本は脳を育てる ~北大教職員による新入生への推薦図書~ 

推薦者 :  岸本晶孝      所属 :  理学研究科      身分 :       研究分野 : 
科学を志すとは
タイトル(書名) 皇帝の新しい心 : コンピュータ・心・物理法則
著者 ロジャー・ペンローズ
出版者 みすず書房
出版年 1994
ISBN 4622040964
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推薦コメント

科学を探究するとはこういうことかと思わせる書物です。つまり、科学の本来目的とするところは、人間とその周りに広がる世界に対する理解を深めることであるはずです。著者はきっと若いときからその科学の目的を見据えて学者としての道を歩んで来たのでしょう。なぜなら、自分の足跡をまとめるだけで、科学の発展とそれに伴う哲学上の変遷を読者に提示することができて、多分現代におけるもっとも困難な問題、心の問題に取り組めるというのですから。(具体的には、論理学、計算理論、量子論、宇宙論などを扱ったうえで、脳と意識を論じています。)
 ペンローズ氏は高名な物理学者数学者で、本人の天才的力量はさりながら、同時に西洋における学問の永い伝統を背負っていると感じられます。現代では、ともすると、学問の細分化された個々の分野で日夜刻苦勉励しそれなりの成果をあげるのが、学者の世界からも社会からも期待されています。陳腐な比喩を使えば、学問とか研究というものも社会に奉仕するものである以上、社会を動かす大きな機関の歯車の(歯の)ひとつとして活動することが要求されています。伝統の浅いこの国のような社会では、これに対抗すべき哲学の根があまりに浅くて、こういう正論のまえに、沈黙するか、迎合するかの選択肢しか残されていないようです。(管見によれば、西洋では、キリスト教の影響が隅々にまで行き渡っていて、人々の宗教的情念をしてときには科学に干渉させるとはいえ、その分だけ様々な価値観に対する許容度をましているようにおもえます。)正直なところわたしは小さな歯車の欠け始めた歯に過ぎないのですが、若いひとには科学というものの諸相と奥行きを感知して今後への指針としてもらいたく、この書を推薦します。
 こういう欧米で出版された英語の科学的読み物は一般的にとても読みやすくできています。著者と編集者との共同作業によって十分に読者への配慮が行き届いているようなのです。英語という言語上の多少の困難がちょうどうまい具合に内容を咀嚼させてくれるかもしれませんから、熟読玩味したいというひとには、原著「The Emperor’s New Mind」もお勧めです。Penrose氏はまた続編「Shadows of the Mind」を著わしています。

#「Shadows of the Mind」の日本語訳『心の影 : 意識をめぐる未知の科学を探る / ロジャー・ペンローズ [著] ; 林一訳』も出版されています。(北分館2007/06/21)

※推薦者のプロフィールは当時のものです。

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