになる、今度は全人類と地球環境を道連れとして。
著者の見解は、現実の世界へ公平な眼差しを向け、その理解に論理の尺度を適用した結果であります。これを肯う人にも直ちには信じられない人にも是非読んでもらいたく推薦します。(なぜか知りませんがこういう傾向の本の訳本はあまり読みやすいとはいえません。同じ苦労をするなら、原著「Hegemony or Survival : America's quest for global dominance」を読むほうがましだと思うひとがいるかも知れません。) |